賃金未払いや劣悪な居住環境...1300万円引き出しも
これまでの裁判で原告側は、原告らに対する賃金の一部未払いやプレハブ小屋に住まわせるといった劣悪な居住環境、牧場側から原告らに不十分な食事しか与えられていないなどと被害を訴えており、合計約9400万円あまりの損害賠償を求めている。今年2月21日に開かれた前回の口頭弁論では、原告の定期預金口座から1300万円が全額引き出されていることも判明。牧場側が車を2台購入し、2台目の車を購入した後に、原告2人の口座から計100万円の出金も確認されたとした。
ただし、牧場側は一貫して横領を認めていない。また、原告側が「牧場の経営者でもある故・遠藤昭雄恵庭市議会議員を忖度しようと、恵庭市はこれらの虐待や横領の事実を隠ぺいした」と訴えていることについても、恵庭市側は「隠ぺいはしていないし、(遠藤氏に対して)忖度することもしていない」と否定している。
印鑑を勝手に押印して労災請求、補償金も横領?
5月13日の口頭弁論には、原告のひとり佐藤さん(仮名)も出廷した。一方、牧場側と恵庭市側は体調不良を理由として法廷に姿を現さなかった。被告側が不在の中、原告側代理人弁護士を務める神坂正美弁護士が陳述した。陳述によると、前回の裁判が終わった後に追加で調査をしたところ、原告のひとりが2006年5月に左足太もも、13年3月に右足の関節を骨折。牧場側は労働基準監督署に労災として治療費を申請していたという。そしてこのうち2006年の骨折の後、5月から10月までの計139日間、国から給料の一部の補償として45万3000円あまりを受給していたことも分かった。
これらを請求するには、本人の署名と押印が必要になる。しかし、当該請求をしたとされる原告のひとりは印鑑を持っておらず、自らの名前を漢字で小さく書くこともできない。さらに、請求した記憶もなく補償金も受け取っていないというのだ。
そのうえで、神坂弁護士は「この労災申請は遠藤牧場による私文書偽造罪と、国に対する詐欺罪という犯罪にあたる可能性がとても高い。これまで『原告は家族のようなもので労働者ではない』としてきた遠藤牧場が、労災申請を行っていたことは、原告らが労働者であることを裏付ける事実だ」と指摘した。
「裁判が何も進まない。やきもきしている」
「直接、連絡しないというのはいかがなものか。これまでの弁護士生活では初めてのことだ」裁判終了後に開いた報告集会。弁護団の中島哲弁護士はあきれた表情で困惑していた。中島弁護士によると、13日の午前10時ごろに裁判所から弁護士事務所に電話があり、市側からは前日の夕方、牧場側からは13日の朝に「裁判を欠席する」と連絡を受けた。しかし、被告側から原告側弁護士には何も連絡がなく、今回の裁判期日は中途半端な形で終わることになった。
集会に同席した佐藤さんも「(裁判を)休んだのはダメだと思う。(休むと)はっきり正直に言えばいいのに」と話した。
弁護団長を務める船山暁子弁護士は、「今日は(裁判が)何も進まなかった。前回の裁判で、被告側は『(牧場側の関係者の)陳述書を提出する』と言っており、ようやく事実関係がはっきりすると想定していた。
被告側が出廷しなかったため、次回の裁判期日は未定だ。今後は5月末から6月上旬をめどに非公開の進行協議を行い、期日を決めるとしている。
小林英介
1996年北海道滝川市生まれ、札幌市在住。ライター・記者。北海道を中心として、社会問題や企業・団体等の不祥事、交通問題、ビジネスなどについて取材。酒と阪神タイガースをこよなく愛している。