「スカウト後、仕事をとりやすくなるからエステを体験してきてといって、結果、高額の契約を結ばされるケースもあるようです」。こう実態を明かすのは、詐欺に詳しいルポライターの多田文明氏。同氏が、目的転換型詐欺の手口を解説する。
※この記事は悪質商法コラムニスト・多田文明氏の書籍『最新の手口から紐解く 詐欺師の「罠」の見抜き方 悪党に騙されない40の心得』(CLAP)より一部抜粋・再構成しています。
キャッチセールスのアンケート「裏の狙い」とは
勧誘の手法を転換し、警戒を解くだけでなく、その目的自体をすり替え、ターゲットを欺くパターンもある。いわゆる、裏の目的を達成するために、表側には相手が興味を引きそうな衣をまとうのである。
若者を狙う手口のひとつに、「キャッチセールス」がある。
おそらく多くの人は、次のような手口でやってくることを知っていることだろう。
道を歩いている人に、「こんにちは、アンケートをお願いします」と声をかける。
「はい」と足を止めると、「今、関心のあることをお聞きしてもよいですか?」と尋ねられる。
キャッチが手にするアンケートには、「映画、旅行、占い、英会話、人間関係」など、さまざまな項目が並んでいる。
それに対して、ひとつひとつ答えていくなかで、キャッチらはターゲットの事情を把握しようとしてくる。
そしてひと通り質問を終えると、用紙を相手に渡し、「住所と電話番号をお書きください」と、さも決まり事のようにして書かせる。
「ありがとうございます」
こうして、個人情報を抜き取られる。
アンケートの後にどんな展開が待っているのか…
後日、電話がかかってくる。「今日は、この後、時間はありませんか?」
そう尋ねられて、「ええ」と答えると、「占いに関心があるとあったので、ぜひうちの占い場所に来てみませんか?」と、その日のうちに勧誘場所に誘われて、高額な自己啓発セミナーなどの契約を強いられる。
これが「お肌のアンケート」だと、「無料でお肌診断と、エステ体験ができますので、来てみませんか?」と誘われる。
勧誘先では、肌を見る機械を使い、画像を見せられながら「このままだと、将来肌がボロボロになります」と不安を煽るようなことを繰り返し言われ、冷静さを失い、契約をしてしまうことになる。
いずれの場合も、相手の質問に答えて親しくなり、個人情報も与えてしまったために、断り切れなくなり、そのまま勧誘先に連れていかれて、高額な契約をさせられている。
それゆえ、商店が並ぶアーケード街では「アンケートなどと言って個人情報を聞き出そうとするキャッチセールスには気をつけてください」といった注意喚起が街中放送で流されている。
これは私も今から10年ほど前から、テレビや講演などで、口を酸っぱくして注意してきたことである。
もちろん、今もそうした形での勧誘もあるが、手口はだいぶ変わってきているのである。
「雑誌モデルになりませんか?」勧誘の衣をひっくり返すとき
「あなた、かわいいわね。雑誌のモデルになりませんか?」スカウトマンらしき人物が、街頭で女性に声をかけてくる。
「ちょっと写真を撮らせてもらってよいですか?」
「ええ」
そして、写真をパチリと撮る。
以前は、アンケートの最後に無理やりに個人情報を聞くという形だったが、今は自然な形で「芸能事務所で審査して、連絡しますから、連絡先、教えてもらえるかな?」と、すんなりと相手の電話番号やラインIDなどの連絡先をゲットする。
すると、その夜に電話がかかってくる。
「審査が通りました。ぜひ、登録して所属タレントになってくださいね」
「はい」
翌日、女性は喜んで、事務所を訪れる。
すると、「今回は、美容師がモデルを選ぶ冊子に写真を掲載したいと思っている。カットモデルの仕事ができますよ」と言い、事務所の人間は、「ぜひ、今以上に美しくなってほしいので、美容クリニックに行ってもらえないか?」と言う。
女性が勧められた脱毛の無料体験に行くと、体験後レーザー脱毛を勧められた。
そして、勧誘者から「本来は100万円以上するのですが、今日契約してくれれば、半額にできますよ」と言われ、契約してしまっている。
だが、その後カットモデルの仕事はなかったという。
他にも、「素顔を撮影するのでフェイシャルエステを受けるように」と言われ、エステ店に行き、全身脱毛のコースを勧められた事例もある。
つまり、「モデル」という言葉を釣り餌にして、高額なエステなどの契約をさせるのが目的なのだ。
昨今の「キャッチセールス」は、アンケート調査などというものではなく、本来の目的を隠しながら「スカウト」という形でやってくる。
いまは、AKB48、乃木坂46などの女性アイドルグループが人気だ。
数年前までごく普通に暮らしていた女の子たちが、芸能人になり、華々しく活躍している。
その姿を見て、自分も将来そうなりたいと願う女性は多い。
そこに付け込んで、悪質業者はスカウトマンの仮面をかぶって近づいてくる。
だが、本当の目的は裏にある。それゆえ、勧誘現場にいくと、勧誘の衣をくるっと反転させ、エステ契約の誘いをしてくるというわけだ。
ワルたちは、目線を逸らせることが得意技だが、さらに勧誘の衣をリバーシブルしながらやってくることも、肝に銘じておく必要がある。