UberEatsの配達員AさんとBさんの2人が、理不尽なアカウント停止を受けたとして、Uber Eats Japan合同会社を相手に損害賠償を請求していた訴訟で、和解が成立。
原告側代理人らが5月19日、都内で会見を開いた。
和解内容は、2人に解決金を支払う(金額は非公表)というもので、4月11日付に成立した。

Uber側は「ガイドライン違反」を主張

Aさんは2016年1月から配達員としての稼働を開始。2022年8月3日にアカウントを停止されたが、停止前の2年程度は専業の配達員として働いていた。
一方、Bさんは2021年2月ごろから稼働を開始し、2022年5月16日の夕方ごろにアプリを開いたところ、配達業務を開始できない状況を確認。Uber側からは同18日に永久停止を告げられた。
Uber側はAさんとBさんのアカウント停止措置の理由について「コミュニティガイドライン違反」があったと説明しているが、原告側は「ガイドライン違反に当てはまる事由はなかった」と主張している。
AさんとBさんはそれぞれ、日本労働弁護団に相談。棗一郎(なつめ・いちろう)弁護士らの受任後、代理人側が「通知書」をUber側に送付したところ、Aさんのアカウントは回復。ただ、Bさんのアカウントは、現在も復旧されていない。

Aさんのアカウント停止「誤検知」によるもの

原告らは2023年3月30日付で、東京簡易裁判所にUber側を相手に損害賠償やBさんの地位の確認を求めた調停を申し立てた。
Uber側はAさんのアカウント停止理由について、「システムの誤検知による誤判定」と説明。一方Bさんのガイドライン違反については、客観的証拠の開示を求めたが「応じられない」と回答していた。
結局、調停はUber側が和解の前提条件として「口外禁止条項」を提示したため、2023年8月28日に不成立となり、原告側が同様の訴訟を2023年9月7日、東京地裁に提起していた。

「本来は解雇事件だが…」

棗弁護士は「プラットフォームビジネスで働く人の多くは業務委託や個人事業主だが、アカウント停止というのは、いわゆる普通の正社員であれば、いわば解雇にあたることだ」と指摘。次のように述べた。

「われわれとしては、本当は解雇事件としてやりたいところでもあります。
ですが、AmazonやUberといったプラットフォームで働く労働者の、労働者性に関する議論は極めて不十分で、今ようやく、厚労省の研究会で議論が行われているという状態です。
こうした状況で、解雇事件として、不当解雇期間中の賃金を請求するとなると、5、6年くらいかかり、下手すると高裁までいって、10年レベルのたたかいになってしまいます。
ですので、今回はUber側がガイドライン違反を理由に、原告アカウントの停止に踏み切ったことに対して、『停止事由に当てはまらない』ことを調停で訴え、地裁への提訴へと進みました。これにより早期解決につながったという点は、将来参考になるのではないでしょうか」

「『一方的な停止は許されない』と裁判所が判断」

また、同じく代理人を務める川上資人(かわかみ・よしひと)弁護士も、この和解の意義について、以下のようにコメントした。
「今回は和解が成立したことで、判決までは至りませんでしたが、『一方的なアカウントの停止は許されない』と裁判所が判断したものだと理解しています。
つまり、裁判所もUber側に対して、そのような判決が出てしまうという話を通しており、それによってUber側が和解を選択したのではないか。
プラットフォーム労働では、運営側によって、恣意(しい)的かつ突然、アカウントを停止するという運用が行われており、停止理由の説明を求めても、何の話し合いにも応じないといった手法が横行しています。
そして、これは、働く人にとって、突然収入の道が絶たれてしまうということを意味します。
今回の和解は、契約を無視した、突然のアカウント停止は債務不履行であり、違法状態だと、裁判所がはっきりさせた点で意義がある」

「フリーランス新法に明確に違反する行為」

また、同様の相談はほかにも寄せられているといい、次のように語気を強めた。
「いわゆるフリーランス新法16条では、契約の解除時には30日前までの事前の予告、理由の提示が求められていますが、今回のようなケースは明確な違反だと思います。
にもかかわらず、本人が何度連絡しても、アカウントは停止されたまま、何の説明もないのに、弁護士名で内容通知を送ると、手のひらを返したようにアカウントが復旧されるという事態が続いています。
そして、こうした違法行為がまかり通っている一番の原因は、Uber側による、不当な団体交渉の拒否にあります」
Uberの配達員らによる「ウーバーイーツユニオン」は、Uber側に対して団体交渉に応じるよう求めていたが、Uber側はこれを拒否。東京都労働委員会は団交拒否は違法であると認定したが、現在も中央労働委員会で審査が続いている。

「最終的かつ重要な判断、人間がまだ必要」

原告のAさんは会見の実施にあわせ、以下のようなコメントを寄せた。
「私はアカウントが停止されるまで、配達員としては最高評価であるダイヤモンドクラスを毎月獲得していました。
Uber側とはアカウントの停止後、複数回連絡をとっていましたが、その際は「詳細理由の開示はできない」と言っていたのにもかかわらず、弁護士を経由すると。即時に判断が覆ったことから、Uber側に対して大きな不信感を覚えました。
AIやアルゴリズムが判断を下す場合、その判断基準や、異議申し立て手続きの整備は必須です。
仕事に使用するアカウントの停止といった、最終的かつ重要な判断を下す際には、発展途上のシステムやAIに一存するのではなく、人間の判断がまだ必要だと思い」
なお、弁護士JPニュース編集部の取材に対し、Uber Eats Japan合同会社は次のようにコメントしている。
「和解が成立したことは事実ですが、個別の訴訟内容については原則して公開しておりません。
Uber Eatsでは、アカウント停止についてお問い合わせいただいた配達パートナーには、調査をし個別に対応しています。
Uber Eatsは、利用規約およびコミュニティガイドラインに違反する行為が確認された場合、アカウントの停止を含む措置を講じております。
これらの対応は、すべて当社の定める規定に基づき、客観的な基準に従い適切に実施しております。アカウント停止に関する基準については、透明性を重視し、配達パートナーの皆さまにご理解いただけるよう努めています。
具体的には、アカウント停止の可能性がある事例や、停止を回避するための対応策について、弊社ウェブサイトおよび配達パートナー向けガイドブックにて、詳細な情報を提供しています」


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