東大教授ら「高額接待強要」被害者が告発も大学側は“放置”? 8か月間“動きナシ”に弁護士「重大なコンプライアンス不全」指摘
東京大学の「社会連携講座」の制度の下で、同大学と「カンナビジオール」という大麻由来の成分を活用した、皮膚医療に関する共同研究をしていた2つの一般社団法人「日本化粧品協会」(引地功一代表理事)と「日本中小企業団体連盟(中団連)」(中村賢吾理事長)が16日、東京大学と同大学皮膚科のX教授とY特任准教授を被告として、総額4239万円あまりの損害賠償などを求める訴えを東京地裁に提起した。
「社会連携講座」とは、民間企業が、研究にかかる経費をすべて負担する見返りとして、東大と共同研究を行い、その成果を自社のために活用することができる制度である。

原告側資料によると、X教授とY准教授は、「日本化粧品協会」側に、研究の見返りとして、「高級レストラン」「高級クラブ」「風俗店」等での接待費用を強要し、その費用を支払わせた。また、1500万円あまりを恐喝しようとした。請求内容は、教授らのため支出した接待交際費等、総額約4239万円の損害賠償に加え「社会連携講座」の設置契約・共同研究契約が存続することの確認を求めるもの。
提訴後、原告・日本化粧品協会代表理事の引地功一氏と代理人の髙安聡弁護士が記者会見を行った。引地氏は「(接待の強要等に対し)“ノー”といえなかったことには後悔しかない」と述べた。事態がここまで深刻化した背景は何か。

接待の強要に加え「恐喝」まで…告発したら「契約解除」

原告側資料によると、提訴に至る経緯はおおむね以下の通り。
X教授とY准教授は、共同研究契約の締結の頃から、高級レストランやクラブでの接待を強要。接待要求の内容には、やがて性風俗店での接待も加わった。
また、2024年8月に「殺すぞ」「講座をつぶされたくないなら早く金を持ってこい」「社会的にも抹殺するぞ」などと脅迫し、1500万円を要求。
さらに、共同研究の結果として上がった収益を上納することと、その「計画書」の作成も強要された。
加えて、2024年9月以降、X教授とY准教授は、契約に定められた研究員としての任務を放棄し、一切研究を行わなくなった。
日本化粧品協会は昨年9月に東大のコンプライアンス委員会に対し、X教授とY准教授の行為を告発した。
また、大学側の求めに応じ、根拠資料を電子メール等で送信した。
これに対し、大学側からは現在に至るまで、調査状況や処分の有無の連絡はなく、日本化粧品協会に対する聞き取りもなされていない。
それどころか、大学側は昨年12月、協会に対し研究費5950万円などを請求し、かつ、その後、「未払い」を理由として一方的に契約解除を通告してきた。
しかし、原告側の主張によると、研究費についてはそもそも、福島県からの助成金が出るまで支払いを留保する取り決めになっていた。また、X教授とY准教授が研究をサボタージュしているにもかかわらず研究費全額を請求できるとする、大学側の根拠も不明である。
なお、原告側は、大学側から請求を受けた時点で、これらの反論に加え、X教授とY准教授による不法行為および債務不履行を理由とする損害賠償請求権と「相殺」したことにより、「未払い」は解消されたと主張しており、本件訴訟でも同様の主張を行っている。
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東大医学部付属病院(Caito/PIXTA)

東大内部の深刻な「コンプライアンス不全」の疑い?

東大の教職員倫理規程4条では、利害関係者から教職員が接待や金銭を受けることを禁じている。この点に違反した場合には懲戒事由となる。
また、国立大学の教授・准教授は「みなし公務員」にあたるので(国立大学法人法19条)、接待の強要は刑法上の収賄罪(刑法197条1項)に該当する。加えて、恐喝行為は恐喝未遂罪(同247条)に該当する犯罪行為である。
日本化粧品協会が東大のコンプライアンス委員会に告発を行ったのは昨年9月であり、そこから約8か月が経過している。
この点に関し、弁護士JPニュース編集部が原告代理人・髙安弁護士に見解を求めたところ、髙安弁護士は、自身も民間企業のコンプライアンス担当役員を務めている経験から「東大内部のコンプライアンス不全が、X教授とY准教授による一連の行為を生む温床になっていた可能性がある」と指摘した。
東大教授ら「高額接待強要」被害者が告発も大学側は“放置”? 8か月間“動きナシ”に弁護士「重大なコンプライアンス不全」指摘

原告代理人・髙安聡弁護士(16日東京都内/弁護士JPニュース編集部)

髙安弁護士:「一般企業であれば、コンプライアンス窓口に通報が行われ、担当役員もしくは担当部署が通報内容を知った場合、直ちに調査が行われる。

もし、調査に1か月以上かかっているとなれば、役員会などで必ず『なぜそんなに時間がかかっているのか』『聞き取りをきちんとやっているのか』などと指摘が入る。
本件の場合、膨大な金額が費やされた接待の証拠に加え、恐喝行為の際に録音された音声データも残っているなど、内部規程違反は明白であり、あっという間に懲戒処分が行われなければおかしいはずだ。
にもかかわらず、今日まで懲戒処分がなされないのは、重大なコンプライアンス不全といわざるを得ない。
X教授とY准教授の一連の対応からは、『被害者がコンプライアンス窓口へ行ったところで、ちゃんと機能していないから自分たちが何をやっても大丈夫だ』『とりあえず取れるだけ取って、何かあれば講座をやめてしまえばもう何も言えないだろう』などという考え方が透けて見える」

東大本部法務課へ“質問”を送付したが…

提訴の報道を受けて東大は16日、公式ホームページで「本案件については、その事実関係について、すでに本学において調査を進めております」とのコメントを発表している。
東大教授ら「高額接待強要」被害者が告発も大学側は“放置”? 8か月間“動きナシ”に弁護士「重大なコンプライアンス不全」指摘

提訴を受けての東大のコメント(東大ホームページより)

しかし、告発から今日まで約8か月の間に、東大のコンプライアンス窓口がどのような対応をとったのか、その対応が適切だったか、といったことについては一切言及されていない。
そこで、弁護士JPニュース編集部は16日、原告側の記者会見後に、東大本部法務課に対し、質問を送付し、以下の項目について回答を求めた。
  • 申立てがなされてから今日に至るまで、具体的にどのように対処したのか。
  • 申立人に対する聞き取りを行っていないのは事実か。もしそうであればその理由はどのようなものか。
  • 対処のあり方が、コンプライアンス基本規則17条5項・6項、および19条にのっとったものと考えるか否か。
これに対し、5月20日18時の時点で回答は得られていない。回答があり次第、改めて報じる。



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