高齢者の死亡事故“7割”が「道路横断中」発生…「ドライバーに認識されているだろう」思い込みの落とし穴
目にしない日はないといっても過言でない、交通事故による死者報道。実は交通事故自体はピーク時に比べ、大幅に減っているものの、高齢者にフォーカスすると違った景色が見えてくる。

直近5年をみると、構成率が5割を超え、類型別に見ると、「横断歩道を含む道路の横断中」が約73%と報告されている。
一体なぜ、交通事故における高齢者の割合が高いのか。不審遺体の解剖数で日本1、2を争う高木徹也氏が、豊富な知見から、その要因を解説する。
※この記事は法医学者・高木徹也氏の書籍『こんなことで、死にたくなかった:法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)より一部抜粋・再構成しています。

歩行中の事故が多い日本

日本における交通事故は減り続けている、と思っていませんか?
ピーク時に比べれば、事故全体の発生件数は確かに減っています。
しかし、交通事故による死者数は、この5年はほぼ横ばいです。
より詳細にみると、歩行者の交通事故死者数は2023年になって増えています。2024年はわずかに減少したものの、欧米諸国と比べても、日本は歩行中の交通事故死亡者数の割合が高いのです。

事故死の半数以上が高齢者という事実

2023年の統計では、交通事故による死亡者数の約40%が歩行者で、発生件数、死亡者数ともに65歳以上の高齢者が最多となっています。
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交通事故における高齢者割合の高さは際立っている(出典:警察庁ウェブサイト)

総人口における高齢者の割合が高いことを差し引いても、直近5年の構成率の平均は55%を超えており、非常に多いといえます。
さらに65歳以上の歩行者の死亡事故を類型別に見ると、「横断歩道を含む道路の横断中」が最も多く、約73%と報告されています。

なぜ高齢者の事故死が多いのか

近年、信号機のない横断歩道を渡ろうとしている歩行者がいるにもかかわらず、一時停止しない車両が多いことが社会問題になっています。
歩行中に自動車だけでなく、オートバイや自転車などに衝突されると、低い速度であっても高齢者は容易に転倒し、路面に頭を打ちつけたり、足を骨折したりして、重篤な傷害を被る危険性があります。
事故が発生したら、警察や保険会社は「過失割合」を検討します。交通事故の当事者にどれくらいの責任があるか数値で表すのです。

道路横断中の事故は、圧倒的に自動車側の過失割合が高くなるのですが、ただ、実際は歩行者の信号無視、横断歩道外の横断、飛び出しなどの違反が事故原因であることも少なくありません。

「衰え」も事故に遭いやすい要因

高齢者でよくあるのは、道路を横断する際に、「進行してきた自動車の速度が遅くなった」と勘違いしてしまうケースです。「運転手に認識されているだろう」と思いこんで無理に横断してしまい、衝突されてしまいます。
高齢者は視力や聴力などの感覚が鈍り、体力や反射神経も衰え、さらには交通ルールの理解力、認知力も低下しています。これらが複合的に作用するため、歩行中に事故に遭いやすいのです。
ちなみに、歩行者の交通事故の多くは、自動車の運転手が歩行者を目視で確認しにくくなる夕方の時間帯に発生しています。そもそも目立ちにくい色彩の服装を着がちな高齢者は、余計に自動車側から認識されにくいのでしょう。
自動車の運転手が、必ずしも歩行者を認識しているとは限りません。高齢者の方は、道路を横断する際には明確な意思表示を行ない、自動車の動きや安全をしっかり確認しましょう。
<まとめ>
  • 明るい色の服装や反射材を身につけるなど、目立つ工夫をする
  • 無理な横断や横断歩道外を横断しないように、交通ルールを遵守する
  • 横断の際には意思表示を行ない、自動車の動きを確認してから横断する
【高木徹也】
法医学者。1967年東京都生まれ。
杏林大学法医学教室准教授を経て、2016年4月から東北医科薬科大学の教授に就任。

高齢者の異状死の特徴、浴槽内死亡事例の病態解明などを研究している。
東京都監察医務院非常勤監察医、宮城県警察医会顧問などを兼任し、不審遺体の解剖数は日本1、2を争う。
法医学・医療監修を行っているドラマや映画は多数。


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