アマゾンやDMMなど、大手企業を騙る怪しげなメールを受け取った経験のある人は少なくないだろう。これらのメールの多くは、架空請求などの詐欺を目的としている可能性がある。

「人は想定外の事象に脆い。あの手この手でターゲットを追い込んでいきます」と明かすのは、詐欺に詳しいルポライターで、テレビなどメディア出演も多い多田文明氏。使えるモノはなんでも使う詐欺師の狡猾な手口を、同氏が実体験も交えて解説する。
※この記事は悪質商法コラムニスト・多田文明氏の書籍『最新の手口から紐解く 詐欺師の「罠」の見抜き方 悪党に騙されない40の心得』(CLAP)より一部抜粋・再構成しています。

大手業者を騙り「未納」など虚偽で脅す

架空請求詐欺が猛威を振るっている。
DMMやアマゾンなど、大手のサイト業者を騙ってこう言う。
「あなたは有料動画サイトを閲覧した履歴があり、料金の未納分が発生している。もしこのまま料金を払わなければ、運営会社から訴訟を起こされ、給与や不動産などの財産が差し押さえられる。至急、連絡されたし」
こうした文面が綴られている。
「裁判」や「財産差し押さえ」といった脅し文句に慌ててしまい、メールに書かれた番号に電話をして、被害に遭うのが、よくあるパターンだ。
ところが昨今は、メールでの架空請求は、迷惑メールフォルダなどに自動的に振り分けられて、騙せる人が減ってきている。

メールが警戒されればSMSを使う

すると今度は、詐欺師らは、電話番号だけでメッセージを送れるSMS(ショートメッセージサービス)を使うようになった。
ショートメールをあまり使わない人は、不意打ちを食らわされてしまうことになる。
詐欺師との対決番組では、架空請求をしてくる詐欺業者とのやりとりを何日にもわたって収録をするのだが、ある時、ロケでいつも音声を担当してくれるスタッフが、「実は、アマゾンからのメッセージを本物のものと思ってしまい、つい電話をかけてしまった」と言った。

電話をかけて、相手の対応や文言を聞き「あっ! ロケでやっている詐欺だ」と気づいたのだという。
これだけ、私たちの架空請求のやり取りを間近で見ていながらも、つい電話をかけてしまう。
人は想定外の事象に脆い。

次々ひねり出されるだましの小技

また、ネットで、関心のある動画サイトなどをクリックしただけなのに、いきなりアダルトサイトにつながり、「ご登録ありがとうございます」と、高額な料金を請求されたことがある人もいるかもしれない。
こうしたサイトのなかには、「カシャ!」というシャッター音を鳴らして顔写真を撮ったと思わせたり、時間のカウントダウンを表示して、早く支払わないと大変なことになるぞと、利用者を焦らせてくることもある。
中には、料金画面を閉じたつもりでも、再び画面を出して、消せないようにするなど、さまざまな手段が使われている。

スマホが狙われやすい理由

架空請求では、日頃、スマートフォンやパソコンなどを操作する機会の多い若者から中高年層に至るまでの幅広い人たちが狙われる。
その罠は至る所に仕掛けられている。
たとえば、主婦であれば、興味を引きそうな巷で話題の「離婚・結婚・不倫」などの芸能ニュースの動画を釣り餌に。若者であれば、アニメやゲームサイトをタップさせるといった具合である。
パソコンだと無視すればいいことも多いのだが、スマートフォンだと電話とネットが一体になっているため、そうはいかないこともある。
請求画面を消したつもりなのに、なぜか業者へ勝手に電話がかかってしまったり、「誤操作の方はこちら」という親切なボタンがあり、思わずそこを押してしまい、相手の業者に番号が通知された形で、電話がかかってしまったということもある。
では、詐欺業者に電話をかけるとどうなってしまうのか? 万が一のために、ダマしの流れを知っておいて損はないだろう。

ワンクリック詐欺のダマしのフロー

テレビ番組で、私はスタッフのもとにきた架空請求のメールに電話をかけて、あえてその手の内にのってみた。
まず私が「この料金請求は何ですか?」と尋ねると、業者の男は、「あなたは、〇〇エロ動画を繰り返し見ていますので、サイトの運営会社に対して未納料金が発生しています」と滔々(とうとう)と語りだす。

「そんなアダルトサイトを見た覚えがありませんよ」
そういっても、「すでに利用した履歴が運営会社側のパソコンに残っているので、お金は払わなければなりませんよ」と一歩も引く様子はない。
そこで、困ったようなふりをしながら、「どうしたら、よいでしょうかね?」と尋ねてみた。
すると、男は強気な口調で、「本来、あなたが払わなければならない金額は、延滞金などを含めまして、30万円ほどになりますよ。払えますか?」という。
「そ、そんなに高い金額は払えません」
「これ以上、放っておけば、さらに延滞料金などが増すことになります。それではますます払えなくなるのではないですか」
「そうですね」と、弱ったな……というニュアンスの言葉を発すると、一転、相手の男は優しい口調になった。
「ご提案なのですが、もし今日中にお金を払う約束をして頂ければ、運営会社に交渉して、半分の15万円にできるようがんばりますが、いかがでしょうか」
つまり今、話している相手は、料金未納が発生している運営会社ではなく、運営会社から依頼を受けて料金請求をしているサポートセンターだというのだ。

一転、味方のふりをする狡猾さも

ひと昔前ならば、一方的に「金を払え」という口調のみで迫ってきたが、今は、運営会社と、請求を受けている利用者の間を取り持つ存在になりきり、相手の気持ちに寄り添いながら、詐欺話を展開することが多い。
「お困りでしょうから、私が運営会社に料金の件で、掛け合いますよ!」
自分のために骨を折ってくれている。
そう思わせてくるのだ。
それでも、私がお金を払うことに躊躇する素振りをみせると、「もし15万円を払っても、あなたがサイトを利用したという記憶がないのであれば、サポートセンターの方で、運営会社と交渉して、クーリング・オフの手続きをしますので、ご安心ください。そうなれば、現金書留による返金をさせて頂きます」。
なんと、今度は8日以内で無条件での解約ができて、返金してくれる「クーリング・オフ」があることまで教えてくれる。

これを使えば、実質、私の金額負担はないというのだ。
当然ながら、この話は嘘である。
ご存じかもしれないが、この種のネットの通信販売には、クーリング・オフの適用はない。
もっともらしい言葉を並べてたてて、私たちを翻弄してくる。
最終的には、「近くのコンビニに行って、プリペイドカードを購入してきて、そのカードの裏面にある番号を教えてください」と指示してきた。
コンビニでは、5000円から1万円、3万円など、さまざまなプリペイドカードが販売されている。
そのカードには、14~16桁ほどの番号が打たれており、その番号をネット上で打ち込めば、事前に支払った金額分が使用できる。
つまり、詐欺業者にカードの番号を伝えてしまえば、その金額分を搾取されてしまうことになる。

強気に出ると一転、逃げの一手に

ある程度相手の手の内が明らかになったので、後半部では強気に出た。
「料金を払う前に、運営サイト先と交渉したいので、未納になっている会社名を教えてください。自分でその会社に電話をかけて、交渉しますから。それに、あなたの会社の住所なども教えてください。
身元のわからないところにお金を払うのは危険ですからね」と次々に、強気で尋ねた。
すると、私からお金を取るのは、無理と思ったようで業者は、「もう結構です」と言って、あっさりと電話を切ろうとしてくる。
「お金は払わないよ」というと、しまいには、「どうぞ、ご勝手に」などと言い、ひたすらに逃げようとする。
ここからわかるように、万が一、電話をかけてしまっても、「払わない」「相手の身元を確認する」など強気な口調で話せば、相手の方から電話を切ってくれる。
というのも、今は警察の目も厳しくなっていることもあり、詐欺師は、通報しそうな面倒な客には対応せず、言いなりになってお金を取りやすい人から、まず騙そうとする傾向があるからだ。
このように、最近の架空請求での支払わせ方の主流は、「現金を郵送で送れ!」「ATMでお金を振り込め!」から、プリペイドカードという電子マネーの購入になってきている。
鮭が卵を産むために、川を上ることを「鮭の川上り」というが、詐欺師たちも、金になる卵を求めて、より上流へとのぼっていく。現代の詐欺では、「お金そのものを取る」だけではなく、キャッシュカードやプリペイドカードなど、「お金のもとになるものを奪う」形に変わってきており、これはまさに「詐欺師の川上り」と言ってもいい。
手詰まりになったら、流れに逆らい、より原点を目指そうとする。
これまた、詐欺たちの悪知恵の発想のひとつといえるだろう。


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