給与が減額されたので労組を結成したが…
非常勤講師の大石康彦さんは、2009年から毎年、学校法人東京音楽大学と契約を交わし、附属高校で理科の科目を教えていた。2022年4月、学校法人は同年度の給与を減額する旨を非常勤講師らに通知。
両ユニオンは計3回にわたる団体交渉を行った。学校側は一定の譲歩を行ったものの、給与減額などの根拠となる資料を開示しなかったため、ユニオンらは2023年2月に都労委に不当労働行為救済申し立てを行う。
新年度の授業が始まる一週間前にあたる同年3月27日、学校法人は大石さんに「2023年度の授業を委託しない」と通知。さらに4月4日、保護者からのクレームを理由として、大石さんにけん責処分を下した。
同年4月から6月にかけて、大石さんの労働条件や処分を議題に、3回の団体交渉が開かれる。しかし、これらの議題についても学校側からは具体的な説明がなかったという。
6月15日、ユニオンらは大石さんに授業を担当させること、けん責処分の撤回、またこの2点の問題について団体交渉へ誠実に応じることを求めて、追加申し立てを行った。
「不誠実な団体交渉」「支配介入」と認定
命令書交付の2日後となる今日(5月23日)開かれた会見で、ユニオンらの代理人である伊久間勇星弁護士は命令書について「こちら側の申し立てが全部認められた」と評価した。学校法人側は減額の理由として「大学と高校とのバランスや労働と給与とのバランスを図り、非常勤講師の給与体系を均一化するため」「実授業時間に過誤があったので是正した」などと説明していたという。
しかし、都労委は「18年間続けてきた給与の支給方法について、44・5%もの減額となる大幅な不利益変更を行う合理的な理由の説明になっていない」と判断。
また法人側は具体的な数字を示して説明することが可能であるのにそれを怠っているとして、「誠実交渉義務」に違反する不誠実な団体交渉にあたると認定した。
2023年度の授業を大石さんに委託しなかったことや大石さんに対するけん責処分に関しては、不自然な点が多いことから、大石さんが組合員であることを理由とする不利益取り扱いやユニオンの弱体化を企図した支配介入にあたると認定された。
直前まで授業の準備をしていたのに…
会見で大石さんは「生徒の反応を見ながら、いい授業になることを心がけて教えてきた」と語った。「(2023年の)3月末に、『4月からの授業はない』と急に言われた。直前まで教材研究をしていたのに、ふいになった。
けん責処分の理由も、わけがわからなかった。学校に行くのもこわくなり、組合活動もおぼつかなくなった。
(契約を切られたことで)給与がなくなり、生活に支障が出た。貯金が底をついたこともあった」(大石さん)
伊久間弁護士は「生徒からの大石さんへの信頼が厚いことは、授業アンケートやメールでも伝わってくる。慕われている先生に対する扱いとして、きわめて悪質だ」と語る。
学校法人東京音楽大学は大学や附属高校の他にも大学院や附属幼稚園を経営している。教職員約690名(2022年時点)のうち400~450名が非常勤講師であるという。
井上幸夫弁護士は「学校は非常勤がいなければ成り立たないのに、非常勤講師は弱い立場にある」と指摘。
「勇気を出して非常勤講師が労働組合を結成したことに対し、学校側が報復として露骨な組合つぶしをすることは許されないと、(今回の命令書で)認められた」(井上弁護士)
また、東京音楽大学の現理事長は現職の弁護士であることから、「弁護士としての社会的責任も問われる」とも井上弁護士は指摘。
今後は、学校法人側が不服申し立てを行い、中央労働委員会で再審査される可能性が高いという。
なお、弁護士JPニュース編集部の取材に対し、学校法人東京音楽大学からは「命令書に対する対応については、現在学内にて検討しておりますので、コメントは差し控えさせていただきます」との回答があった。