北海道・道東にある根室市にあったとある地方紙が今年1月末春、廃刊を迎えた。その名は「ネムロニュース」。
地元有志の動きもあり数年前に創刊したが、労使の対立があり裁判が続いていた。

残業時間は月100時間超で疲弊も

2021年3月、それまで根室地域で長らく発行されてきた根室新聞が休刊した。創刊は1947年。住民らに約70年以上もの間、情報を届けてきた。休刊直前時の公称部数は約2000部とされ、最盛期の発行部数が5000部以上にのぼったこともあった。地域住民からは根室新聞の休刊を惜しむ声も上がったという。地元に根付いた新聞の存在はそれほど住民らの生活の一部になっていたのかもしれない。
根室新聞の休刊から半年ほどが過ぎた21年10月、全国で風力発電事業を展開するCEF(根室市)がネムロニュース社を設立。翌月には根室新聞の旧社屋も取得し、根室新聞の復刊に向けて準備を進めて翌年3月末、後継紙の位置づけとしてネムロニュースを創刊した。
このように華々しく創刊したネムロニュースだったが、その裏には多くの問題が山積していた。創刊を控えた22年3月、その準備のため同時期に同社に入社した2人の記者は奮闘。月の残業時間は100時間を超え、ほぼ無休で働く事態になっており、支払われるはずの残業手当などは未払いだった。
同年5月、記者2人は手当などの未払いを見直すようネムロニュース社側に要請したが、何ら改善されることはなく、反対に同社の総務担当らから退職を勧められるようになったという。

労組結成も配置転換、法廷での争いへ

この事態にしびれを切らした記者2人は同年6月3日、ネムロニュース労働組合を結成。その翌日午前にネムロニュース社側に労組の結成を報告したところ、同日午後に人事担当者から突如として配置転換を命じられたという。2人は事務作業を命じられ、他の従業員記者職との接触も禁止。いわゆる雑務要員にされてしまったのだ。
この2人が記者職から解かれてからというもの、ネムロニュースの編集過誤や誤字脱字、盗用疑いの記事掲載が相次ぎ、「独自性・地域密着性が維持できておらず、新聞としての質が落ちているといわざるを得ない」(原告側の申立書)状況になっていた。
その後、釧路労働基準監督署は、ネムロニュース社に賃金未払いなどで是正勧告を行う。労組側は翌7月上旬、北海道労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てており、労働審判での審理が続いた。
23年1月、ネムロニュース社の元記者2人は同社を提訴した。求めたのは復職を目指して起こした解雇無効などだった。裁判資料によると、原告側は前述した残業手当未払いなどを主張。一方のネムロニュース社側は、「元記者側から同僚へのパワーハラスメントがあったため解雇した 」などと反論した。ちなみに元記者2人は22年7月末、同社から8月末付での解雇を通知され、やむなく退職するに至っている。
釧路地裁根室支部は24年3月26日に判決を言い渡し、「(ネムロニュース社側は)記者の増員や業務を減らすことなど、(必要な)措置を取らなかった」などとしてネムロニュース社側に約50万円あまりの賠償金の支払いなどを命じた。
ネムロニュース社側は判決を不服として札幌高等裁判所に控訴したが、今年2月13日の判決でネムロニュース社側の控訴を棄却。未払い分の賃金などを支払うよう命じている 。
なお、元記者2人は判決を受け、「裁判所の正しい判断、弁護士や証人などの協力に感謝。(一部略)判決に示された未払い賃金などの債権は、あらゆる手段を用いて回収していく」などとコメントを発表した。一方、CFFの担当者は本稿記者の取材に「担当者が休みのため対応できない」と回答した。
また元記者2人のうち1人は、本稿記者の取材に対し「相手方からは『賠償したい』などの話を聞いていない。今も道労働委員会の審判の手続きが継続中で、同社に対しては復職を求めている」と話した。

「部数伸びず」1月末でネムロニュース廃刊

ネムロニュースは今年1月末、約3年で廃刊を迎えた。同社の鎌田宏之社長は、廃刊の理由を「市民の支持が得られず部数も伸びなかった」などと説明しているが、今回の労使対立が関係しているのかは分からない。ただし、地元紙という地域に密着しなければならないはずの新聞社で、熱い志を持った記者の思いをむげにしてしまったとすれば、それは大変悲しいことだ。

小林 英介
1996年北海道滝川市生まれ、札幌市在住。ライター・記者。
北海道を中心として、社会問題や企業・団体等の不祥事、交通問題、ビジネスなどについて取材。酒と阪神タイガースをこよなく愛している。


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