1日のスキマ時間を使って手軽に働く「スキマバイト」をめぐり、NPO法人「派遣労働ネットワーク」は5月24日、「スキマバイトとは何か? その働き方を考える」と題し、都内でシンポジウムを開催。
弁護士や体験取材にあたった記者、同バイトの就労者ら5人が登壇し、手軽さの陰に潜む人権侵害の課題や、思わぬ“危険性”などについて意見を交わした。
(ライター・榎園哲哉)

弁護士「高い人権リスクを常々、耳にしている」

スマホなどにインストールしたアプリから、手軽に応募して勤務、働いたその日に報酬を得られる。
スキマバイトの求人・求職のマッチングサービスを展開している各社のうち、大手A社は登録者数が1000万人を超えている(昨年12月時点)。
A社のHPを見ると「面接・履歴書持参なし」「即日入金」「当日申し込み、単発(即日のみ)OK」「最短1時間から」と、就労希望者にとって魅力的な言葉が並ぶ。
短時間のスポット勤務が多く掲載されているのが特徴だ。たとえば「19時~23時、デリバリースタッフ」などの求人があり、空いている時間で効率よく稼ぎたい大学生らのほか、副業が認められているサラリーマンらにとっても、本業以外で副収入を得られる手段となる。
しかし、「派遣労働ネットワーク」の理事長を務める中野麻美弁護士は、こうしたスキマバイトについて、「(就労者らから)高い人権リスクがあることを常々、耳にしている」と話す。

男女同じ部屋での“着替え”求められたことも

スキマバイトの“実態”はどうなっているのか。
事情により勤めている会社を休業し、3つのスキマバイトの求人サイト(アプリ)に登録して掛け持ちで働き生計を立てている女性Bさんは、現場での厳しい現実を語った。
あるスーパーの精肉店では、契約書に「包丁は使いませんので未経験でも問題なし」と書かれていたのにもかかわらず、実際には業務用の大きな包丁を使うやったこともない鶏肉解体の作業をいきなり任された。作業についての具体的な説明はなかったという。
「説明がないまま契約とは違うことをさせられても、立場が弱く、できませんとは言えなかった」(Bさん)
清掃会社の仕事では、前日に突然仕事のキャンセルのメールが入った。理由も分からないまま、その日を無駄に過ごし、得られるはずだった収入がなくなった。
「企業からキャンセルを受けた場合、企業に対してのペナルティーはないが、ワーカーがキャンセルした場合は、そのペナルティーはとても重い」と、複雑な心境を吐露した。
さらに、ホテルの食器洗いの仕事では、セクハラにも該当しかねない状況に見舞われた。

スキマバイトアプリから男女10人が働きに来ていたが、制服への着替え場所は狭い一部屋しか与えられなかったという。
「男女一緒に着替えるわけにはいかないので、レジの裏で着替えることもあった。従業員用の更衣室はあったが、使えなかった」(Bさん)

記者、体験取材の経験踏まえ「闇バイトにもつながりかねない」

シンポジウムには、東京新聞で若者らの貧困問題に迫る「スキマバイトの隙間」を紙面で特集している記者2人も登壇。
このうち、中村真暁(まあき)記者は、自身の体験取材も踏まえ、スキマバイトに潜む“ある危険性”を語った。
求人サイトC社のアプリを介し、現場などで就労者の欠員が出た場合に備えて待機する(欠員が出たら実際に働く)「スタンバイバイト」に登録したという中村記者。
「どこに呼ばれ、何をするのかよく分からない」まま3日間、他の男女数人とともに午前7時から9時半まで、都内のマンションの一部屋で待機したが、仕事が回ってくることはなかった。一緒に待機していた男性には仕事が振られたという。
また、D社アプリから申し込んだ「新宿駅でスタンバイ、ホテルでベッドメイキング」という内容の「スタンバイバイト」では、E社との契約下で働くはずが、実際に連絡が来たのはF社からだった。さらに「終日、名乗りはF社でお願いします」とも求められたという。
その後、E社を訪ねたが会社の実態がなく、F社とも連絡が途絶えた。
そうした経験から、中村記者は「雇用形態がよく分からない求人、雇用主がはっきりしない求人がある。闇バイトにつながりかねない」と、スキマバイトに潜む“危険性”も指摘した。

弁護士「自由のスキマを奪われているのではないか」

また、手軽な一方、単発・短時間の就労ならではの課題もあるという。

スキマバイトに就労しているBさんは、「その日限りの仕事なので、会社(就業先)からの扱いはものすごく軽い。名前で呼ばれないし、個別の認識をされていないため、誰かがミスをすると、全員が低い評価をされる」と打ち明ける。
しかしBさんは、そんなスキマバイトの“利点”として「即日報酬を得られること」と「短期・短時間の就労であるため自分のワークライフバランスに合わせて仕事を取れること」を挙げた。
このように、スキマバイトは若者や貧困層、ダブルワークで副収入を得たいサラリーマンらにとっては貴重な“ツール”とも言える。
一方、派遣ユニオンの関根秀一郎書記長は、派遣労働者の保護に欠けるとの理由から2012年10月の労働者派遣法改正で原則禁止となった「日雇い派遣」がスキマバイトに流れていると指摘する。
「安全管理が行われず、賃金は圧倒的に安い。日々の紹介だから明日の仕事があるか分からず、急に仕事がキャンセルされても補償が得られない。日雇い派遣と変わらないとんでもない不安定雇用だ」
中野弁護士も「働く人たちが自分の時間の隙間を所得につなげている。生活のために四六時中働き、自由のスキマまで奪われているのではないか」と警鐘を鳴らす。
急拡大する新たな就労の形に、働く人の人権をどう守るのか、社会や制度がどう寄り添うのかが問われている。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。
東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


編集部おすすめ