
園氏が複数の女性俳優らに性的関係を迫ったなどと報じた『週刊女性』との民事訴訟、および園氏が性加害をしているという旨をSNS上で投稿した俳優の松崎悠希(ゆうき)氏との民事訴訟や同氏に対する刑事告訴について語った。
一方、松崎氏は会見と同時進行で園氏への反論をSNSに投稿。また会場の外では、園氏に対する抗議活動も実施されていた。
「性加害」疑惑報道の週刊誌とは和解が成立済
2022年4月、『週刊女性』は、「園氏が、自身が監督する作品への出演を条件に、女性俳優らに性行為を迫っていた」などとする内容を、2本の記事で報じた。同年5月、園氏は発行元の「主婦と生活社」(東京・中央区)を提訴。2024年2月に和解が成立し、『週刊女性』はインターネット上に公開していた2本の記事を全文削除した。
裁判の長期化が予想されたことから、「私としては一刻も早く裁判を終えて、監督業に戻りたいと願っていた」として、和解に応じたと園氏は説明。
「しかし、記事は削除されても世間の疑いは晴れていないため、本日、この場で説明することにした」(園氏)
週刊女性では女性俳優3人の証言が掲載されていたが、園氏によれば、そのうち2人は実在せず、実際に取材されたのは千葉美裸(みら)氏のみであったという(※)。また、千葉氏の証言内容も事実と食い違う点があり、不自然であったと園氏は主張する。
※ 千葉氏は2022年12月、自死と見られる状態で発見された。
俳優・松崎氏の投稿は「名誉毀損」と認定されたが…
2022年、園氏は、松崎氏がTwitter(現X)で行った、「園氏がワークショップに参加した女性俳優に性的行為を要求した」という旨の投稿が名誉毀損にあたるとして、損害賠償を求める訴訟を提起。今年5月16日に判決が出され、東京地裁は名誉毀損を一部認定。訴訟の原因となった投稿の削除と、22万円の賠償を松崎氏に命じた。
一方で、26日に松崎氏が発表した声明によれば、園氏による千葉氏への性加害や新人女性俳優に肉体関係を持ちかけたうえで自身の作品に出演させていたことなどが、裁判では「事実」として認定されているという。
「…この『被害証言が事実認定された』という点をもってして、私は胸を張って『園子温に勝った』と断言できます。
また、今回の判決では、(松崎氏の投稿は)『公共性・公益性ともに認められる』との判断も示されました」(松崎氏の声明より)
判決の主文以外は「後書き感想文」?
園氏の側は、裁判の争点は「(園氏が開催した)ワークショップ内で性加害があったか否か」であり、自宅で行われたとされる千葉氏への性加害などが争点ではなかったと主張。また、「裁判は主文が大事で、指摘の箇所は後書き感想文みたいなもの」と発言し、上記の事実認定が判決の「主文」には含まれていないことを強調した。ただし、この発言は、民事訴訟法第114条1項が定める「確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する」との文言を誤って解釈しているものとみられる。
「主文に包含するもの」は、主文で判断される対象、つまり訴訟の対象となった権利・法律関係をさしており、たとえば「被告は原告に~円を支払え」「原告の請求を棄却する」などの主文の文言自体をさすわけではない。
また、上記条文が定める「既判力」は、同一当事者間の紛争の蒸し返しを防止するための効力を意味し、「判決理由中の判断」の重要性を否定するものではない(※)。
実際には、判決理由は訴訟対象となった権利・法律関係の存否を基礎づけるものとして、きわめて重要である。
※ 既判力に関する詳細は、長谷部由起子『民事訴訟法 第4版』(岩波書店)P282~308等を参照
園氏によると、松崎氏の側は園氏が性加害を行ったとする複数の匿名証言をまとめた供述書を提出してきたが、裁判の長期化を避けるため、それらへの反論は控え、松崎氏の投稿内容に対する反論に注力。その結果、千葉氏への性加害や供述書の内容が事実として認定されたという。
「判決文の一部とはいえ(性加害が)認定されたことは不名誉なので、控訴を考えている」(園氏)
一方、松崎氏は園氏の会見中、X上でリアルタイムに反論を投稿。園氏の控訴発言を受けて、「控訴してきたら、それを補強する証拠を提出し、今度はすべてを『真実』と認めさせます」との意向を表明した。
園は控訴を考えているそうです。判決文で認められなかったのは「ワークショップで知り合った …」の部分だけなので、控訴してきたら、それを補強する証拠を提出し、今度はすべてを「真実」と認めさせます。「公共性・公益性」だけでなく「真実性」も全て証明されたら、名誉毀損は成立しなくなります。また、会見終了後には1000字を超える長文の投稿を行い、「長年にわたって俳優に性加害をしてきた、あなた自身が悪いのです。あなた自身が、あなたのキャリアを台無しにした張本人なのです」「これ以上、被害者の尊厳を踏みにじるのは、もうやめましょう」などと、改めて園氏を批判した。https://t.co/iSNJwZL8oj
Yuki Matsuzaki 松崎悠希️ (@Yuki_Mats) May 27, 2025
園子温の記者会見を見ました。ある程度の予想はしていましたが、その予想をはるかに超える、極めて不誠実でごまかしに満ちた会見でした。… pic.twitter.com/ClB1t9Ky2o
Yuki Matsuzaki 松崎悠希️ (@Yuki_Mats) May 27, 2025
「映画という表現の手段を絶たれた」
園氏は『週刊女性』の報道や松崎氏の投稿が原因で映画監督としての仕事を続けられなくなり、2本あったハリウッド映画の企画も中止になったという。「(報道や投稿があった2022年から)この3年間、憔悴(しょうすい)し、うつ病になり、過剰に睡眠薬を摂取して自殺を考え、心療内科にも入院した。妻も肩身の狭い不安な日々を送り、収入も途絶え、資金は裁判に注ぎ、お金も無くなった。
…3年間、映画という表現の手段を絶たれ、家族もいわれのない誹謗(ひぼう)中傷を受けた」(園氏)
園氏は松崎氏を侮辱罪で刑事告訴しており、書類送検がされたタイミングで記者会見を決意したという。
一方、会見中に園氏が松崎氏が現在も取り調べを受けているかのように発言したのに対し、松崎氏はXでリアルタイムに「いえ、取り調べ終わっています」と反論した。
会見場の外では抗議活動も
抗議活動の様子(撮影・弁護士JPニュース編集部)
会見の前後、日本外国特派員協会が入る丸の内二重橋ビルの前では、「映像業界における性加害・性暴力をなくす会」や有志らが、抗議のスタンディングアクション(立って行う抗議活動)を実施していた。
同会は、松崎氏に対する「SLAPP(スラップ)訴訟」(言論封殺を目的として多額の損害賠償などを請求する民事訴訟)であるとして、園氏を批判している。
「私たちは性暴力を許すな、SLAPP訴訟を許すな、二次加害を許すな、という思いのもと、この会見に抗議いたします」(映像業界における性加害・性暴力をなくす会)