“ぶつかりおじさん”福岡・名門大学准教授が3度目逮捕…類似の悪質行為は各地で発生 反撃は「正当防衛」になる?
福岡県福岡市にある西南学院大学。キリスト教米国南部バプテスト派の宣教師C.K.ドージャーによって1916年に創立され、100年以上の歴史を持つ地元の有名大学だ。

そんな“名門大学”の商学部で人事労務管理などを研究していたという50代の男性准教授が5月15日、暴行罪で逮捕された。
この准教授は4月にも同様の容疑で2度逮捕されており、逮捕はこれで3度目。
3度の逮捕容疑には、いずれも准教授が通勤中、すれ違いざまに他人にバッグをぶつけたという共通点がある。
在福メディアなどの報道によると、3つの事件が発生した近辺では、同様の被害例や目撃談が確認されていたことから、県警は警戒を強め、捜査を進めていたという。

繰り返される“悪質なぶつかり行為”

こうした“悪質なぶつかり行為”が起きているのは福岡市内だけではない。
過去にも街中や駅構内での「悪質タックル男」や「ぶつかりおじさん」の存在がニュースやSNSで話題となっており、なかには逮捕・起訴に至ったケースもある。
弁護士JPニュース編集部では、類似の被害を受けたという30代の女性Aさんと、Aさんとは別の場所で“悪質なぶつかり行為”を目撃したという40代の男性Bさんに接触。
経験者と目撃者、それぞれの立場から話を聞いた。
東京・山手線内の某駅で“すれ違いざま”にぶつかられたというAさんは、自身の受けた被害についてこう語る。

自身の被害体験を語るAさん

「50代くらいのスーツのおじさんが、自分の真正面からこちらに向かって歩いてきました。私は避けようとしたものの、おじさんはむしろこちらに寄ってきて、すれ違うタイミングで肩をドンッと私にぶつけ、去っていきました。
当然怒りがこみ上げてきましたが、見た目が普通のおじさんだっただけに怖かったですし、“やばい人”には関わりたくないという思いから、何もできませんでした」
また、同じく都内のとある商店街で“ぶつかりおじさん”を目撃したというBさんは、次のように“被害”の様子を話した。
「現場は道が狭く、その日は人通りも多かったと思います。

そこを歩いているときに、若い女性やカップルばかりをターゲットにして、続々と軽くぶつかっていく男に遭遇しました。
今思えば、やめるよう強く言えばよかったと後悔しています」

弁護士JPニュース編集部の取材に答えるBさん

ぶつかり行為、反撃は「正当防衛」になる?

Aさんのように被害に遭ってしまったら、あるいはBさんのように悪質なぶつかり行為を目撃した場合、相手に対して“反撃”するなどの対応は許されるのだろうか。
刑事事件に詳しい雨宮知希弁護士は「基本的には、警察に通報したうえで、安全な場所へ避難するのがもっとも確実な方法です」と前置きしつつ、以下のように語った。
「まず、ぶつかり行為への“反撃”としては、こちらも有形力を行使して防御する、いわゆる正当防衛が考えられます(刑法36条1項)」
有形力の行使とは、殴る蹴るなど、相手に対し物理的な力を与える行為を指す。
「もし“悪質なぶつかり行為”が、自分や他人に対する不法な攻撃であり、その攻撃を回避または防御するために反撃する場合、正当防衛が成立する可能性があります。
ただし、反撃しすぎてしまい、後になって、その程度が過剰であると判断されてしまった場合、過剰防衛(刑法36条2項)としてこちらが暴行罪(同208条)ないし傷害罪(同意204条)で処罰される恐れがあるため、反撃の程度には注意が必要です」

相手を「現行犯逮捕」することも可能だが…

また、雨宮弁護士によると、ぶつかってきた相手の「現行犯逮捕」も可能だという。
刑事訴訟法213条では、現行犯で犯罪が行われた場合、一般市民であっても被害者はその相手を逮捕することが可能であると規定されている。
「“悪質なぶつかり行為”が犯罪として成立する場合、被害者や目撃者はその場で相手を取り押さえ、警察へ引き渡すことが可能です。
ただし、これは犯罪が現在進行中、または直後に目撃された場合のみに限られます。
また、先述した正当防衛と同じく、逮捕行為もやりすぎてしまうと、こちらが処罰される可能性があり、注意が必要です。過剰に暴力を振るって相手に傷害を負わせた場合、逆に暴行罪や傷害罪などの罪に問われ、違法となる場合もありえます。
そのため、現行犯逮捕をする際は、警察への引き渡しを目的とするなど、適切な方法をとる必要があります。できれば、警察に通報するといった穏便な方法を用いるのが賢明でしょう」(雨宮弁護士)

「他人を守るための介入も可能」

一方、Bさんのように、“悪質なぶつかり行為”の現場に立ち会った場合の対応はどうするべきなのだろうか。
「自分ではなく、他人に不当にぶつかっている相手に対しても、有形力を行使するなど正当防衛をとることが考えられます。

他人が攻撃を受けている場合、その人のために正当防衛を行うことができます。刑法36条は「自己または他人の権利を防衛するため」と定めており、他人のための正当防衛も認めているからです。
したがって、たとえば、誰かが“悪質なぶつかり行為”を受けている場面で、その人を守るための介入であれば、法律上問題ないでしょう。
ですが、こちらも繰り返しになりますが、その介入が過剰になってはいけません」(雨宮弁護士)
また、被害者同様、目撃者の場合も、現行犯の犯罪行為であれば一般市民による逮捕が可能だ(刑事訴訟法213条)。
「ただし、この場合ももちろん、過度な暴力は避ける必要があり、注意が必要です。相手を制圧し犯人の取り押さえが済んだら、過度な暴力に訴えず警察を呼び、身柄を引き渡してください」(同前)
各地で目撃情報のある“悪質なぶつかり行為”。万が一の事態に備えて、これらの法的知識を頭に入れておくと良いだろう。


編集部おすすめ