アメリカに本社を置くアウトドアメーカー、パタゴニア日本支社(神奈川県横浜市)の元パート社員の女性が、無期転換になる直前にパタゴニア社から解雇されたとして地位確認などを求めた裁判が今年4月、和解に至った(小林英介)。

無期転換逃れ...同僚が突如として退職

パタゴニア日本支社を訴えていたのは、同社の札幌北ストアでパートタイマーとして働いていた藤川瑞穂さん。
パタゴニア社の素材の調達やサプライチェーンの労働者に対する人道的配慮、環境保護団体への支援など、利益だけを優先しないその企業姿勢にひかれてパタゴニアへの入社を決意した藤川さんは2019年4月から同社で働き始めた。

しかし2020年6月、同僚のパートタイマー職員が突如として退職。「どうしたんだろう」と困惑していた藤川さんだったが、後日、同僚の退職には「無期転換逃れ」が関係していたと知る。
労働契約法18条前段は「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす」(一部略)と定めている。
有期雇用の労働者であっても、雇用期間が5年を超えると無期転換権を行使でき、これを会社は拒めないのだ。2013年の労働契約法改正で設けられた規定だが、契約期間が5年になる直前に契約更新を打ち切る事例などが相次いだ。

「会社は自分たちの経営能力を疑え」

藤川さんは無期転換逃れに疑問を抱き、2021年12月に札幌地域労働組合に個人で加盟。2022年7月に「パタゴニアユニオン」を結成して、有期雇用契約の上限を原則5年とするルールの撤回を求めて団体交渉を続けた。
パタゴニア社側は「健全なビジネスを行うために必要だ」などと主張。全く対処されることなく、藤川さんの契約は2023年12月末に打ち切られた。これにより藤川さんは2019年4月から2023年12月まで、4年9か月の間パタゴニアの直営店で有期雇用契約のパートタイマーとして勤務していたことになる。
2024年2月、藤川さんはパタゴニア社を相手取り、地位確認などを求めて札幌地方裁判所に訴訟を提起。同年6月に開かれた口頭弁論期日では、藤川さんが以下の通り陳述した。
「パートタイマーから雇用の期待をはく奪し、会社の都合のいいように雇い止めをしたい、それ以外、理由は考えられないのではないか。
パートを『入れ替え可能な労働力』として扱うことなしに『健全なビジネス』は成り立たないというのであれば、会社はまず自分たちの経営能力を疑うべき」など、パタゴニア社側を強く批判した。
パタゴニア社側は「更新の上限は5年。それ以上働く場合は正社員試験を受けなければならないと入社前の面接で説明しており、契約書にも記載がある。(更新を拒絶する合理的理由は)原告のパフォーマンスが被告側が求める水準に達していないため」などと反論。
その後、パタゴニア社側から口外禁止などを含んだ和解の提案が示されたが、弁護側は「口外禁止条項が入れば無期転換逃れの問題を訴えることが難しくなる」と判断し、交渉を続けていた。
そして裁判は今年4月18日、和解に至る。

「内側から声が上がること必要」集会で和解を報告

5月29日に札幌市内で開かれた和解報告集会には、藤川さんやその支援者らが出席。
代理人を務めた弁護士によると、パタゴニア社の方から裁判所に和解の提案があったという。条件は「口外禁止条項などをつけずに14万円(給料2か月分相当)を支払って雇用契約終了を確認する」ことだった。
原告側は検討した後、和解案を受け入れることに決定。正式に和解となった。
報告集会にて、藤川さんは「裁判が和解になったからといってすべての問題が解決したわけではなく、更新条件も撤廃されていない」と指摘。

パタゴニア社について「まだまだ企業の内側から声が上がってくることが必要だ」と強調していた。
■小林英介
1996年北海道滝川市生まれ、札幌市在住。ライター・記者。北海道を中心として、社会問題や企業・団体等の不祥事、交通問題、ビジネスなどについて取材。酒と阪神タイガースをこよなく愛している。


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