詐欺に詳しいルポライターの多田文明氏は、被害総額が11億円を超えた、ある詐欺事案について「使った決め台詞が、実に巧妙だった」と明かす。
そのほかにも、詐欺師たちは一流セールスマン並みの話術、手品師顔負けのテクニックなど、さまざまな方法を使って人々に忍び寄る。多田氏の豊富な知見から、極悪非道な彼らの手口をいくつか紹介する。
※ この記事は悪質商法コラムニスト・多田文明氏の書籍『最新の手口から紐解く 詐欺師の「罠」の見抜き方 悪党に騙されない40の心得』(CLAP)より一部抜粋・再構成しています。
“警察”を装うことで冷静さを奪い、一気に騙し取る
詐欺からの身の守り方を、サッカーで例えてみると、詐欺師である攻撃側がどういった動きをして攻めてくるのか、その動きのパターンを知ってディフェンスをする必要がある。特に警戒すべきは、詐欺のゴールを決めようとするストライカーの動きだ。彼らは、金を取るために、さまざまな騙しのテクニックを擁してくる。
今、警察による詐欺撲滅のための徹底した取り締まりが行われているが、詐欺犯らはそうした対策の背後をつくように、警察を装って高齢者宅へ電話をかけてくる。
「あなたの銀行口座が、詐欺犯らによって不正使用されています」
警察からの電話と聞いて、身構えているところに、「あなた自身が犯罪行為に巻き込まれている」と言われるのだから、動揺しないはずはない。
「今から、お宅へお伺いします」
不安になっている高齢者宅を、スーツを着た刑事風の男が訪れる。
「捜査のために、通帳やキャッシュカードを、警察の方で預からせてください」
そう言ってカードを騙し取っていく。
電話をかけてから、家を訪れるまでの所要時間は30分~1時間と極めて短い。
その時、彼らは、偽の警察手帳を私たちに見せて信用させてくることもある。
詐欺を行う側は、第三者に相談させる暇を与えずに、一気に行う。
詐欺師から目を離してはいけない理由
さらに巧妙な手口になると、偽刑事が家を訪れ、家人に、「このまま口座が悪用されれば、あなた自身が犯人と疑われる恐れもあります。そこで、あなたがこの口座のキャッシュカードを使っていないことを証明するために」と、持参した一枚の封筒を手渡す。「このなかに、ご自身のキャッシュカードを入れて厳重に家で保管してください」
そして、偽刑事は、家人にキャッシュカードと通帳、さらに暗証番号を記入させた紙を入れさせ、封を閉じさせる。
最後に、こう一言、付け加える。
「あなたが、封筒を開けていない証拠に、封の部分に捺印して、あなた自身が保管してください」
家人が印鑑を取りに行くために、封筒から目を離すと、その隙に男は別に用意していたダミーのカードが入った封筒と、本物の封筒をすり替えるのだ。
家人は封筒が入れ替わっていることに気づかないために、偽の封筒を家で大事に保管しておくことになる。
その間に、詐欺師はキャッシュカードを使って、現金を引き出す。
これは、詐欺師の行動パターンのひとつで、私たちの目線を逸らせるやり方だ。人は別なことに注意を向けさせられると、大事なものから目をそらしてしまいがちになる。
器物破損をいとわない
こうした心理をついた騙しの手口は、訪問販売でもよく行われている。過去にあった事例では、「物干し竿が2本で1000円!」と家の周りを回っていた移動販売車を、家人が呼び止めると、車から2人の業者がやってきた。
業者が家に入りこむと、カタログなどを見せて、安い物干し竿ではなく、数万円もする高額なものを勧めてくる。
客が購入に躊躇していると、1人が接客をしているうちに、もう一人が物干し竿のところに行き、台座を壊す。
そして、「あれっ、この物干し竿の台座は、壊れていますよ」などと、白々しく言い、物干し竿を台座ごと買わせようとする。
つまり、家人の目をカタログに釘づけにさせているところで、もう一人が、悪さを行うのだ。
訪問販売に対する時には、くれぐれも相手から目線を逸らしてはいけない。
この他にも、電話会社を装い、2人組の男が家にやってきて、一人が対応している間に、もう一人が窃盗を働いていた事例もある。
もし見知らぬ業者と、2以上(相手)対1(自分)の関係で話が進むような状況になれば、絶対に家に入れてはならない。
すぐに帰ってもらわないと、何をされるかわからない。
なにしろ相手は、詐欺のストライカーである。自分の目が届かない隙が出てくるような状況では、対応しない。これは、訪問販売において、身を守るための鉄則である。
一番厄介な「論点ずらし」とは
物理的に目を逸らせるだけではなく、相手との会話の中で、論点をずらして、悪質業者がモノを売り付けることもある。これが、一番、厄介かもしれない。
ある訪問販売業者による被害総額は11億円を超えて、ようやく詐欺容疑での逮捕で終息した。これだけの被害になったのは、彼らの使った決め台詞が、実に巧妙だったからである。
業者はまず訪問した先で、「以前に、布団を買いましたね」と言う。相手は「ええ」と答える。
というのも、過去に布団を購入したリストをもとに高齢者宅を訪れているのだから、頷かざるをえないのだ。
そして業者は、さも過去に購入した布団業者と関係がある会社のような形で話をする。
「以前に購入した布団は、セット販売での契約になっているのですよ」と嘘をついて、新たな寝具を売りつける。
手元に契約書がない高齢者は、この話を拒否できずに、購入話へと進ませられてしまう。だが、彼らの知恵の回し方はこの程度ではない。
さらに次のように畳みかける。
「これまで、いろんな訪問販売の業者が来て困ったことでしょう」
相手の気持ちに寄り添った上で、「今回、当社の商品を買えば、今後一切の勧誘電話や訪問販売を辞めさせることができますよ」と言う。
業者は、二度と訪問販売業者を来させないようにさせると約束する。
これまで悪質訪問を追い返すのに散々苦労してきた高齢者は、常日頃から勧誘が来なくなってほしいと願っている。
そうした気持ちにつけ入って、購入のダメを押すのだ。
「これまでの訪問販売を断る苦労から解放される」
そうした気持ちから、高齢者は、いくら値段が高くても、この業者の商品を買ってしまう。
当然ながら、これは嘘っぱちなので、その後も訪問販売の勧誘はやむことがなく、そこで初めて、業者に騙されていたことに気づく。
この手口で、詐欺業者は莫大な利益をあげていたのだ。
ただ、ものを売るという目線のアプローチだけでなく、「あなたを悪質な訪問販売から助けられる」という方向に論点をずらして、すんなりとお金を払わせてしまう。
こうした「相手の目線や思惑をずらす」手立てでダマすのは、詐欺の常套手段といえるのだ。