4割が感じる「孤独・孤立感」20~30代で多い傾向、企業では“20代正社員”の3割以上が「深刻」と回答…放置した場合の“代償”とは
「孤独・孤立対策推進法」が2024年4月に施行され、1年が経過した。この間、いくつか調査などが実施され、孤独や孤立の実態や問題点が浮き彫りになりつつある。

代表的な調査は、内閣府の孤独・孤立対策推進室が実施している「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」だ。目的は「孤独・孤立の実態を把握し、各府省における関連行政諸施設の基礎資料を得ること」で、調査対象は満16歳以上の個人2万人。2021年から毎年行われている。

調査が示す孤独・孤立の実態

調査の最新版は4月25日に公表された。そこから、どのような実態がみえてくるのか。
たとえば、孤独感がある人はどれくらいいるのだろうか。調査結果によれば、約4割が「孤独感がある」と回答している。内訳は「しばしばある・常にある」が4.3%、「時々ある」が15.4%、「たまにある」が19.6%となっている。合計すると約39%にのぼる。
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約4割が孤独感があると回答した(出典:孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年))

また、直接的に「孤独感」を問う質問項目に加え、他者との関わりの有無を問うことによって孤独か否かを推し量る(※)質問項目も設けられている。「人との付き合いがない」「取り残されていると感じる」などだ。
※「UCLA孤独感尺度」日本語の項目に基づき、設問への回答をスコア化して孤独感を評価
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「取り残されていると感じる」なども5割弱が回答(出典:孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年))

それらへの回答は「常にある(10~12点)」が6.5%、「時々ある(7~9点)」が39.2%、「ほとんどない(4~6点)」が38%だった。
「常にある」「時々ある」を合計すると約46%に達する。

では年齢階級別、男女別ではどうだろうか。
まず、年齢階級別では、孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合は20代および30代で高い。
次に、男女別だと、男性で20歳代および30歳代、50歳代および60歳代、女性で20歳代および30歳代が高くなっている。

望まない孤独はなぜ問題なのか

データからは、4割前後の人が孤独感を感じており、かつ、男女とも20歳代、30歳代が多いことが示されている。
問題は、これだけの人々が孤独感を感じていることによって、個人はもちろん、社会にどのような影響が生じるのかということだ。
孤独・孤立に関する有識者会議の構成員のひとりで、大阪公立大学大学院看護学研究科ヘルスプロモーションケア科学領域教授の横山美江氏は、孤独・孤立対策イベント「望まない孤独のない社会の実現に向けて」(5月28日=主催:あなたのいばしょ)に登壇し、次のように説明した。
「社会的孤立に陥り、望まない孤立を感じた場合に、さまざまな問題が生じるリスクが高まると考えられます。
たとえば、日本における児童虐待相談件数は年々増えています。また、配偶者暴力相談支援センターへの相談件数も年々増えており、2020年度に過去最高となり、高水準で推移しています。
不登校、児童生徒の割合も近年になり、本当に増えている状況です。小中高生の自殺者数も年々増加し、過去最悪となっております。
これら状況は核家族化が進み、地域社会を支える地縁血縁といった人と人とのつながりが希薄化して、強い孤独感を感じる方が増えたことにより発生しているのではないかと推察されます」
こうした状況については国際的な研究でもある程度の相関が確認されており、望まない孤立や孤独の放置が大きな社会的損失につながりかねないことが示されている。

孤独・孤立が企業にもたらす影響とは

野村総合研究所が5月に公開した孤独・孤立に関するレポートでは、企業にもたらされる負の影響について報告されている。
同研究所は、20~60代の正社員男女1648人を対象に、企業における孤独・孤立に関する調査を実施。

調査によると正社員の約4割が孤独を感じており、20代では31.9%が「深刻」と回答している。
4割が感じる「孤独・孤立感」20~30代で多い傾向、企業では“20代正社員”の3割以上が「深刻」と回答…放置した場合の“代償”とは

20代の会社員では孤独感が「深刻」が3割超に(出典:野村総合研究所「今こそ企業が向き合うべき『孤独・孤立』」)

一方、社員の孤独感は入社5年以上を過ぎると格段に下がることがわかっており、同研究所もケアの必要性を指摘している。
また、20代正社員が孤独感を感じている状況を放置することは企業にとって大きな損失につながることも、データは示している。
孤独感がある人では27.8%が「転職を考えて」おり、36.8%が「いつか転職すると思う」と回答。孤独感がないと回答したグループと比較して、2割近く多い結果だ。

孤独・孤立をどのようにケアすればいいのか

上記は孤独・孤立に関する調査の一例だが、放置すると社会にとっても大きな損失につながることになる結果を示している、といえるだろう。
ではどうすれば、こうした状況を緩和できるのか。
対策の司令塔として推進法のタクトを振るう内閣府孤独・孤立対策推進室参事官の村瀬剛太氏は、その方向性を次のように示した。
「政府がまず重要視しているのは、人とつながりを生むための分野横断的な連携です。
特定の分野の方がなにか取り組みを行うのも素晴らしいことですが、それぞれの取り組みと別の取り組みを掛け算をしていく、そういった官民の連携であるとか、分野を横断した連携というものが、こういったつながり作りにとってはすごく重要なのではないかと考え、予算を確保して事業を行っているところです」
具体的には、全省庁の副大臣を構成員とした会議の立ち上げ、地方版官民連携プラットフォーム事業の開始など、「つながり」をキーワードに、全方位にネットワークを構築する形で、孤独・孤立を生みづらい土壌づくりに奔走している。
推進法施行から1年。孤独・孤立は目に見えづらい事象だけに、気づきづらく、アクションを起こしづらいかもしれない。

だからこそ、誰もが自分事としてとらえ、ほんの少しでも周囲に気を配るようにすることが、最初の一歩につながるだろう。


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