昨年、日本で生まれた新生児の数は72万988人(厚生労働省「人口動態統計(速報値)」)で過去最少を更新。この数には外国人も含まれており、日本人の出生数は70万人を切る可能性がある。

少子化が進む一方、こども家庭庁の資料によると、特別支援学校に通う子どもの数は14.9万人(令和4年度)で平成24年度調査から1.1倍に増加。放課後等デイサービスの利用児童数も30.6万人(令和4年度)と平成24年度調査から5.7倍に跳ね上がっている。
こうした状況の中、「こどもまんなか障害児福祉をのぞむ親の会」が6月2日、都内で会見。代表の中西美穂氏は「障害児支援制度にはさまざまな所得制限がかけられているが、これらすべての撤廃を求めたい」と訴えた。

普通の家庭であっても、所得制限の対象

現在、日本の障害児童支援制度には経済的な支援や通所支援、学校教育での支援などがあり、先述した特別支援学校や放課後等デイサービスもその一環である。
たとえば、20歳未満で、「精神又は身体に障害を有する児童」を扶養する父母等を対象とした「特別児童扶養手当」の場合、1級(重度障害児)で5万6800円、2級(中度障害児)は3万7830円が毎月支給される。
しかし、制度ごとに基準は異なるものの、障害児の親の所得や家族構成によって、受けられる手当や支援には差があるのが現状だ。
「特別児童扶養手当」の場合、扶養人数が2人いる家庭では、世帯所得が535万6000円を超えると、支給の対象から外れる、といった仕組みが設けられている。
同様に放課後等デイサービスなどの「障害児通所支援」や、重度の肢体不自由を抱える児童が利用可能な「障害福祉サービス」にも所得制限があり、世帯年収が890万円を超えると最大3万7200円の利用者負担が発生。年間で約44万円、12年間利用した場合には約535万円の費用負担を負うこととなる。
これについて、「親の会」の志村智彦氏は「世帯年収890万円というと、共働き世帯や、大都市圏の大手企業などに勤めている場合は、超えかねない金額だ」と指摘。次のように続ける。
「厚労省が2021年に発表したデータによると、児童のいる世帯の平均収入は約813万円となっており、全体の中央値も722万円です。

つまり、本来手厚い支援が必要な、重い障害を持つ子どもがいる場合、決して所得が潤沢とはいえない“普通”の家庭であっても、所得制限の対象となってしまうことが、このデータからわかるのではないでしょうか。
また、さまざまな給付の対象外となった結果、福祉にかかる費用の手出しが増え、健常児世帯と比べ、可処分所得が減るという現象も生じています」

「子どもにできるだけお金を残してあげたいが…」

この日会見に出席した「親の会」のメンバーは、こうした現状によって、障害児が必要な支援を受けられず、経済的な困窮や、将来への不安があると口々に訴えた。
メンバーの1人で、障害児の双子を持つ安中知恵氏は「(上記の所得制限があることにより)年収1000万円の世帯と年収800万円の世帯を比較すると、生活にかけられるお金は年収800万円の方が多い」と述べた。
「国の制度以外にも、地方自治体がそれぞれ障害児福祉のための支援制度を設けています。しかし、それらも国と同様、所得制限をかけるのが当たり前という状況です」(安中氏)
さらに、安中氏は「将来に対しても不安が残る」として、以下のようにコメントする。
「障害児福祉のあらゆる制度は前年の所得で、支援を受けられるかどうかなどが判定されます。ですから、仮に夫に万が一のことがあった場合、収入が激減するにもかかわらず、所得制限をかけられた状態で1年間なんとか耐え忍ばなければなりません」(安中氏)
同じく当事者として会見に出席した長谷川香奈氏も「所得制限がなければ、将来のための貯金もできるが、制限があるのでできない」と話した。
「私の場合は、一生医療ケアが必要な子どもがおり、障害のないほかの兄弟には正直我慢してもらっている部分もあります。
所得制限がなく、特別児童扶養手当などを受け取っている周囲の親の話を聞くと、子どもの将来に備え、そうした給付を貯金しているケースをよく聞きます。ですが、私の場合は所得制限によってそれらを受け取ることができていません。
障害を持つ子どもは大人になっても、自分でお金を稼ぐのは容易ではありませんし、親はいずれ先に死んでしまいますから、できるだけお金を残してあげたいという思いがあります。
年収がある分、税金や社会保険料を払うことは構いませんが、せめて、子どもに対する給付は平等であってほしいです」

「あとは国や政府が判断するかどうか」

ただ、中西氏によると、こうした状況は国や政府も認識しているといい、改善の糸口がないわけではないという。
「過去に障害児の『補装具費支給制度』に関する所得制限が撤廃されたときも、私たちやほかの会などが活動をしていましたが、最後は政権与党である自民党の力で決着しました。

ですので、今回われわれが主張している残りの所得制限撤廃についても、あとは国や政府が判断するかどうかにかかっていると思います」


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