
反訴は、係属している訴訟(本訴)の手続内で被告(反訴原告)が原告(反訴被告)に対して訴えを提起するもの(民事訴訟法146条参照)。
郷原弁護士は、福永弁護士が「名誉毀損訴訟」を提訴したこと等が不法行為にあたると主張し、550万円の損害賠償を請求している。
「そのような発言はしていない」と提訴
郷原弁護士が福永弁護士から提起を受けた「本訴」とは、郷原弁護士が2024年12月7日にX上で行った以下の投稿が「名誉毀損」にあたるとして、損害賠償を求める訴えである。「①『郷原弁護士は、過去に何件も刑事告発を行っているが、ほとんどで負けている』
②『郷原弁護士は、ヤメ検でテレビにしょっちゅう出ており、マスコミの手先のような弁護士。今回も、マスコミの意向に沿って告発して、テレビに出してもらうことが目的だ』
少なくとも、この二つの発言は、明確な誤りであり、名誉毀損にも当たりかねないものです。リハックの対談の前に、以下に述べることを、是非御認識頂きたいと思います。」
なお、上記投稿にある「リハックの対談」とは、昨年12月7日にYouTubeで行われたライブ配信。昨年の兵庫県知事選挙において、当選した斎藤元彦氏陣営が県内のPR会社に報酬を支払った疑いについて、郷原弁護士らが斎藤知事とPR会社社長を刑事告発したことの是非に関して行われたもので、現在までに90万回以上再生されている。
福永弁護士は本訴請求において、仮に自身が上記①②のような発言を行っていたとすれば、郷原氏の社会的評価を低下させ、名誉毀損行為にあたる旨を認めた。
しかし、その上で、「このような発言は一切していない」と発言の存在自体を否定し、自身に対する名誉毀損が成立するとして、郷原弁護士に対し損害賠償請求を行った。
郷原弁護士「動画での発言を要約」
郷原弁護士によれば、X投稿のなかで福永弁護士の発言として挙げた部分は、福永弁護士が上記リハックでの対談の前日、12月6日にYouTube Liveで公開した「兵庫県知事選挙に関するテーマを中心に友人(弁護士ではなく美容師)とライブ配信」の中で行った発言を要約したものであるとのこと。そして、反訴状ないし答弁書では、X投稿内容と、実際の福永弁護士の発言内容を対照して掲載している。
第一に、郷原弁護士のX投稿中、「①『郷原弁護士は、過去に何件も刑事告発を行っているが、ほとんどで負けている』」の部分は、以下の発言を要約したものであるという(動画52分20秒~。「発言A」とする)。
(発言A)「郷原弁護士が過去に刑事告発したやつも、全然立件もされなかったやつとかも全然あるので。だから今回も、『これは犯罪は成立する!』って言ってるんですけれども、過去にあなた、自信持って刑事告発したやつ空振ってるじゃないですかって話なんですよ、ま、成績から言ったら。
つまり、郷原弁護士は、福永弁護士の「全然立件もされなかったやつとかも全然ある」「空振ってる」「全然打率高くない」などの発言について「ほとんどで負けている」と要約したことを意味する。
なお、付言すると、現実には、郷原弁護士が斎藤知事らの告発以前に行った告発は3回である。それらについて「空振ってる」「打率高くない」とは何を意味するのか、福永弁護士は具体的な説明を行っていない。
次に、「②『郷原弁護士は、ヤメ検でテレビにしょっちゅう出ており、マスコミの手先のような弁護士。今回も、マスコミの意向に沿って告発して、テレビに出してもらうことが目的だ』」の部分は、以下の発言を要約したものであるという(動画1時間11分55秒~。「発言B」とする)。
(発言B)「やっぱり郷原弁護士とかはさ、地上波とかにも出てる先生なので、要はオールドメディアって言われているマスメディア側にわりとこう忖度する立場なんですよ、その方が使ってもらえるし。だから斎藤知事をいかに悪く言うかっていう方向性の、まあ誘導が働いているんですよ、そういう力が。で、いろんなニュースサイトとかも基本的には斎藤さんがおかしいっていう方向の記事ばっか出てるんですけど、そこにコメントしてる弁護士とかもまあ基本的にはたぶんそっちの大手のマスメディアに媚びて、仕事欲しいと思ってるようなやつらばっかりなんですよ」
「記述①」が「発言A」を、「記述②」が「発言B」を要約したものだと認定されれば、福永弁護士の「このような発言は一切していない」という主張は根拠を失い、請求原因自体成立しないことになる。
訴訟の提起自体が「不法行為」にあたる場合とは?
郷原弁護士は、上記を理由として、福永弁護士による訴え(本訴)の提起自体が不法行為に該当すると主張している。国民には裁判を受ける権利(憲法82条)が保障されている。
最高裁判例は以下の通り、訴えの提起が「訴権の濫用」ともいうべきごく例外的な要件をみたす場合について、不法行為が成立するとする。
「提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながらまたは通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるとき」(最高裁昭和63年(1988年)1月26日判決)
そして、反訴状においては、上記基準にあてはめて、不法行為が成立するとの論証が行われている。
郷原信郎弁護士(2日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)
郷原弁護士:「本来、民事訴訟は権利の実現という社会的目的を持って行うべきものだ。ところが、福永氏はそれと異なる目的で行っていることを明言した。
『ニューヨークで時間が余ったので、郷原弁護士を遠隔提訴した』『今、訴状を書くのにはまっている。請求権があるなら何の問題もない』などと述べた。
訴訟を起こす権利はあっても目的が不当な訴訟をスラップ訴訟というが、福永氏の提訴は請求原因となる事実自体が存在せず、面白半分、悪ふざけとしかいえない。
弁護士の資格を持った人間にとって、常識的に考えて行って良いことと、法的に不可能ではないがやってはならないことの区別がついていない。
こういう面白半分、悪ふざけの提訴を野放しにしたら、日本の司法の基盤が損なわれてしまうのではないかと心配している。徹底的に責任を取ってもらうために反訴を提起した」
郷原弁護士の代理人である石森雄一郎弁護士は、上記判例の基準にてらし、訴えの提起について不法行為の成立が認められた事例として、立川市議の久保田学氏がジャーナリストの「選挙ウォッチャーちだい」氏に200万円を求める裁判を起こし、ちだい氏が反訴した事例を挙げた。

反訴代理人・石森雄一郎弁護士(2日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)
石森弁護士:「裁判所は久保田氏の本訴請求を棄却する一方、ちだい氏の反訴請求を一部認容し、提訴自体が不法行為にあたるとして、久保田氏に損害賠償の支払いを命じた(約78万5000円。千葉地裁松戸支部令和元年(2019年)9月19日判決。控訴審(東京高裁令和2年(2020年)3月4日判決)も支持)。
この先例を考慮しても、今回に関しては、判例の規範に当てはまる可能性がきわめて高いと考え、反訴を提起した」
また、郷原弁護士は、判例の基準を前提として、以下の通り説明した。
郷原弁護士:「福永弁護士は、そもそも(自分自身が発言し動画として記録されていることを)容易に確認することができるのにそれをせず、全く請求権がないことを請求している。
裁判所が『これはさすがにダメですよ』と判断し、不当提訴の典型例として残すことができれば、今後、同種の訴訟に対する防波堤になると考えている」
本訴請求のなかで郷原弁護士への名誉毀損を「自白」?
なお、郷原弁護士は福永弁護士への反訴請求において、前述の福永弁護士の「発言A」「発言B」について自身に対する名誉毀損が成立するとし、不法行為に基づく損害賠償請求権も主張している。郷原弁護士によれば、まず「発言A」については、斎藤知事らの告発以前に行った告発は3回。そのうち「告発した事件が処罰されない決着になるという意味での『負け』は1件もなく、福永弁護士の発言は明らかに事実に反する」としている。
また「発言B」については、郷原弁護士は地上波テレビへの出演について「検察批判を行っていることなどが影響してか、ここ何年も出演していない。出演させてほしいともまったく思わない」と述べた。
そして、「上記発言は、一般視聴者をして『公正中立な客観的正義を追求する反訴原告において、あたかも自らの信念をねじ曲げて、マスメディアに出演したいがために、マスメディアにこびてマスコミが求める言動をする人物』との印象をもたらし、同人の社会的評価を低下させるものである」とする。
これらの点について、前述の通り、福永弁護士は本訴請求で、自身が「記述①」「記述②」に相当する発言を本当に行っていたら「郷原先生の社会的評価を低下させる」ことを認めている。
郷原弁護士はこのことをさして、「訴状の記載内容からして、自分の違法行為、不法行為の自白にあたる」と指摘した。
福永弁護士は、会見を受けての弁護士JPニュース編集部の取材に対し「反訴が認められることは100%ないです」と回答している。