築40年超マンション“急増”で改正法成立 「売却・建て替え・リノベ」が“劇的に”しやすくなる?
分譲マンション関連の一括改正法が5月23日、参院本会議で可決、成立した。一括売却やリノベーションへの可能性が広がり、建て替え時の要件も緩和される。
施行は2026年4月を予定。
日本初の分譲マンションは1953年に東京都が分譲した宮益坂ビルディングといわれる。民間では、その3年後の1956年に日本信販が分譲した「四谷コーポラス」が初。いずれも、区分所有法(1962年)施行以前だ。
以来約70年、分譲マンションは戸建てに準ずる日本人の住居として定着し、いまでは国民の1割強が居住していると推計されている。
今回の改正対象にもなっている区分所有法は、建物を複数の所有者が所有する場合の権利に関する法律で、原則、一戸にひとつの所有権を前提とする民法に収まらない新しい居住の形を円滑に営む役割を担い、これまでに幾度かの改正を経て、現在に至っている。

マンション高齢化加速で特有の問題顕在化

戸建てと比較し、堅牢でセキュリティー面でも安心感があるのがマンションの魅力といえる。一方で、他の居住者と区分を所有しあうため、建物全体としての居住者個々の自由度は当然、制約を受ける。
国土交通省の調べでは、2023年末における築40年以上のマンションは136.9万戸。今後、こうした老朽化したマンションの急増が見込まれており、2043年末には460万戸を超えると予測されている。そうなるとマンション特有の問題が顕在化することになる。
築40年超マンション“急増”で改正法成立 「売却・建て替え・...の画像はこちら >>

今後、老朽マンションの数が急増していく(出典:国土交通省ウェブサイト)

「昨今、建物と居住者の‟2つの老い”が進行しており、外壁剥落等の危険や集会決議の困難化等が課題となっています。
たとえば、所有者が相続や転売によって変わって連絡がつかない場合でも、これまでは全員の同意をとることが前提でした。
住民の高齢化も進んでおり、それは非常に困難といえ、こういった場合でも対処できるよう、要件が緩和されたといえます」
分譲マンション関連法が改正される背景をこう解説するのは、不動産トラブルに詳しい辻本奈保弁護士。
「マンション建て替えに区分所有者全員の同意が必要だったころは、1人でも反対者がいると事実上不可能となり、老朽化や災害で危険な状態でも再生が進まない事例が多発していたといいます」

現実に即した要件緩和

今回の改正では、加速するマンション老朽化、大規模化なども踏まえ、より現実に即した要件緩和がなされる方向で調整が進められている。
具体的には、マンションの取り壊しや売却などは、これまでの「全員の同意」から「5分の4の賛成」に、外壁の耐火性や耐震性の改修・修繕は「4分の3の賛成」に、大きな災害時は「3分の2の賛成」(被災区分所有法)で建て替えや取り壊しが可能になる。
堅牢なマンションといえど、経年による老朽化は不可避。環境変化に合わせた要件の緩和は、住環境維持の面でも大きな意義がある。
併せて、資産価値としてのマンションの可能性を広げることにもなる。

改正後、老朽マンションはどうなる?

「今後は、一括売却や一棟リノベーションの事例が増加していくことが考えられます。
所有者の高齢化や資金負担の問題から、建て替えよりも一括売却を選択するケースも増えるかもしれません。
また、リノベーションや再開発による資産価値向上を目指す動きも活発化する可能性があります。建て替えだけでなく、選択肢が増えることは、マンション所有者にとってメリットといえるでしょう」(辻本弁護士)

改正法の課題と今後

国交省の「今後のマンション対策のあり方に関する検討会とりまとめ」(2020年)によると、1980年時に「いずれは住み替える」57%に対し、「永住するつもり」は21.7%。それが、2018年時の調査では、「住み替える」が17.1%と激減した一方、「永住する」が62.8%に逆転している。
マンション居住者の意識もこの半世紀近くで大きく変化しており、今後、老朽マンションをめぐる動きも、法改正と深く連動していく可能性がある。
もっとも、改正法には課題も。辻本弁護士が指摘する。

「まずは少数者救済の仕組みの運用が課題となってくると考えられます。
一括売却の場合、従前の住民コミュニティーが解体されるという側面もあります。
また、今回の改正では、分譲マンションの共有部分に欠陥があった場合の損害賠償請求権について、転売されたマンションについては、現在の所有者ではなく、元の所有者が請求権を持ち続けることが前提となっています。
元の所有者がこの権利を主張すれば、例えば、実際に居住している現在の所有者による必要な修繕ができなくなり、この点に重大な懸念がある、という指摘もあります」
これまでは、一括売却やリノベーションも極めて困難だった分譲マンション。その要件を緩和する改正法は、環境変化にそぐわず硬直化していたルールに風穴をあけることになるが、自由度が高まる分、区分所有者個々の多様な価値観をどこまでまとめられるかが、次なる‟関門”となりそうだ。


編集部おすすめ