
法務省は氏名の読み方に基準も設ける。
名前の「フリガナ」規制が始まっている
「心」と書いて「ピュア」、「海」と書いて「マリン」、「光宙 」と書いて「ピカチュウ」など、漢字本来の意味から外れており、読むことの難しいフリガナを付ける「キラキラネーム」は以前から世間の批判を浴びていた。戸籍法50条では「子の名には、常用平易な文字を用いなければならない」と定められている。しかし、これまで、氏名のフリガナに関する法的な規制は存在してこなかった。
今回の改正で、戸籍に記載しなければならない事項にフリガナが追加された(13条2項)。行政デジタル化の一環であり、情報のひも付けがしやすくなるなどのメリットがあるという。
今後、住民票の情報を基に読み仮名を通知するはがきが本籍地の市区町村から発送されていく予定。もし変更したい場合には、1年以内の届け出が必要となる。
そして、法務省は、フリガナは「氏名として用いられる文字の読み方として一般に認められているものでなければならない」との規律を設けた。これにより、実質的に、キラキラネームの規制が行われることになる。
「太郎(マイケル)」や「健(ケンイチロウ)」がNGに
法務省の発表によると、以下のような読み方は認められない。(1)漢字の意味や読み方との関連性を認めることができない読み方。
例:「太郎」を「ジョージ」や「マイケル」と読ませる。
(2)漢字に対応する単語に、明らかに異なる別の単語を付加した読み方。
例:「健」を「ケンイチロウ」や「ケンサマ」と読ませる。
(3)漢字の持つ意味とは反対の意味で読ませる、別人と誤解するように読ませるなど、社会を混乱させる読み方。
例:「高」を「ヒクシ」、「太郎」を「ジロウ」と読ませる。
上記の他にも、差別的・卑わい・反社会的など、社会通念上相当とはいえない読み方は「認められないものと考えます」と、法務省は発表している。
一方、以下のような読み方は認められるという。
(1)漢字の一部を当てる読み方。
例:「心愛」を「ココア」、「桜良」を「サラ」と読ませる。
(2)熟語として一般的な読み方。
例:「飛鳥」を「アスカ」、「五月」を「サツキ」と読ませる。
(3)読まないが漢字の意味が関係する、「置き字」を含む読み方。
例:「美空」を「ソラ」、「彩夢」を「ユメ」と読ませる。
「命名権」の侵害に問題はないか?
従来、一般的には、子の名前は親が自由に付けてきた。「命名権」などの権利が、法律によって明確に地位づけられているわけではない。
自由権や行政問題に詳しい杉山大介弁護士は、憲法13条からはプライバシー権と同様に「子に自らの欲する名前を付ける権利」が生み出されると評価することができる、と指摘する。
「ただし、国が戸籍として管理する上で、字の使用についてすべてを自由にすることはできません。
たとえば、落語『寿限無(じゅげむ)』に登場する子供の名前は108字もありますが、そのような名前を現実に認めると記載上の弊害が出てしまいます。
また、漢字の表記と音(フリガナ)を一致させることによって管理上の困難を回避することにも、一定の理由があります。
戸籍法の改正後も、希望する音に合わせた漢字を選んだり、逆に希望する漢字に合わせた読み方を選んだりすれば、親はある程度まで自由に子の名前を付けることができます。
したがって、法務省の規律による命名権の制限は、かなり部分的かつ限定的なものと考えられるでしょう」(杉山弁護士)
つまり、仮に「命名権」という権利があったとしても、その権利の制約は合理的な範囲に収まっているため、改正戸籍法や法務省の規律は「合憲」と評価できるという。
キラキラネームを認められなかった親が自治体と争う可能性も?
「悪魔ちゃん」の父親と争った昭島市役所(あやともしゅん / PIXTA)
規律を発表したのは法務省だが、フリガナの審査を行うのは各自治体の担当部署だ。これにより、ある「キラキラネーム」が許可されるかされないか、自治体によって判断基準に差が出てくる可能性もある。
行政法には「行政は法の適用において平等でなければならないという」という「平等原則」がある。
「法務省の規律はあくまで『戸籍法』という国全体で使われる制度・ルールに関するものであり、地方自治体ごとの個性などが想定されているものではありません。
そのため、特定の自治体が勝手な解釈で制限を加えた場合には、それは違法になり得ます。
訴訟までする人が出ないと審査されないという問題はありますが、法が自治体ごとの差を良しとしているわけではないのです」(杉山弁護士)
1993年には、「悪魔」と命名された男児の出生届の受理手続きを昭島市役所(東京都)が中止したことで、男児の父親と市の間で争いが起こった(翌年に父親が不服申し立ての取り下げ手続きを行ったことで争いは終了)。
今後、子に付けた「キラキラネーム」が認められなかった親が新たな争いを起こす可能性もあるかもしれない。