
寳達氏は3月11日の町長選において無投票で3期目の当選を果たしたが、同月23日に宝達志水町を含む選挙区の県議が急逝。その後継者として、出馬の要請を受け、これに応じたもの。町長の任期が始まってわずか1週間後の辞意表明だった。
町議会では「無責任」などの声が上がり、町長の辞職は承認されなかった。結局、県議選への立候補に伴い「失職」した。なお、寳達氏は同選挙で初当選し、現在は県議会議員を務めている。
無投票当選とはいえ、町長に立候補し選出された直後に県議選に出馬することに問題はないのか。地方自治法の専門家である神奈川大学法学部の幸田雅治教授に聞いた。
法的な問題は「まったくなし」
一般に、公職者が任期途中に辞職し、他の公職に立候補するケースは珍しくない。本件に限らず、任期途中での「くら替え」が批判されるケースは往々にして見受けられる。幸田教授は、この「任期途中でのくら替え出馬」に法的な問題はないと説明する。
幸田教授:「法律上、公職者が在職中に他の一定の公職に立候補した場合には、その立候補届出の日に辞職したとみなされることになっています(公職選挙法90条)。
この規定は、任期途中に職を辞して他の公職に立候補するケースがあることを予定しています。
そもそも、公職の任期はそれぞれ異なり、選挙のタイミングにズレがある以上、任期途中で辞職するケースは必然的に発生せざるを得ないのです」
本来、市町村長が退職する場合には、原則としてその20日前までに議会に申し出なければならない。それより前に退職するには議会の同意が必要である。
幸田教授:「本件では、寳達氏は20日後まで待っていては県議選に立候補できないため、議会の同意が必要でした。
しかし、議会が同意しなかったので、公職選挙法90条の規定に基づいて『みなし辞職』を選んだということです。
したがって、法的な問題はまったくありません」
神奈川大学法学部・幸田雅治教授
道義的な問題は「乏しい」
とはいえ、任期途中、しかも当選から1週間程度というごく短期で退任することには道義的な問題はないのか。事実、町議会が寳達氏の町長辞職願に対し不同意の議決を行った際の討論では、「無責任」と非難する声があり、かつ、それまで寳達氏を支援してきた町議からも再考を求める声、批判の声が上がったと報じられている。
しかし、幸田教授は、道義的な問題も乏しいと説明する。
幸田教授:「町長に立候補して無投票で当選した時点では、『町長をすぐに辞めよう』という気持ちはなかったと考えられます。
たまたま現職の県議の急逝という緊急事態が起きて新しい状況が発生し、支持者らから後継者になるよう要請されたという、やむを得ない事情があります。
辞職することの道義的問題は乏しいといわざるを得ないでしょう」
最後は「有権者がどう判断するか」
参考までに、本件では町長の任期の3期目だったが、たとえば初当選して最初の任期の1週間目だった場合はどうか。幸田教授:「初当選の場合、すぐ辞職して他の公職に挑戦するならば、強い批判を受けるかもしれません。道義的な問題は否定できないでしょう。
しかし、その場合でも、最終的には選挙で有権者が判断するべきことです」
町長を辞職して出馬した県議補選で、寳達氏の得票は次点候補者を898票上回った(9450票vs.8552票)。
この数字からは、住民のなかでも支持・不支持が割れていたこと、選挙区内でもトーンの違いがあったこと、そのなかで選挙戦が展開された結果として、寳達氏が僅差で当選したことがわかる。
寳達氏は相応の覚悟を持ち、決して低くない落選のリスクを背負ったうえで、身の処し方を選択したと考えられる。また、住民の間でもそのことについて葛藤があったことがうかがわれる。
そのなかで、不正等が介在しない公正な選挙によって示された「民意」は尊重されなければならない。本件は、そのことが端的に表れた事例だといえよう。