「お金がなくて…」80代母が死亡も、50代娘が遺体を自宅に放置し逮捕 “悲劇”はどうすれば「避けられた」のか
5月31日、大阪府松原市で、アルバイトの52歳女性が、自宅に女性の遺体を放置したとして死体遺棄罪(刑法190条)の容疑で逮捕された。
被疑者は、遺体の主は同居していた80代の母親であり、昨年6月頃に体調を崩して亡くなったが、「お金がなくて届出をしなかった」などと話していたという。

経済格差が拡大し、貧困が深刻な社会問題になっているなか、このような事件は誰にとっても決して他人(ひと)ごとではない。経済的に困窮している人が本件の被疑者と同様の立場になった場合、公的に支援を受けられる制度はあるのか。

無条件で「5万円」受給できる制度はあるが…

まず、日本では、人が亡くなったら、遺族は多くの場合、公的医療保険制度から葬儀費用の補助を受けることができる。なぜなら、国民全員がなんらかの公的医療保険制度に加入しているからである。
本件で、亡くなったのが被疑者の80代の母親だったとすると、「後期高齢者医療保険」に加入していた場合には、葬祭を行った者に「葬祭費」が支給される。
葬祭費の金額は3万円~7万円で自治体により異なる。また、自治体によっては、火葬のみで済ませる場合は対象外としているところがある。
大阪府松原市の場合は5万円が支給される。また、同市の医療支援課に確認したところ、火葬のみでも受け取れるとのことだった。
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松原市役所(まきたまる/PIXTA)

個人事業主等が加入する「国民健康保険」にも「葬祭費」の制度がある。また、会社員・公務員等が加入している「健康保険」(被用者保険・社保)には「埋葬料」「家族埋葬料」の制度がある(金額は原則一律5万円だが、組合により異なる定めをおいている場合もある。火葬のみでも可)。
ただし、受給するには、「誰の火葬をいつ行ったか」を証明する資料等を提出する必要がある。
多くの場合、事実上いったん「自腹」で費用を負担しなければならないだろう。

「葬祭扶助」なら1円も払わずに済む

しかし、本件では被疑者と母親は経済的に困窮していたとみられ、後期高齢者医療制度の保険料が未納だった可能性も考えられる。
また、葬祭費は上述の通り、葬祭を行った旨の資料を提出しなければならないため、事実上、費用をいったん自己負担しなければならないケースが多いと考えられる。
では、そのような場合、遺族はどうすればいいのか。
実は、葬祭費等の制度とは別に「葬祭扶助」の制度がある(生活保護法11条1項8号)。これは、葬祭費等とは異なり、事前に申請して受け取る制度なので、1円も支払わずに済む。
葬祭扶助は、経済的に困窮した人が、「検案」「死体の運搬」「火葬または埋葬」「納骨その他葬祭のために必要なもの」について扶助を受けられる制度である(生活保護法18条)。葬儀を実施する前に申請し、受給するしくみ。
上限額は自治体に応じて異なり、また、亡くなった人の年齢などによっても異なるが、おおむね16万円~20万円程度。
受給要件としては、まず、「困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者」が挙げられる。これは現に生活保護(生活扶助等)を受給しているかどうかとは関係なく、あくまでもその時の経済状態によって判断される。
本件の被疑者女性は、簡易な葬儀を行うためのお金すら準備できなかったとみられ、葬祭扶助の受給要件をみたす可能性があったといえる。
なお、本件とは無関係だが、亡くなった人に身寄りがない場合にも、以下のいずれかのケースでは葬祭扶助が認められる(同条2項)。

  • 被保護者が死亡した場合において、その者の葬祭を行う扶養義務者がないとき(1号)
  • 死者に対しその葬祭を行う扶養義務者がない場合において、その遺留した金品で、葬祭を行うに必要な費用を満たすことのできないとき(2号)

葬祭扶助を申請するタイミングと手続き

前述したとおり、葬祭扶助の申請は、葬儀を実施する前に行わなければならない。したがって、たとえば、いったん借金して葬儀を行い、その後に申請しても認められないので、注意が必要だ。
申請は原則として喪主が行うが、葬儀社に代行してもらうこともできる。申請先は以下の通りである。
  • 申請者が扶養義務者の場合:申請者の住所地の市区町村役場または福祉事務所
  • それ以外の場合:故人の最後の住所地の市区町村役場または福祉事務所
申請後、審査が行われ、福祉事務所の「ケースワーカー」の質問に回答したり、各種の書類を提出したりする必要がある。
そして、葬祭扶助が認められた場合、福祉事務所から直接、葬儀会社に対して葬儀費用の実費相当額が支払われる。したがって、葬儀費用が葬祭扶助の上限額以下であれば、1円も負担しなくてよい。

「悲劇」を未然に防ぐには

本件の被疑者女性は、葬祭扶助の制度を知っていれば、これを利用して母親の葬儀を行うことができた可能性がある。
葬祭扶助や生活保護に限らず、わが国では、経済的に困窮した人に対するさまざまな公的な制度が整備されている。しかし、それらのほとんどは申請しなければ利用できない。したがって、セーフティーネットにたどり着けなかったことに起因する痛ましいできごとが、あとを絶たない。
私たちは日頃から、経済的に困窮したらまず国・地方自治体からサポートを受けられること、頼っていいのだということを意識しておく必要がある。また「明日はわが身」ということを十分に理解し、決して「生活保護バッシング」などを許してはならないといえる。

また、行政の側でも、今回のような悲劇を未然に防ぎ、セーフティーネットが必要な人を漏れなく救うことができるようにするべく、周知徹底のための啓発活動をより一層強化しなければならないだろう。


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