「どこよりも高く買い取ります」→実際は“約半数”が「予想以下の金額」 法改正後も"認識の溝"埋まらないワケ
スマホ買い替えを検討したAさんは、都内の中古買取店舗でスマホを売り、新規スマホ購入資金の足しにした。「買取価格10%アップ」のキャンペーン中だったことが、買取店舗選定の決め手となった。

大きな不満こそなかったものの、本当に買取価格が10%アップされていたのかは「よくわからなかった」という。

買取サービスの結果に半数近くが「不満」

Aさんのように、買取サービスの買取価格や査定額にモヤモヤとした思いを抱いている人が多数いることは、公的機関による調査でも示されている。
消費者庁が4月30日に公表した「買取サービスに関する実態調査報告書」によると、買取価格や査定額が想定を下回った人は、半数近かった。
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買取額に多くが「不満」(出典:消費者庁「買取サービスに関する実態調査報告書」)

たとえば、Aさんのように「買取価格アップ」をうたう買取サービスを利用したケースでは、49.5%が「予想した額よりも低かった」と回答。「買取価格保証」をうたう買取サービスのケースでは52.2%が「保証を下回る金額だった」と答えている。
一方で、複数の店舗に査定を依頼した人は25.9%にとどまった。「面倒だったから」(35.5%)、「早く売却したかったから」(35.7%)などの理由だ。
利用者側が買取額の不満をあらわにしないこともあるにせよ、そもそも、買取における表示については、2024年までは景品表示法の対象外だった。同年4月に「景品類等の指定の告示の運用基準について」が改正され、ようやく、買取サービスがその対象となることが明確化された。
背景には、消費者の節約やエコ意識などの高まりがある。買取市場も年々伸長し、2023年の買取市場は約1.3兆円ともいわれる。当然、買取サービス間の競争も激化し、それに伴い表示が実態と乖離(かいり)する事例も目立ち始めている。

買取サービスとの正しい向き合い方

そこで、景品表示法に詳しい永木琢也弁護士に、買取サービスの実状や利用時の注意点、スマートな振る舞い方などを聞いた。

買取サービスを選ぶ際、「買取価格アップ」「なんでも買い取ります」との広告表示も選定基準になり得ると思います。
景表法の観点で、どのような点に注意すればいいのでしょうか。

永木弁護士: 「買取価格アップ」や「なんでも買い取り」といった強調表示のみならず、その例外条件などが記載された打ち消し表示も読むことが前提として必要となります。
また、強調表示のみしか記載されておらず、打ち消し表示の記載がないものについても、例外があることを前提として、条件を確認したり、別の事業者を利用したりすることも検討してみてください。そして、買取に出すモノの価値に応じて、複数の事業者に査定を依頼することも検討した方がいいでしょう。

買取サービスが景表法の対象となって1年が経過しました。十分に浸透しているといえるのでしょうか。

永木弁護士: 消費者庁の実態調査報告書では、ヒアリングを実施した14社中、「表示や景品に関する社内研修を実施するなど景品表示法を遵守するための体制を整備している」と述べる事業者は9社にとどまっています。不当表示防止に対する管理体制が整っていない事業者が複数見られる点も課題となっています。
一方で、消費者としても、74.1%が複数の事業者に査定を依頼していないと回答しています。買取サービスの利用に際して、多くの消費者は広告をきっかけに買取店を利用する一方で迅速さや手軽さを優先する傾向もあり、提示された価格や条件の妥当性を十分に吟味していない可能性があることが課題として挙げられます。

不満があれば通報や相談を

消費者にしてみれば、不要になったモノを「買ってもらい」収入になることから、出費となる購買時ほど、対応や結果に対するこだわりが薄い印象もします。

永木弁護士: 正しい表示がされていないとすれば問題ですから、消費者としては「どのような場合に例外が適用されるのか」を理解したうえでサービスを利用することが賢明であると思います。
また、例外事項などが表示されていないにもかかわらず、例外として買取価格がアップしていなかったり買取を拒否されたりした場合には、消費者庁への通報や消費者センターに相談を行うことも考えてください。

消費者庁調査報告書によると、事業者へのヒアリング調査で「買取価格アップ」「買取価格保証」などの表示から逸脱していない旨を回答しています。また、「どこよりも高く買い取り」という表示は「意気込みや自負を表現したに過ぎない」と。このような業者の主張に対して、景品表示法はどのように適用されるのでしょうか。

永木弁護士: 「意気込みや自負を表現したに過ぎない」と事業者が認識したとしても、景品表示法の適用は「一般消費者がどのように認識するのか」という観点から適用されるため、事業者の認識にかかわらず、表示内容と実態とが乖離している場合には不当表示として景品表示法に違反する可能性があります。
そのため、「買取価格アップ」「買取価格保証」「どこよりも高く買い取り」と表示しながら、実際には「買取価格をアップさせずに買い取る」「保証価格未満で買い取る」「他社での買取り金額を下回る金額で買い取る」などの結果になった場合には、有利誤認表示に該当する可能性があります。
また、「どこよりも高く買い取り」については、いわゆる、比較広告やNO.1広告に該当します。したがって、「どこよりも高く買い取り」と表示するためには、相応の調査を行うなどの合理的な根拠が必要であり、合理的な根拠なく表示する場合には、有利誤認表示に該当する可能性があるのです。
いまや買取サービス利用も消費活動の一環といっていい時代。より安く買うために知恵を絞るのと同じように労を惜しまないことが、買い叩かれず、より高く買い取ってもらうための確かな方策といえそうだ。


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