報道によれば、5人は昨年11月8日から10日にかけて共謀し、たばこ約2800箱、総額約163万円相当を不正に購入した疑いが持たれている。
警視庁は、逮捕されたオーナーらが昨年5月頃から同年11月にかけても約17万箱・総額1億円分の加熱式たばこを転売目的で不正購入し利益を得ていたとみて、調べを進めている。
不正入手されたカード情報、転売目的の加熱式たばこ、舞台は歌舞伎町――。事件の全体像が明らかになるにつれ、その組織性と悪質性が浮かび上がってきた。そして驚くべきことに、犯罪を主導していたのは、当のコンビニ店オーナーだという。
主犯とされるコンビニオーナーに問われる罪は?
この事件について、刑事事件に詳しい荒木謙人弁護士が法的な観点から解説する。「一般的な詐欺罪(刑法246条)は、相手を欺いて財物や財産上の利益を取得する行為を処罰します。
これに対して、今回のように他人のクレジットカード情報を不正に使用して決済処理を行うケースでは、電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)の適用が問題となります。
この罪は、虚偽の情報を入力して電子計算機(=決済システム)に誤処理を生じさせ、財産上の利益を得る行為を処罰するものです。法定刑は10年以下の懲役刑と、通常の詐欺罪と同等の重い罪です」
“被害者”は誰か?
では、不正に使用されたクレジットカードにより被害を受けたのは誰なのか。この点について、荒木弁護士は次のように解説する。「クレジットカードが不正使用された場合、カード会社が加盟店に代金を支払い、その後、カード名義人に請求する仕組みとなっています。
したがって、クレジットカードの不正使用が発覚した際には、代金を一時的に立替えたカード会社が被害届を提出し、被害者として扱われるのが一般的です」
なお報道によれば、本件の不正決済はカード会社に照会がなされない形式で処理されており、取引上限が低いために何度も繰り返し決済が行われたという。
この点は、内部に精通した者が関与していなければ成し得ない手口であり、オーナー主導の可能性を補強する事実といえるだろう。
オーナーの関与はどこまで重い?
今回の事件では、本来なら被害者側に立つはずのコンビニオーナー自身が主導していたとされている点に注目が集まっている。「仮にオーナーが何らかの脅迫を受けてやむを得ず犯行に加担したのであれば、緊急避難(刑法37条)が成立して違法性が否定される可能性もあります。
しかし、報道内容からは、長期間にわたり積極的に犯行に加担し、利益を得ていた様子がうかがえます。この場合、緊急避難の余地はなく、犯罪が成立する可能性は極めて高いと考えられます」
さらに荒木弁護士は、主犯格としての法的責任にも言及する。
「オーナーが実行犯を指示・勧誘していた場合、たとえ自ら手を下していなかったとしても、共謀による共同正犯(刑法60条)として責任を問われます。
特に、店舗設備や決済システムに通じていた立場を利用し、組織的な犯行を主導していたと認定されれば、量刑はさらに重くなる可能性があります。被害額も高額であることから、示談が成立せず、被害弁償もなされなければ、実刑判決となる可能性は高いです」
オーナーが犯行に及んだ背景とは
では、なぜ本来経営者であるオーナーがこのような重大犯罪に加担したのか。荒木弁護士は、背景事情について次のように述べる。「店舗側がこの種の不正に関与するのはまれではありますが、経営難などから売り上げを確保しようとする動機があった可能性や、海外から来日した実行犯・犯罪グループが国内店舗を取り込んで犯行を拡大していた可能性も考えられます」
「たとえ初犯でも、実刑の可能性がある」弁護士が警鐘
荒木弁護士は最後に、事件の重大性とその帰結について、次のように警鐘を鳴らした。「報道では、今回の被疑事実として約2800箱・総額163万円のたばこが不正購入されたとされています。
しかし、仮に1億円近くに上る被害全体が認定されれば、その弁済は極めて困難であり、長期の収監は避けられないでしょう。
また、詐欺罪・電子計算機使用詐欺罪はいずれも罰金刑が規定されていない重罪であり、嫌疑が不十分であるか、示談が成立しない限り、原則として公判請求(起訴)されることになります。
たとえ初犯であっても、被害額が大きければ実刑判決が言い渡される可能性が高いことから、今回のような行為は決して軽視してはならず、絶対に行ってはならないという認識が必要です」