同日、調査団は都内で記者会見を開き、その内容を報道陣に発表した。
市の対応を「明確に違法」と断じた「第三者委員会報告書」
きっかけは、2023年11月に、桐生市で生活保護費の「分割・一部支給事件」が発覚したことだった。生活保護費を1日1000円に分割して渡し、総額としてその月に支給すべき保護費を下回る金額しか支給せず、残金を福祉事務所の金庫に収納する扱いを行っていた事例など、3事例が発覚した。このような扱いは法令で認められておらず、明らかに違法である。
そして、同年12月18日、市長の定例記者会見において、「保護費の分割支払い」と「月をまたいでの残金支払い」のほか、 事務手続きの不備による保護費の「支払いの遅延」、福祉課で「認印」を保管して使用していた事例など、多くの不適切な対応があったことが公表された。
これらを受け、去年1月に第三者委員会が設置され、1年あまりの調査・検証の結果、今年3月28日に報告書が公表された。その中で、上述の3事例について、明確に違法と断じられた。
全国調査団の田川英信氏(生活保護問題対策全国会議)、小林美穂子氏(一般社団法人つくろい東京ファンド)、渡辺恒(ひとし)桐生市議会議員、吉田松雄氏(全国生活と健康を守る会連合会(全生連)会長)らは記者会見で、「分割・一部支給の3事例は、氷山の一角でしかない」と指摘し、第三者委員会報告書の内容と問題点について報告を行った。
市が認印1948本保管も…“組織的不正”を認定
第三者委員会は、生活保護費の分割・一部支給の3事案が生活保護法(3条、8条、31条等)に照らしいずれも違法と断じた。また、うち1件で、保護費の受領書にケースワーカーが架空の日付に本人のものでない認印を使用した受領印を勝手に押印していたことが判明した。この点については、同種の事例が多数存在していることも認定された。認印は市に1948本保管され、86世帯に使用されていた。
保護費の分割支給についても、その判断が査察指導員以上の職位にある者の指示で行われたことが明らかになった。分割支給についてケース記録に記載されたのは14件中わずか1件であり、不正行為隠しのためだったのではないかという疑念が表明されている。
以上の行為が幹部職員の指示のもとに組織的に行われ、地方自治法違反、生活保護法違反であることも認定されている。
保護者数・保護率の「10年半減」は「保護申請権の侵害」等が原因
桐生市では2011年(平成23年)以降の10年間で、生活保護利用者と保護率がほぼ半減し、生活保護費が約45%まで減少した。この点につき、第三者委員会報告書では、「保護申請権の侵害が疑われる事情」など複合的問題が原因であったと結論づけた。
また、桐生市の保護世帯・保護率の急減が、国全体や群馬県内の他都市と明らかに異なる傾向であること、非課税世帯等の量がここ数年間横ばいかやや増加傾向であること(30%超の水準)、母子世帯数からみた捕捉率が低いこと(前橋市・高崎市では5%程度のところ桐生市は1%未満)など詳細な検討がなされている。
他方で、現場職員を対象としたアンケートでは半数近くが「10年半減」を生活保護業務の「適正化」の結果と考えていることが明らかになった。
全国調査団が指摘する「調査不十分・未検証」の問題点
桐生市の第三者委員会による以上の調査結果について、全国調査団は、高く評価しつつも、不十分な点、検証されなかったその他の問題点を指摘した。まず、保護申請権の侵害にかかわる「生活保護開始決定時の決裁慣行」「保護開始とならない対応を推奨するかのような雰囲気」の原因や組織的指示等について「さらに調査を要する」としている。
また、保護費の分割支給を事実上担当し、未支給の保護費を保管していた「金銭管理団体」の関与についての調査も「極めて不十分」と指摘している。
すなわち、桐生市では生活保護開始時から「第三者民間団体」(金銭管理団体)による金銭管理が行われ、それが本人の希望に基づくものか確認できない事案が指摘されていた。
この問題に関し、第三者委員会の調査結果では、金銭管理団体に対する事情聴取のみを行い、「本人の意思がどれほど尊重されていたといえるのかという点に疑義」を示した。
全国調査団はこの調査内容について、利用者(被害者)からの聴取を行っていない点が「極めて不十分」とした。
次に、第三者委員会が、調査団が要望していた以下の問題点の検証をしないままであることを批判している。
- 保護辞退による保護廃止数の多さ
- 施設入所による保護廃止数の多さ
- 家計簿提出を保護係属の条件としていた問題
- 通院移送費の異常な少なさ(年間2400円)
- 警察官OBの多さと業務内容
「今後の課題」も指摘
全国調査団は、今後の課題として、上述した「調査不十分・未検証」の調査に加え、第三者委員会へ寄せられた市民からの情報提供の内容について「緊急に救済等のフォローが必要」であると指摘した。情報提供の内容は以下の通りである。
- 水際作戦(25件)
- 暴言・威圧的言辞・恫喝(25件)
- 分割支給・一部支給(12件)
- 金銭管理団体(9件)
- 他市への転居要求・桐生市への転入拒否(9件)
- 出せる給付を出さない・違法な説明・廃止(9件、うち通院交通費2件)
- 扶養の強要・扶養援助のカラ認定(7件)
- 事務所に連れてくるよう要求(2件)
「再発防止策」等の実施要求も
さらに全国調査団は、第三者委員会報告書が提案した再発防止策をはじめとする改善策を市が着実に実施するよう求めた。第三者委員会報告書が提案した方法は以下の通り。
- 情報提供の要望に応えること
- すべての窓口相談の録音、録画
- 生活保護利用者を支援する体制の整備(セカンドオピニオンを聴ける体制を作る。福祉事務所外に「包括的なサポートを行う部門」を作る)
- 「生活保護行政の健全化のための道程を記す五か年計画」を策定し、その指標到達の検証のために審議会、会議体を設置する。会議体には複数の市民委員、生活保護利用当事者を含めて選定する
- 公益通報制度の運用
このほかに、一連の事件に関する職員への処分が軽すぎること、あるいは「おとがめなし」であることを指摘し見直しを求め、かつ個人の刑事責任の追及を行うことも要求している。
加えて、分割受給の事例に関して提起された国家賠償訴訟において、5月16日の期日で市側が原告の請求を争う姿勢を維持したことについて、「適切に対応する」との市長コメントに従って「認諾し訴訟を早期に集結させ、原告に謝罪すべき」としている。
桐生市の生活保護行政において、「法律による行政の原理」という近代国家の大原則がゆがめられ、いわば行政が組織ぐるみで「生活保護バッシング」を行っていたことが第三者委員会によって明らかにされた。このことは厳しく批判され、かつ克服されていかなければならない。
しかし同時に、制度への無理解や誤った事実認識に基づく「生活保護バッシング」が時折沸き起こることに代表されるように、違法な行政対応が平然とまかり通るのを許す土壌が日本社会に存在してきたことも、忘れてはならないだろう。