美容脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を運営するMPH(旧ミュゼプラチナム、本社・東京都港区)の高橋英樹社長が6月6日、都内で会見を開き、今月2日付で同社を解散したことを発表した。また今後は、通常清算または特別清算を進めていきたい意向を述べた。

負債総額は約260億円。給与未払いとなっている元社員・従業員は約2400人に上る。同社解散の“背景”には何があったのか。(ライター・榎園哲哉)

再建の意向から一転、解散・清算へ

会見には、高橋社長とMPH元監査役で代表清算人を務める武藤元(はじめ)弁護士の2人が出席。冒頭、高橋社長が「MPH株式会社は、株主総会決議により、会社を解散することにいたしました」と伝えた。
美容脱毛サロンを全国におよそ170店舗展開していたMPHだが、昨年来、経営状況が急激に悪化、混迷した。
昨年9月、経営陣を刷新し、旧ミュゼプラチナムからMPHへ移行。しかし、同11月から社員への給与の遅配・欠配が出始め、さらに、今年3月までにほぼ全社員・従業員に退職勧奨する事態に至った。
これに対し元社員の一部が5月、未払い給与の支払いを求め東京地裁へ第三者破産を申し立て、受理された。
申し立てを受け高橋社長は、同月、MPHの「YouTube」公式チャンネルで「ミュゼプラチナムを再度築き上げることをお約束します」と再建の意向を示し、「一日でも早く(未払い給与を)お支払いできる環境を整えるべく、全力を尽くしてまいります」と語っていた。

破産ではなく清算を求める理由とは

MPHは「破産」ではなく、あくまで解散のうえ「通常清算」または「特別清算(会社の資産では債務を弁済し切れない=債務超過=場合に行われる)」を進めたい考えだ。
破産と通常清算および特別清算とでは「管理処分権」の帰属に違いがある。裁判所によって選任された破産管財人に同権利が委ねられる破産に対し、特別清算は株主総会で選任された清算人に委ねられる。
同社においては元社員の一部がすでに第三者破産申し立てを行っているが、高橋社長は破産ではなく、清算を進めたい理由として、次の点を挙げた。

「(破産では)顧客への施術・サービスが継続されなくなるからだ。第三者破産申し立てにより破産手続きに移行した場合、手続きの中で一律に処理され、店舗の運営再開ができなくなるため、未施術のサービスの提供がかなわなくなり、お客さまに大きな不利益が生じる恐れがある。
また、元社員が第三者破産申し立てで『法律上の倒産』『事実上の倒産』を要件とする『未払賃金立替払制度(※)』を求めているが、同制度は通常清算や特別清算などの法的整理手続きの場合にも適用されるものであり、必ずしも破産にこだわる必要はない」
※賃金確保法7条で規定。厚労省所管の労働者健康安全機構が実施主体となり原則として未払い分の8割が立て替えられる

再建の可能性を閉ざした“内紛”

そもそもなぜ260億円もの負債を抱えての解散に至ったのか。高橋社長は旧経営陣の経営ミス、経営陣間の内紛についても言及した。
旧経営陣が2009年から行っていた脱毛サービスの「永久アフター保証・通い放題」契約。これは、顧客から前受け金の支払いを受け、その後3~5年間、追加料金の支払いを受けず繰り返し施術・サービスを提供するという契約で、顧客数は約97万人にも上った。
しかし、高橋社長はこの契約が「新たな収入が一切発生しないにもかかわらず、スタッフの人件費、店舗運営費、システム維持費などのコストを継続的に負担し続ける必要があった」と、経営を圧迫していった要因を指摘。
また、「本来であれば、前受け金は将来の施術提供のために大切に保管、運用される必要があったが、(旧経営陣により)留保すべき前受け金の一部が目的外に流用されていた」(高橋社長)という。
2024年5月には、年金未納に伴う社会保険庁による差し押さえも実行された。売上金の入金口座が使用不能となり、資金遮断が発生した。
さらに今年2月、経営体制に深刻な影響を及ぼす事態が発生。高橋社長によれば、当時、運営会社の会長を務めていた男性が、臨時の株主総会で、当時の社長や役員などの経営陣をすべて解任し、新しい社長を招き入れたという。

その後、争った裁判で旧経営陣の地位が認められ、MPHに資金を融資していた「グローバルブリッジファンド合同会社」(GBF)オーナーだった高橋氏が3月31日付で社長に就任した。
この“内紛”騒動が、「事業再建の可能性を閉ざす決定的要因となった」と高橋社長は見ており、「今後、(当時の会長らの)不正行為については、民事、刑事の両面から適正な法的手続きに基づき責任の追及を進めていく」と述べた。

未払い賃金の支給に「全力」、顧客の施術は再開店舗で

会見では、元社員・従業員の未払い給与(総額約9億円)など今後の対応についても説明が行われた。
「未払賃金立替払制度」による支給に向けて「(対象者が)速やかに申請できるよう必要な押印や書類準備に全力で協力する」(高橋社長)。
同制度(8割立て替え)でまかなえない分(2割)については、旧経営陣への損害賠償請求等を含む今後の清算の中で資金を確保していく予定とする。
また、顧客への施術・サービスの継続については、既存店舗のうち、別法人の「新生ミュゼプラチナム」へ移行した26店舗、同じく別法人の「どこでもミュゼ」が全国にフランチャイズ展開する196店舗において、「これまでのミュゼプラチナムと同等の水準で施術を受けていただくことが可能」だという(※)。※店舗数はいずれも6月6日時点
代表清算人の武藤弁護士は、「清算手続きの制約の中ではあるが、可能な限り従業員、利用者(顧客)、取引先の利益が守られるように手続きを進めてまいりたい」と語った。
一方、元社員・従業員と共に「未払賃金立替払制度」の適用を求めていたコミュニティユニオン東京の白滝誠書記長は、未払い期間が3~4か月にも及んでいることから、「元社員・従業員の生活は困窮している。一刻も早く法的手続きに入っていただきたい」と話している。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。
防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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