「30円盗んで懲役3年」なぜ刑務所に知的障害者が多い? 服役した元代議士が明かす“困窮と使い走り”の闇

秘書給与詐取で逮捕され、服役した元代議士の山本譲司氏。出所後に自身の獄中体験をつづった『獄窓記』(2003年、ポプラ社)は大きな反響を呼んだ。
その後、山本氏は更生保護法人「同歩会」やNPO法人「ライフサポートネットワーク」を設立し、現在も高齢受刑者や障害のある受刑者の社会復帰支援に取り組んでいる。

本記事では、山本氏が中高生に向けて執筆した書籍『刑務所しか居場所がない人たち 学校では教えてくれない、障害と犯罪の話』(2018年、大月書店)から、受刑者全体の20%といわれる知的障害者が罪を犯した背景について書かれた内容を、抜粋して紹介する。

受刑者の最終学歴は約4割が「中学校卒業」

刑務所に入るときは、みんなかならず知能検査を受ける。一般的にいって、知能指数が69以下だと、知的障害があるとみなされる(世界保健機関の基準)。
2016年に新しく刑務所に入った受刑者約2万500人のうち、約4200人は知能指数が69以下だった。つまり、受刑者10人のうち、2人くらいは知的障害のある可能性が高いということだ。
ついでに最終学歴はというと、中学校卒業がいちばん多くて40%くらい。次が高校卒業で30%くらい。大学卒業は5%くらいしかいない。むしろ、義務教育さえまともに受けていない人たちのほうが、だんぜん多いんだ。
君のまわりの人たちを思い浮かべてごらん。10人の中に、知的障害のある人は何人いる?きっと、そんなにおおぜいじゃないよね。ひとりもいないっていう人もいるんじゃないかな。刑務所の中は、一般社会に比べて、知的障害のある人が圧倒的に多いんだ。

知的障害者の犯罪は「窃盗」が最多

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おにぎりやパンの万引きで罪に問われる知的障害者も多い(イラスト:わたなべひろこ/『刑務所しか居場所がない人たち』より転載)

じゃあ、知的障害のある人たちは、いったいどんな罪を犯したのだろう。いちばん多いのは窃盗(盗み)で、だいたい半分くらいを占める。Aさんは賽(さい)銭どろぼうだったけれど、ほかに、おにぎりとかパンとか、安いものを万引きした人が、たくさん窃盗罪で刑務所に服役している。
車のダッシュボードに置かれていた30円を盗んだだけで、懲役3年の実刑判決になった人もいるよ。
Bさんは、中度の知的障害者で、小学校低学年くらいの精神年齢だった。
あるとき、たまたま通りかかったところで車の窓が開いていた。ふと見ると、ダッシュボードの上に10円玉が3枚。つい取っちゃった。
ほどなくして、車の持ち主が戻ってきて「何やってんだ!」ってどなりつけられたけれど、Bさんはニコニコしていて逃げるわけじゃない。どなったほうは、逆におっかなくなって通報。すぐに逮捕された。
再犯だったので、「常習累犯窃盗罪」という重い罪名をつけられて、3年間も刑務所に入ることになる。
窃盗罪、と聞いて想像するイメージとはずいぶんギャップがあるよね。
知的障害のある人の窃盗は、被害額が小さくて、すぐにばれちゃうようなやり方なのが特徴なんだ。

「出し子」にさせられて詐欺罪に…

次に多いのは、覚せい剤取締法違反。これは、覚せい剤(※)を持っていたり、使ったり、もらったり、売ったりした罪。本人がクスリを使った案件もあるけど、ヤクザにだまされてクスリの運び屋にされたというのもよくある話だ。
※覚せい剤少しのあいだ心やからだが元気になったように感じる薬だが、使いだすとやめられなくなり、死亡することもある。
その次に多いのは詐欺罪だ。詐欺といっても、人をだましたり陥れたりというのとは、ちょっと違う。ほとんどの場合、電車やバスの無賃乗車、飲食店での食い逃げなんだ。被害額は数百円とか、多くても数千円くらい。
ほかに最近では、詐欺グループにだまされて、振り込め詐欺の「出し子」にさせられた知的障害者も増えている。出し子っていうのは、振り込め詐欺で口座に振り込まれたお金を引き出す役割のことをいう。
街を歩いていたら「たった数分で数万円ももらえる仕事があるよ」なんて声をかけられて、犯罪とは知らずに手を染めてしまう知的障害者があとをたたない。

知的障害者が罪を犯す理由は「生活苦」が多い

だれだって、罪を犯したいわけじゃない。

知的障害のある人が犯行に走った理由は「生活苦」がいちばん多い。障害があるとなかなか仕事に就くことができないから、生活が困窮しがちだ。身近に頼れる人も、行く場所もなくて、ホームレスのような生活を続けたすえ、空腹に耐えかねて万引きをしたり、食い逃げをしたりするのが典型的なパターンだ。
あるいは、やけに親しげに声をかけてくる人がいて、「友だちになった!」と思っていたら、じつは相手がヤクザで、いいように使われることだってある。
知的障害者の犯罪は、罪を犯さざるをえない状況にあったり、罪名と実際にしたことのギャップが激しかったり、だまされて罪を犯してしまったりするケースがとても多いんだ。
軽い罪だから許されるわけじゃないけれど、多くの人が思っている以上に、刑務所は「え、こんな罪で?」って思わせる人であふれているんだよ。
■山本譲司
1962年生まれ、元衆議院議員。2000年に秘書給与詐取事件で逮捕、実刑判決を受け栃木県黒羽刑務所に服役。刑務所内での体験をもとに『獄窓記』(ポプラ社)、『累犯障害者』(新潮社)を著し、障害を持つ入所者の問題を社会に提起。NPO法人ライフサポートネットワーク理事長として現在も出所者の就労支援、講演などによる啓発に取り組む。『覚醒』『エンディングノート』など小説も執筆(いずれも光文社)。


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