
そしてトラブルは日々使う「シャワー」が原因で発生することも。
「シャワー」の排水口を掃除する必要があったが…
札幌市内に住んでいるサダオさん(仮名、男性)は、自身が所有する、築40年に迫った2階建てアパートの1階に住んでいた。裁判資料などによると、2021年の夏、サダオさんの上の階にリョウコさん(仮名、女性)が引っ越してくる。リョウコさんは母の名義で火災保険(家財補償)を契約した。
リョウコさんが住む部屋は、浴室の代わりにシャワーコーナーが設置されているタイプのものだった。シャワーコーナーは洗面台の隣にあり、サダオさんが住んでいる1階から見るとちょうどクローゼットの上に位置している状態であった。
日常生活の中でシャワーを使っていると、当然のことながら髪の毛が排水口にたまっていく。リョウコさんのシャワーコーナーは、排水口が詰まって水がたまると、シャワーコーナーの隙間から水が漏れてしまう構造になっていた。
そのため、日頃から排水口の掃除をしておかなければ、漏水事故につながってしまう可能性があった。
2度起きた漏水事故…290万円あまり求め提訴
同じ年の冬、事件が起きる。リョウコさんが普段通りにシャワーを浴びていたところ、シャワーコーナーの排水口が詰まり、漏水が発生。そして、下階のサダオさんの部屋にも水が入り込んだ。事故の後、サダオさんはリョウコさんに対し「しっかり掃除しながらシャワーコーナーを使い続けるように」と注意した。
しかしその翌週、リョウコさんは再び同じような原因で漏水事故を起こし、またもサダオさんの部屋に水が浸入した。
「なにをやっているんだ」
サダオさんはリョウコさんの部屋に入り、シャワーコーナー辺りの状況を撮影した。結局、サダオさんは自身の所有するアパートから別の集合住宅への転居を余儀なくされた。
なお、リョウコさんの火災保険(家財補償)には特約として「借家人賠償責任保険」(※)が付いていたが、保険金は「リョウコさんに過失がなかった」などとして支払われなかった。
※借家人が故意・過失により賃貸物件を滅失・損壊させた場合などに、借家人が貸主に対して負う損害賠償金等をカバーする保険(火災保険の特約)
その後、サダオさんは「リョウコさんが排水口の掃除をすることなく、シャワーコーナーに水をためて漏水事故を起こし、下の階に浸水させ損傷した。これは故意・過失によるものである」などとして、アパートの修理費用約290万円と衣類などの損害分5万円あまりを求め、札幌地裁に訴訟を提起した。
リョウコさん側は「保険会社の調査によると、漏水事故はアパートの構造に起因する事故だ。法律上は賠償責任を負わない」などと主張し、請求を棄却するよう訴えた。
争点はリョウコさんの側に故意または過失があったか否か。特に、リョウコさんが、アパートのシャワーコーナーは排水口が詰まれば漏水する構造であることを前提として、漏水防止のため排水口を掃除する義務を負っていたか否かなどが審理されることになると想定される。
なお、仮にリョウコさんの過失が認められたとしても、アパートの構造にも問題があったとなれば、家主であるサダオさんの側にも過失があったとされ、「過失相殺」といって損害賠償額が減額される可能性もありうる。
水漏れ事故での保険支払は年々増加
共同住宅で発生した不具合事象(住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅相談統計年報2024」から)
住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「住宅相談統計年報2024」によると、既存の共同住宅などで発生した不具合の事象では「漏水」が21.5%となり最多。
興味深い統計もある。損害保険料率算出機構の「火災保険・地震保険の概況(2024年度)」によると、水漏れ損害の保険金支払い件数は2018年度に4万2058件、20年度に5万7693件、22年度に5万7098件と増加傾向。
保険金の金額も2018年に266億円、20年に392億円、22年に404億円と増えている状態だ。
その原因として、築30年以上の建物が増えていることや、給排水設備の老朽化の進行などが挙げられると、損害保険料率算出機構は指摘している。
日常での行動から大きな事故に波及した今回の事例。場合によっては、建物の持ち主や他の住人から損害賠償を請求されるリスクもある。水漏れが判明したらすぐに連絡するなど、迅速な対応が求められるだろう。
■小林英介
1996年北海道滝川市生まれ、札幌市在住。ライター・記者。北海道を中心として、社会問題や企業・団体等の不祥事、交通問題、ビジネスなどについて取材。酒と阪神タイガースをこよなく愛している。