批判を受け、林原氏は同記事から問題の表現を削除している。また「私が韓国YouTuberさんを取り上げたら 韓国の友人から連絡がありました」で始まる文章を冒頭に追記し、韓国における右派・左派の対立を自身の文章があおった可能性について言及・謝罪した。
林原氏の表現が「ヘイトスピーチ」に該当し、法的な問題を引き起こす可能性はないのだろうか。また、なぜ林原氏は他国のユーチューバーの主張を信じてしまったのだろうか。背景にある問題について、弁護士に聞いた。
海外観光客を「外来種」と表現した箇所は削除済み
該当の記事内で、林原氏は昨今のコメ不足に対する不安を表明し、「一部の海外留学生に無償で補助」がされていると批判的に言及。日本の税金を、被災地や「今日本を支えている学生」のために使ってほしいと表明した。そして、海外観光客のことを「外来種」と表現した以下の箇所が、とくに問題視された。
「一部のマナーの無い民泊の人や『譲る』を知らない海外観光客や京都の竹削ってしまったりする人もいる
規制を持たないと、そこはしっかり日本人と同等に取り締まらないとやばい
日本ザリガニがあっという間に外来種に喰われちゃったみたいになってしまう」
なお、現在は「やばい」が「いけない」に修正され、「日本ザリガニが~」の文は削除されている。
また、修正前の記事では複数人の韓国人ユーチューバーの名前を挙げつつ、「日本の『テレビ』も伝えない現場の声をずっと命をかけて伝えていました」「韓国のテレビと日本のテレビも放送しない内容もありました」とも記載。
「今、日本でも起きている怖い事に繋がるまさかの報道規制」とも書かれており、「主流メディアが伝えない真実をユーチューバーが伝えている」と信じたことが、林原氏が記事を書いた背景にあると考えられる。
アメブロを投稿しました。記事の公開を告知した林原氏のX投稿は、17日時点で5万回以上リポストされている
『興味がない、わからない、知らない』#アメブロ #選挙
https://t.co/ILrtbM0KAH
林原めぐみ 公式 (@MHayashibara_PR) June 8, 2025
外国人を動物に例えるのは「ヘイトスピーチ」
林原氏の表現は、海外観光客を日本ザリガニ(二ホンザリガニ)と対比される「外来種」、つまりアメリカザリガニに例えたものである。法務省のホームページでは、ヘイトスピーチの例として「特定の国の出身者を、差別的な意味合いで昆虫や動物に例えるもの」が挙げられている。
ただし、特定の個人を対象にした名誉毀損(きそん)表現や侮辱表現ではなく、特定の障害を持つ人々や特定の民族の人々など「集団」を対象にした差別表現を罰する法律は、日本には存在しない。
また、いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」(※)では外国人差別に関してヘイトスピーチと定義されているが、やはり罰則はない。
※本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律
「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」では50万円以下の罰金が規定されているが、罰則の対象になるのは、市長の禁止命令に反して行為を行った場合のみ。すくなくとも法律の条文上は、林原氏の表現に罰則が科せられる可能性はないといえる。
「日本ザリガニ」は外来種に淘汰されたわけではない
前述のとおり、外国人を「動物」に例えることはヘイトスピーチに該当する。表現や差別の問題に詳しい杉山大介弁護士が加えて指摘するのは、日本人と海外観光客の対比という文脈でザリガニの表現を持ち出すことは、事実認識としても誤っているという点だ。
「そもそも、ニホンザリガニがアメリカザリガニによって淘汰(とうた)されたという捉え方は、不正確なものです。日本ザリガニの減少は、生息可能な環境の少なさや、人間による環境破壊に起因しているところが大きいです。
アメリカザリガニの池沼などにおける環境破壊力もそれはそれで問題ですが、ニホンザリガニの減少まで結びつけるには論理の飛躍があります。
日本人と外国人との対比における『外国人の脅威』という文脈にあてはめるべく、ザリガニ間で抗争があったかのように、生態学的な事実関係までをも文脈に入れやすい形にゆがめてしまう。
このような事実のすり替えが起きる背景には、『外国人の脅威が存在する』と信じたい、というバイアスが存在しています」(杉山弁護士)
杉山弁護士によると、人の持つバイアスによって事実や科学に反したデタラメが人のバイアスによって正当化されてしまい、信じたい者たちの間で共有されて真実として扱われることこそが、ヘイト問題の本質であるという。
「私は、『言葉遣いが強いか』や『攻撃性を助長するか』より、結局のところ事実に反した扇動になっていないか、という点を重視します。
その上で、本件については、ヘイト問題の本質があらわれている問題表現と評価しています」(杉山弁護士)
テレビが外国を「親日・反日」で判断することが起こした問題
林原氏のブログ記事内には「(税金を)今日本を支えている学生に使って欲しいと思うのは排外主義と言われるのかしら」との記述もあったが、外来種という表現を用いたことや外国人に対する批判的な言及が原因で、実際に多くの人から「排外主義」と批判されている。「この『外国人学生に税金が使われている』という話も、そのような支援を受けている外国人学生の割合の圧倒的な少なさからすれば、やはりそもそも事実に基づかないものです。
少しでも外国人学生にお金が使われることを『不当である』と感じてしまう背景には、ザリガニの件同様、ヘイト問題も関わっているとは思います。ただし、本件を排外主義の文脈で語るのは、あまり正確ではないとも思っています」(杉山弁護士)
そして、林原氏が韓国人ユーチューバーの主張を信じてしまった問題の方が重要である、と指摘。
「林原氏が、『親日』と称して日本語で韓国に関するデマを流すユーチューバーの動画を見て、『日本の危機』を感じてしまったことが、本件の端緒です。
林原氏には、多くの日本人が持っている素朴な排斥感情はあれど、主観的な排外意識はなかったでしょう。『日本を攻撃せず、日本に好意的な外国人である〇〇さんが、私たちに教えてくれた』という感覚だったと思います。そこを攻めても、しょうがないとも思うんですよね」(杉山弁護士)
昨年の12月、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領(当時)は戒厳令の発出を宣言し、同国は一時的に危機的な状況に陥った。
しかし、当時の日本のテレビメディアにおける報道は「親日政権がなくなってしまったらどうしよう」というもので占められていた。
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「リアルタイムで現場に入り、取材をした日本人記者が大手メディアにいることも知っています。
しかし、結局、日本の多くの人が影響を受けている大半のメディアでは、法治主義や民主主義の崩壊が起きかねない状況ですら、『親日・反日』という幼稚な評価軸でしか語れなかった。
そういう社会のなかで、普通の人が、親日を標榜(ひょうぼう)するウソつきに、心の中に誰もが持っているかもしれない素朴は排斥感情を利用されても、個人を批判する気にはなれないのです」(杉山弁護士)
杉山弁護士は「外国の政府や外国人を、親日かどうか、日本に親しげに振る舞っているかだけで判断するのをやめませんか」と提案する。
「事実に基づいて話す意思があるかどうかは、思想よりも以前の最低限として、人間として会話する上で絶対に求められることです。
私は、事実を尊重するという人間であれば、日本人でも外国人でも、会話ができると思っています。そして、事実を尊重しない人間は、日本人だろうと外国人だろうと、有害だと思っています。
昨今、日本でも兵庫県などの選挙事情をふまえて、『政党間の公平性に偏り過ぎたためにウソを放置する現状の報道を変えていこう』という意識があらわれています。
ウソとの闘いという意味では、日本にも韓国と同じく危機が訪れています。『林原氏まで扇動されてしまった』という観点から、この問題について、多くの普通の人に再認識してもらいたいですね」(杉山弁護士)