「死刑」はどうやって執行されているのか? 元刑務官「最も困難かつ不快な業務」… 150年変わらぬ日本の“絞首刑”と知られざる実態
死刑制度に関して、日本では「賛成」は多数派とされているが「反対」も一定数いる。そして凶悪事件が起こるたび、または死刑執行が報道されるたび、メディアやネット上では議論が起こる。

しかし、賛成派の国民は「死刑とはどのようなもので、どのように運用されているのか」を理解しているだろうか。また、反対派は「よく分からないけど何か残虐なイメージだから死刑廃止」と答えていないだろうか。
死刑に関して意見を表明する前に、まずはわが国における死刑制度の実態について正確な知識を持つことも大切だ。
今回は、法学者の丸山泰弘教授の著書『死刑について私たちが知っておくべきこと』(2025年、ちくまプリマー新書)から、日本の死刑執行に関する詳細な記述を抜粋して紹介する。

「絞首刑」の運用は150年以上前からほぼ変わっていない

現在の日本の死刑は絞首刑という方法で執行されます。
目隠しした状態で、ボタンを押すと開く踏み板の上に死刑が執行される人を立たせて、首に縄をかけます。踏み板が開くと、首に縄がかかったまま地下に向かって落下し、およそ地面から30センチ離れた状態で宙吊り(ちゅうづり)にされます。これは、明治6年(1873年)の太政官(だじょうかん)布告第65号によって定められた絞首刑の執行方法です。
微調整による変更はありますが、基本的には150年以上にわたって運用方法に大きな変化はありません。
この太政官布告には、「両手を背中で縛り、紙で顔面を覆い、絞首台に登らせて、踏み板の上に立たせて、その次に両足を縛り、その者の喉に当たるように縄を輪にしてあて、その輪にしている鉄管を頭の後ろに置いて固く締め、踏み板が開くと死刑囚の体は地面からおよそ30センチの高さで宙吊りとなる。そして、およそ2分が経過したのちに、死亡を確認し、縄を解いて降ろす」ことが書かれています。
その後、細かな部分は現代になるにつれて変更はあるものの、基本的には同じように執行されています。ただ、その太政官布告からの重要な変更点としては次のようなものがあります。

まず、2人同時に執行できる装置を1人だけが執行できる装置に変更されました。
次に2階から1階へと宙吊りにされるとしていたものが、1階から地下へ宙吊りにされるような刑場へと変更されています。次に、執行の際に顔を覆うものが紙ではなく布へと変更され、最後に執行開始から縄を解くまでの時間が2分から、死亡の確認をしてから5分に変更となっています。
上記のうち最後の「2分から5分」へと変更になったもの以外で法令の根拠となるものは見当たらないとされています。つまり、150年以上前の執行方法が基本的には維持されており、上記のような微調整が行われているものは法令などによらず変更がなされています。
縄の長さや執行方法の具体的な部分は法律や命令などで定められていないということの問題性が研究者や弁護士会などから指摘されています。なぜなら実際にどのような基準で、どのような経路をたどり、どのように執行されているのかが明らかにならないためです。また、施設内部でどのような取り決めをしているのかも不明瞭なままになっています。

刑務官にとっては「最も困難かつ不快な業務」

実際に執行する場面はどのようになっているでしょうか。残念ながら議論の土台となる死刑の執行そのものに関する細かな情報は法務省から報告されていないため不明な点は多く、また死刑執行に携わった刑務官がその体験談を話すことも少ないためにハッキリとしない部分も多いです。
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死刑刑場のある東京拘置所(iLand/PIXTA)

しかし、法務省が東京拘置所の内部写真を一部公開したことがあります。その写真によれば、縄と踏み板がある執行される部屋の外側に、ボタンが3つ設置されており、3人の刑務官が同時にボタンを押すことで踏み板が開くようになっているとされています。
同時に押すボタンが3つあるのは、自分が死刑を執行した本人であると考える刑務官への精神的負担を軽減するためだと言われています。

また、元刑務官であった坂本敏夫さんによれば、「死刑の執行は行刑業務中で最も困難かつ不快な業務であり、失敗は許されないもの」として紹介されています。
坂本さんは「死刑の執行は処遇部門の警備隊という組織が担っており、隊長や副隊長など15名ほどで、死刑確定者たちの運動や入浴などの日々の処遇にも直接あたっている。
この警備隊に所属する刑務官は死刑執行に関わることになり、執行の当日には独房から死刑場までの連行、死刑執行言い渡し時の立ち会い、手錠をかけ顔を覆う布を結び、刑壇(けいだん)に立たせて足を縛り、首に絞縄(こうじょう)をかける。そして、執行後は縄を解き、検視後に湯かんをして、宗教に合わせた装束を着せ納棺する。
また通夜や葬儀に当たる教誨(きょうかい)に立ち会い、棺(ひつぎ)を遺体運搬車に載せ、出棺の際には整列し敬礼で見送る」ことになり、職務とはいえ甚大な精神的苦痛を伴うものであるということも指摘されています。

執行が死刑囚本人に知らされるタイミングは?

執行に至る場面について、違ったポイントも確認してみましょう。
法令によって死刑は非公開で行われることになっていますが、先ほども書いたように法務省からはその他具体的な情報は公開されていません。そこで、先の坂本さんの手記をもとに死刑執行の現場がどうなっているか確認してみます。
まず、執行がなされるときは、どのタイミングで本人に知らされているのでしょうか(例えば、アメリカでは遅くとも死刑執行の1か月前に告知されています)。
少なくとも50年ほど前までは、執行の前日または前々日に告知し、家族に別れの言葉を伝える機会があったと言われています。1955年2月に死刑執行の2日前に所長室において執行の言い渡しから死亡の確認がなされるまでのやり取りが録音されたものから、以前はこのような運用がなされていたことが分かりました。
この録音テープは玉井策郎拘置所長が在任中の6年間で、現場で立ち会った死刑執行の一部を教育課長に命じて録音させたものだと言われています。

その後、1970年に死刑確定者の処遇が「集団処遇」から「単独処遇」に変わっていき、集団で過ごすことがなくなった死刑確定者は単独房で過ごすことになっています。面会も家族など一部の人に限定されていきます。さらに、逃走と自殺防止のためのカメラが単独室の天井に設置され、24時間の監視を受けています。


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