「中古車販売」倒産件数が過去最多…トラブル続く背景は? “儲からないビジネス”に没落させた根本原因【元中古車雑誌編集長解説】
購入した中古車が納車されない。そんなトラブルが相次いでいるという。

現物が目の前にあり、支払いが終わっていても納車されない。当然、購入者の怒りは収まらない。
信用調査会社による最新データでは倒産件数が過去最多を更新。中古車販売業界に一体、なにが起こっているのか――。
元中古車雑誌編集長が解説する。(本文:自動車コラムニスト・山本晋也)

“中古車販売ビジネスの闇”簡単には晴れない?

「中古車購入は大丈夫?」
そんな不安の声も周辺から聞こえてくる。
お客様から預かったクルマを意図的に傷つけ、自動車保険の保険金を不正請求したというビッグモーター事件も記憶に新しい。当時から「この事件は中古車業界において氷山の一角に過ぎない」とささやかれていた。
世間から大バッシングを受けたビッグモーター事件をきっかけに、中古車業界が全体として襟を正すことも期待されていた。ところが、残念ながら中古車販売ビジネスの闇はそう簡単には晴れないようだ。
最近でも、顧客から代金を受け取っておきながら納車せずに連絡が取れなくなるといったトラブルが報じられたりしている。
はたして、現在の中古車業界はどうなっているのだろうか。かつて中古車情報誌で編集長をつとめたこともある筆者の経験もふまえ、中古車販売ビジネスの過去から現在、および将来の見通しについて整理して論じてみたい。

倒産件数は過去最多ペースで推移

現状、中古車販売ビジネス自体の斜陽化が進んでいる。
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倒産件数が顕在化する中古車業界の窮状(出典:帝国データバンクウエブサイト)

帝国データバンクの発表によると、2025年1月~5月に倒産した中古車販売業は50件。1月~5月の5か月で50件を超えるのは2012年以来13年ぶり。前年同期が32件だったので、倒産件数でいうと約1.5倍となり、過去最多ペースで倒産件数が増えているという。
このデータは、もはや中古車販売ビジネスは儲からないことを示している。このことが、ビッグモーターのように不正に走ってでも収益を確保しようとする販売店が生まれる土壌になっていると想像できる。

中古車販売ビジネス斜陽化の原因

ゆっくり着実に進行する中古車販売ビジネスモデルの斜陽化。最も大きな要因はインターネットにより、業者と消費者との間で情報の非対称性が解消されてきていることだと考えられる。
「中古車販売」倒産件数が過去最多…トラブル続く背景は? “儲からないビジネス”に没落させた根本原因【元中古車雑誌編集長解説】

ネットの浸透でうまみがなくなった…(生成AIで作成)

かつて中古車販売業者は、一般消費者が知り得ない相場によって商品を仕入れ、販売価格を設定することができた。しかし、インターネット上の中古車検索サイトや買取情報サービスなどが充実したことで、消費者は容易に相場を把握できるようになった。
インターネットが普及する前は、全国の販売価格相場は紙媒体の情報誌を端から端まで読んでいるようなマニアしか知り得なかったが、いまや車種別・年式別で誰もが簡単に確認できる時代になっている。
こうした情報非対称性の解消は、販売店側の情報優位性をもとにしたビジネスモデルの価値を失わせることになる。その部分にフォーカスして利益を生み出していた販売店や事業者においては、利益率が低下傾向となってしまうのは自然な流れだ。

新車供給不足という‟追い風”も瞬間風速

また、「自動車離れ」や人口減少などに伴う市場縮小の影響も看過できない。
中古車販売台数は、半導体不足による新車の供給不足が追い風となって一時的に需要が増大し、2019年に600万台に迫る勢いを見せた。
しかし、2020年以降は減少に転じ、2022年には550万台を大きく下回るまで中古車市場は縮小している。
市場規模が縮小すれば、中古車業界のプレーヤー数も絞られることになる。前述した倒産数増加は、そうした事情の顕在化として捉えることができる。

中古車販売ビジネスが目指すべき未来像

市場が縮小する局面において、中古車販売ビジネスはどこを目指すべきなのか。それはエンゲージメントを意識したスタイルへのシフトといえるだろう。
情報の非対称性を利用して、割高な商品を売るといったかつて横行した中古車販売では顧客ロイヤルティーを高めることは難しい。
昨今、中古車販売店がメンテナンスや車検などアフターサービスにも力を入れているのは、エンゲージメントを高めるビジネスモデルへ進化している証といえる。信頼されることで、次の買い替え時にも選んでもらえるようになれば、ビジネスの安定化にもつながる。
ビッグモーターのような事件は、目先の儲けに走りすぎて起きてしまったのだろうが、本質的には販売から整備、買取まで安心して任せられる中古車販売店と出会うことができるのは、ユーザーにとっても理想的だ。
消耗品とは異なり、自動車販売業は売ってからが顧客との関係の始まりといっていい。だからこそ、仕入れ値との差分だけで儲けるのではなく、アフターサービスも不可分のものとして、汗水を垂らしながら顧客からの信頼を着実に獲得していく。そうした姿勢が持続可能性という観点からも重要となる。

過去に中古車業界は距離計の巻き戻しや事故歴・修復歴の隠蔽(いんぺい)などの問題が起きたが、業界をあげて解決してきた歴史もある。
雨降って地固まるではないが、中古車販売ビジネスに逆風が吹いているときこそ、浄化のタイミングだ。かつての隆盛を知る者として、これから先、ユーザーにとって安心して付き合える中古車業界になっていくことを期待したい。
■山本 晋也
1969年生まれ。編集者を経て、2000年頃よりフリーランスとして活動開始。過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コラムニストとして執筆活動を継続中。二輪と四輪のいずれも愛車とする視点から次世代モビリティを考察するのもライフワークのひとつ。


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