国の指定難病である魚鱗癬(ぎょりんせん)を患う大藤龍之助さんの母親・朋子さんが6月18日、都内で厚生労働省に対し約8.5万筆の署名と請願書を提出。
自公維が「見直し」で合意、骨太方針にも反映
OTC類似薬とは、市販薬と成分や効果が似ているものの、原則として医師の処方箋が必要な医療用医薬品を指す。解熱鎮痛薬や咳(せき)止め、抗アレルギー薬なども含まれている。自民党・公明党・日本維新の会の3党は6月11日「現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減を実現する」として、2025年末までの予算編成過程で、OTC類似薬の、保険給付のあり方の見直しについて検討することで合意した。
政府は6月13日、この3党合意の内容を反映した「骨太方針2025」を閣議決定。
「医療機関における必要な受診を確保し、こどもや慢性疾患を抱えている方、低所得の方の患者負担などに配慮する」との方針も併せて示された。
署名に賛同した人からは切実な声「命に関わる」
この3党合意・閣議決定に至るまでの議論を受け、龍之助さんは3月にオンラインでの署名活動を立ち上げた。龍之助さんの抱える魚鱗癬は皮膚のバリア機能が低下し、魚のうろこのような角質異常を生じる遺伝性の難病。治療では皮膚の乾燥を防ぐため、保湿剤を継続的に使用する必要がある。
現在、魚鱗癬患者は1回の受診につき、ヒルドイドローション(保湿剤)を20~40本処方され、診察を含めて2000円程度の医療費で済んでいるという。
だが、OTC類似薬が保険適用外になった場合、薬代だけで1回につき6万円を超える負担が発生する見込みだ。
「シャイな息子が勇気を出してオンライン署名を立ち上げたのは、OTC類似薬が保険から外されたら生活ができなくなるからです。
息子は生まれつきの魚鱗癬で、四六時中のかゆみや痛みに耐えてきましたし、体温調整ができず、行動が制限されることも多々ありました。それでも2年前に、今の会社の社長が息子を受け入れてくれたおかげで、病気があっても働いています。
しかし、仮にOTC類似薬が保険適用外になれば、通常の時ですら6万円、症状がひどくなった時には約13万円がかかる計算です。
適用除外により、薬代を節約しなければならないようになれば、病状が悪化し、働けなくなるかもしれないと恐怖すら感じています」(朋子さん)
龍之助さんが立ち上げた署名活動には、さまざまな疾患を抱える患者らからも切実な声が寄せられた。
「痛み止めが欠かせない」という子宮筋腫の患者は、龍之助さん同様「まともに社会生活が送れなくなる可能性がある」と訴えたほか、署名に賛同したアトピー患者は「薬を手放すことは、ただつらさに耐えるというだけではなく、命に関わるリスクにもつながる」と声を上げた。
「医師が治療計画を立てられなくなる」
全国保険医団体連合会(保団連)の本並省吾氏は「OTC類似薬が保険適用から除外されれば、医師が治療計画を立てられなくなる懸念がある」と指摘する。「保険適用の対象外になるというのは、ある意味“サプリ”のようなものと同等なものになるということです。そうなってしまうと、医師は『飲んだ方がいい』とも『飲まない方がいい』とも言えなくなります。
医師は医療の一環として、診察し処置を行い、その一連の流れで薬を処方するかどうかを決めるので、なかには「寝ていれば大丈夫」と薬を出さない判断もあり得るわけです。
ですので、OTC類似薬を保険適用から外すというのは、この一連の流れから選択肢を狭めることになると考えています。
風邪や花粉症だったとしても、適切でない市販薬を服薬するなど、患者の自己判断によって症状が悪化したり、副作用を引き起こしかねません。
これでは国民の健康を守れませんので、われわれとしては保険適用からの除外は論外だと訴えたいです」(本並氏)
厚労省「さまざまな意見や医療への配慮を踏まえ、これから議論」
一方、この日朋子さんから署名と請願を受け取った厚労省の担当者は、「現時点では検討が行われている段階で、法改正や、特定の薬剤の除外などがすでに決まっているわけではない」として、次のように述べた。「OTC類似薬を保険適用から外すとしても、どういった薬剤、制度であれば問題がないのかということを当然考えていかなければなりません。
また、今回の骨太方針は特定の薬剤について指定したものでもありません。
ですので、今後議論の射程としてはすべてのOTC類似薬が対象とはなりますが、さまざまな方や政党のご意見や、医療への配慮を踏まえたうえで、これから議論をすすめていきます」(厚労省担当者)
医療費が47.3兆円と過去最高を更新(2023年度)するなか、政府は骨太方針で「持続可能な社会保障制度のための改革」の一環としてOTC類似薬の、保険給付のあり方の見直しを打ち出した。
「当然、結果として保険料を削減する効果は生まれるかと思います。
ですが、もちろん『ある一定の額を削減するために必要だから、これくらいの薬品を適用外とする』という議論の組み立て方をしているわけではありませんし、政府としてもその試算は行っていません」(同前)