昨今は高齢者でマリンスポーツを楽しむ人も増えている。そうした中、法医学者の高木徹也氏は「スキューバダイビングに比べ、シュノーケリングで事故に遭う人のほうが多い」と意外な指摘をする。
なぜなのか…。海難事故死亡者の解剖経験もある高木氏が解説する。
※この記事は法医学者・高木徹也氏の書籍『こんなことで、死にたくなかった:法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)より一部抜粋・再構成しています。
マリンスポーツの事故で死ぬ人の「理由」
趣味がマリンスポーツという人もいるでしょう。代表的な例で言えば、「スキューバダイビング」や「シュノーケリング」ですね。近年では、時間的、経済的に余裕ができる定年後に、マリンスポーツを楽しむ高齢者が増えてきています。
ただ、海は恐ろしい場所。海で趣味を楽しんでいる最中に、亡くなってしまった方の解剖をした経験もあります。
そのほとんどは溺水による窒息、いわゆる「溺死」で、解剖すると気道の中に多くの泡沫を含んだ水分が充満している点で共通しています。
これは、溺れたときに水中で呼吸運動を過度に行ない、体内の空気と外部から流入してきた水分とが気道内でかき混ぜられた証拠です。
スキューバDとシュノーケリングはどちらが安全か
スキューバダイビングは、海に潜るために空気の入ったボンベ、呼吸器であるレギュレーターのほか、たくさんの機材を装着して潜水するので、ダイビングショップなどでレンタルする人も多いでしょう。一方でシュノーケリングは、マスクとシュノーケル、フィンさえあれば大丈夫。ボンベを背負っていないので、スキューバダイビングほど深く潜ることはできません。
このように聞くと、シュノーケリングのほうが安全なように思えます。しかし、実際のところは、シュノーケリングで事故に遭う人のほうが多いのです。
それは、準備や装備が必要なスキューバダイビングに比べ、シュノーケリングのほうがお手軽なレジャーであることが原因かもしれません。スキューバダイビングをしようとすると、ダイビングショップやインストラクターが関わり、さらにライセンス制度もあることから、ある程度の安全性が担保されているのでしょう。
それに対してシュノーケリングには明確なルールがなく、ライセンスも必要ないので、自己流で誰でも行なえてしまえるところが、死の危険性を高めているのではないでしょうか。
ダイビングのレッスンを受けたことのない人が、シュノーケルを使った呼吸がうまくできずに、海の中でパニックになることも多いそうです。
水難事故防止に「水上安全条例」を制定している自治体も
以前、仲間から離れて一人でシュノーケリングしている最中に行方不明になり、その後遺体として発見された方の解剖をしたことがあります。詳しく事情を調べていくと、実は直前まで浜辺で仲間と飲酒していたことが発覚し、それもまた溺れた要因の一つと考えられました。このような水難事故を起こさないように、いくつかの都府県では「水上安全条例」を制定しています。
たとえば、シュノーケリングを行なう際にもライフジャケットを着用するなど、マリンスポーツを安全に楽しむために最低限必要なことが決められています。
また、特に経験の浅い方は、事前にシュノーケリングスクールなどを受講することも大切だと思います。
2024年にもライフジャケットを未着用だった70代の方や、当時70歳だった国会議員の方などがシュノーケリング中に亡くなっています。ライセンスや免許が不要なレジャーほど危険であることを認識して、安全に楽しんでもらいたいものです。
<まとめ>
- シュノーケリングを行なう場所の情報を事前に入手する
- 初心者はレッスンを受ける
- 一人で行わない
【高木徹也】
法医学者。1967年東京都生まれ。
杏林大学法医学教室准教授を経て、2016年4月から東北医科薬科大学の教授に就任。
高齢者の異状死の特徴、浴槽内死亡事例の病態解明などを研究している。
東京都監察医務院非常勤監察医、宮城県警察医会顧問などを兼任し、不審遺体の解剖数は日本1、2を争う。
法医学・医療監修を行っているドラマや映画は多数。