神戸市は7日、当該店舗における食中毒の発生を断定したと公表。
当該店舗も8日にSNSを更新し、おわびとともに、経緯や現状の説明、来店後に体調不良となった場合の問い合わせ先の案内などをしている。
加熱不十分な鶏肉をめぐっては、チャーシューだけでなく、から揚げなど他の鶏料理でも「レア状態だった」との報告がSNSなどでたびたび話題となる。メニューとしてあえて「生」で提供している店が炎上することも少なくなく、2022年には「生つくね」が名物だった東京の老舗焼き鳥店がSNSでの批判を受けて閉店した。
食品安全委員会によれば、カンピロバクターに感染した場合、発熱、倦怠(けんたい)感、頭痛、吐き気、腹痛、下痢、血便などの症状だけでなく、神経疾患であるギラン・バレー症候群を発症する可能性もあるという。
上記のリスクから、食品安全委員会だけでなく厚生労働省、各地方自治体など多くの行政機関が「鶏肉はよく加熱して食べるように」との注意喚起を行っているが、実は鶏肉を生で食べること自体に法規制は設けられていない。
鶏肉の生食「法規制がない」ワケ
飲食業法務の専門家である石﨑冬貴弁護士は「食べ物に関しては、地域ごとの食文化や気候などさまざまな事情があり、一律で禁止することが難しい部分があります」とした上で、鶏肉の生食に法規制がない理由について、次のように説明する。「牛レバーや豚肉など、どの条件で食べてもリスクが高いものに関しては、過去の大きな食中毒事件や、統計上の食中毒事件の増加などを契機として規制されてきました。
鶏肉に関しては、加熱調理が推奨されているものの、死亡事故など大きな事故が起きていないこともあり、生食に関する客観的な基準が存在しません」
ただし鶏肉も「今後の事件事故の発生状況によっては規制される可能性もある」と石﨑弁護士は付言する。
2011年4月、焼き肉チェーン店でユッケを食べた客が腸管出血性大腸菌O111およびO157による大規模な食中毒を発症し、5人が死亡する深刻な事件が発生。この事件をきっかけに、牛肉の生食に関する規制が強化され、2012年7月には牛レバーが、内部まで腸管出血性大腸菌などの危険な細菌に汚染されている可能性があるとして生食禁止となった。
さらに、牛レバーの生食禁止を受けて豚肉や豚レバーの生食が一部で広がったことなどから、2015年6月には豚肉・豚内臓の生食も、E型肝炎ウイルスや食中毒菌などによる重篤な食中毒の危険性が高いとして禁止された。
こうした状況の中、「鶏刺し」「鶏のたたき」など鶏の生食文化が根付く鹿児島県、宮崎県では、独自に定めた加工基準によって、安全性の確保と食文化の存続に取り組んでいる。
食中毒が発生した場合、店側に問われる責任
鶏肉の生食に法規制がないとしても、生や加熱不十分な鶏肉の提供により食中毒が発生した場合、店側は刑事責任と民事責任の両方を負う可能性がある。「鶏肉は一般的に加熱調理が推奨されており、生食にはリスクがあることが広く認識されています。そのため、食中毒が発生した場合は、店舗側がその責任を負うことになります。
刑事責任として、被害の程度が大きい場合は業務上過失致死傷罪(刑法211条、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)に問われる可能性があります。民事上は、被害者に対して損害賠償責任を負うことになります」(石﨑弁護士)
そのほか、神戸のラーメン店に営業停止命令が下されたように、行政処分を受けることも考えられる。ただし、食中毒の発生状況や店舗の衛生管理体制などによっては行政処分ではなく、注意等の行政指導にとどまる場合もあるという。
これらに加えて、最近はSNSやニュースなどを通じて情報が拡散され、店舗の信用やイメージが大きく損なわれた結果、事業継続に深刻な影響を及ぼすこともある。そのため、石﨑弁護士は「風評上の問題も無視できない」と指摘する。
食中毒の被害者が店側に損害賠償請求するには?
食中毒の被害者が店側に損害賠償請求をするにあたってもっとも重要になるのは、店舗で提供された食事と食中毒との因果関係の証明だ。石﨑弁護士は、具体的な事案によって必要な証拠はさまざまだとしながら、一般的には「医師の診断書(診療記録)」「店での食事した際のレシート・領収書」「保健所の調査結果(行われていた場合)」などが挙げられるという。
そのほか、店側が食中毒の原因であることを認めず、両者の間で主張が争われた場合には、「食中毒発症前後の行動がわかるような資料(例:クレジットカードや交通系ICカードの利用履歴、SNSの投稿やメッセージアプリの履歴、同伴者の証言や記録など)によって、当該店舗での食事が原因であることを明確にする必要も出てくる」と石﨑弁護士は述べる。
繰り返しになるが、鶏肉の生食には法規制がないものの、食中毒のリスクについては広く注意喚起がなされている。安全を求めるなら、消費者も十分に加熱されたものを選ぶのが肝要だろう。