6月16日、大手医療機器メーカー「オリンパス」とその子会社に15年以上勤めていた社員が、新しく導入された人事制度によって実質的な降格処分を受けたことは不当であるとして、オリンパスを被告とし、地位確認や損害賠償を請求する訴訟を提起した(東京地裁)。

説明を受けないまま、2段階の「降格」

以下、原告側の提出した訴状に基づき、本件の概要を記載する。
原告のB氏は2009年1月、オリンパス株式会社に入社。
自社製品の販売業務や営業業務に従事していた。2021年10月、子会社のオリンパスマーケティング株式会社に出向。2023年4月からはドクタートレーニングなどを担当する部門に配属される。
2022年8月以降、オリンパスは社員らに「新人事制度」の周知を始める。旧人事制度では非管理職の社員は等級が高い順に「P1~3」または「S1~5」とされていたところ、新人事制度では高い順に「G8~12」に移行すると説明。そして、B氏を含む等級が「P2」の社員は新人事制度下では原則として「G9」に移行する、とされていた。
2022年12月、オリンパスマーケティングの従業員らは、新人事制度下における等級と異動先の内々示を受ける。しかし、他の従業員と異なりB氏はこの時点で内示を受けず、説明を求めても会社側は応じなかった。
また、同時期に、退職者には通常の退職金に加え特別支援金も支給するという「社外転進支援制度」についても、従業員らに説明がなされた。しかしB氏はこの説明も受けていなかったため、制度の利用を検討すらできなかった。
B氏が異動先と等級を知らされたのは2023年1月。そして、等級は「G9」ではなく、旧人事制度下では「S1」にあたる「G10」だった。
実質的に、2段階の降格に該当することになる。B氏は降格の理由を問いただしたが、上司からは「人事で決めたことでわからない」と言われ、具体的な説明は一切なかったという。
なお、今年2月にオリンパスを提訴したA氏(後述)によると、同時期に「G10」や「G11」に格付けされた非管理職の社員200名のうち、約40名が既に辞めていったという。

国家資格を取得し等級以上の業務を割り当てられても、降格が継続…

2023年4月に新人事制度が施行され、「G10」に格付けされたB氏はドクタートレーニングなどを担当する部門に配属される。また、新しい上司から、「G9に昇格するためには業務に関わる国家資格の取得とトレーニング責任者として立案・実行することが必要」との説明を受ける。
B氏は必死に勉強し、同年12月、国家資格を取得。しかし、翌年4月の面談で上司は「G9に昇格するためには優良な人事評価を2年継続して取得する必要がある」と告げた。
B氏は、3年間もG10に格付けされ続けると給料が毎年50万円から100万円は下がり続ける状況だった。B氏は、この事実が自身の精神にもたらすダメージは大きいと上司に告げていた。
さらに、同月からB氏に割り当てられた業務は「責任者としてドクタートレーニングの立案・実行」であり、G9に相当するものであった。この点についてもB氏は上司に問いただしたが、「人事制度上の措置でやむをえない」と説明された。
2024年5月7日、B氏は適応障害を発症。担当医師によると、根拠のない降格や会社側の業務、また現在G10にもかかわらずG9の業務を強いられる理不尽な対応が、発症の原因であると説明している。
B氏は同月14日から自宅療養のため休職することになり、現在も投与された薬剤を服用しながら通院治療を続けている。
同月28日には、B氏が降格処分の理由について問い合わせ続けた結果、説明の場が設けられた。人事部長が「体調悪化に伴うパフォーマンス不足」などの理由を数点挙げたが、B氏からすれば、いずれも取るに足らない「言いがかり」的な内容であったという。

過去には骨折しても出社を強要されていた

2020年12月、B氏は通勤中に骨折して動けなくなり休暇を申請したが、当時の上司から「顧客対応のために一度出社するように」と命じられるなどのパワハラを受け、さらに「骨折による顧客対応の遅れ」を理由に当時の業績評価を「C」から「D」に下げられていた。
B氏はこれらの事実を会社のパワハラ被害相談窓口に通報したが、当時、人事部長は「あなたのコミュニケーション不足ではないか」などと一蹴し、何ら調査を行わなかった。
そして2024年の説明の場でも、人事部長はB氏の降格理由の一つとして「コミュニケーション不足」を挙げている。原告側はこれを「取って付けた理由に過ぎない」と主張している。
2024年7月、会社側は社内の労働組合と協議し、新人事制度の実施に伴い降格した従業員らへの説明が不足していたことを認め、営業・サービス部門を対象として基本給の減額を差し控えると発表。しかし、B氏はその対象から外れていた。これによりB氏は精神的な打撃を受け、自殺未遂にも及んだ。

「ジョブ型人事」の模範例とされているが…

本訴訟の請求の内容は、①降格処分には根拠がなく人事権の濫用にあたり無効であることの確認、②B氏が「G9」の等級を有する地位にあることの確認に加え、③「G9」に支払われていたはずの減額分の未払い賃金、④理由のない降格でB氏に屈辱を与えたことや適応障害を発生させたことに対する慰謝料、⑤発症に伴う治療費や逸失利益などの損害賠償(③~⑤は総計で約276万円)。
なお、今年2月にも、オリンパス株式会社・オリンパスマーケティング株式会社に勤めてきたA氏が、新人事制度に伴う降格を不当として会社に地位確認や損害賠償を請求する訴訟を提起している。
関連記事:「ジョブ型人事を口実にした人事権の濫用」 降格処分や配置転換は不当として、オリンパスと子会社を社員が提訴
オリンパスの人事制度は「ジョブ型人事」の模範例として、2023年12月に内閣が開催した分科会で取り上げられた。
しかし、当時開かれた記者会見で、A氏は「ジョブ型人事制度を口実に人事権が濫用されており、大変多数の社員が、苦汁を飲みながら辞めていった」と告発。
弁護士JPニュース編集部の取材に対し、B氏からは以下の返答があった。
「私は、度重なる会社からの『後付け』ともいえる一貫性のない降格の理由を列挙され、人事異動・降格・評価など会社に翻弄(ほんろう)され、強度のストレスから適応障害を患い、2024年5月14日から休職・療養しており、今も日常生活がままならないでいます。
そして2024年7月と11月に2度、薬の過剰摂取による自殺未遂にいたりました」
また、「降格の理由に体調不良が挙げられているが、客観的・合理的な理由なく体調不良を降格の理由にすることは人事権の濫用にあたる」とB氏は指摘。
一方、オリンパス株式会社からは「訴状が届いていないため、これ以上の回答は差し控えさせていただきます」との返答があった。


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