「石破首相は最低賃金時給1500円を2020年代中に実現すると発表したが、それでは遅すぎる」――。
本年度の最低賃金改定に向けた議論が中央最低賃金審議会で始まるのを前に、全国労働組合総連合(全労連)らによる、国民春闘共闘委員会(国民春闘共闘)が6月19日、都内で会見。

最低賃金の時給1500円への大幅引き上げと、全国一律化、そして将来的な1700円への引き上げを訴えた。

昨年度の最低賃金、全国平均は時給1055円

最低賃金制度とは、労働条件の改善や生活の安定を図ることを目的としたもの(最低賃金法1条)。
使用者に対し、国の定めた金額以上の賃金を支払うよう求めており、仮に労使が最低賃金より低い金額で合意していたとしても、その契約は無効となる(同4条)。
また、使用者側が最低賃金を下回る賃金を労働者に支払った場合には、罰則も設けられている(最低賃金法40条、労働基準法24条1項)。
厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会では毎年6~7月ごろに、最低賃金の引き上げ額の目安を議論。中央最低賃金審議会が提示する目安を受けて、各都道府県の地方最低賃金審議会が、地域の実情等を踏まえ、最低賃金を決定している。
2024年度の最低賃金の全国平均は時給1055円で、全国平均の引き上げ額は51円と過去最大であった。

全国一律での最低賃金1500円「直ちに実現を」

一方、都道府県間での格差も生じており、最低賃金がもっとも高かった東京都の1163円に対し、最低の秋田県(951円)と比べると200円以上の差が開いていた。
ただ、全労連が過去に実施した調査によると、最低賃金にこれだけの差があるにもかかわらず、人間らしく生きていくために必要な最低の生計費を得るために必要な時給は、東京都北区が1664円、秋田市が1691円とその差はほとんどないという。
全労連・国民春闘共闘の黒澤幸一事務局長は現在の最低賃金について「ワーキングプアを生み出す仕組みになっているが、本来は生存権を保障する、政府が持つべき最低限の責任だと思う」と指摘。次のように述べた。
「われわれは最低賃金を1500円に引き上げるよう、2016年から訴えてきましたが、もはやそれでは足りない状態です。
また、調査時点と比べ、現在はより物価が高騰しているので、全国どこでも1700円から1800円くらいの時給が必要になるのではないかと思います。
インターネットを通じて買い物をする時代において、地方では生活に自動車が欠かせず、都市部では交通費が安く済むことを考えれば、地方の方が物価が安く、生活費も安く済むというのは幻想にしか過ぎません。

ですので、まずは『全国一律での最低賃金1500円』を石破首相には直ちに実現してほしいです」(黒澤事務局長)

大幅な最低賃金引き上げ「経営に全く問題ない」

黒澤事務局長によると、これまで、最低賃金の改定を巡っては「中小企業や経営者側が、実際にどれだけ賃上げに耐えられるか」を踏まえ、引き上げ額が審議されてきたという。
「政府はこれまで、『成長なくして賃上げなし』と繰り返してきましたが、石破政権は『賃上げこそ成長戦力につながる』と述べました。この点はわれわれとしても歓迎したいところです。
企業の状況や物価の上昇分『どれくらいだったら賃上げできるだろう』と考えるのではなく、労働者にとって必要な最低金額を決めたうえで、そこを目指して中小企業対策や行政支援を実施していく、そういった審議を期待したいです」(黒澤事務局長)
会見で黒澤事務局長は、徳島県の例を紹介。同県では昨年度の改定で、時給を896円から84円引き上げ、960円に設定しており、最低賃金の過去最高の引き上げ幅となった。
「徳島県の後藤田正純知事は先日開かれたシンポジウムで、徳島県の経済は実質賃金が7か月連続でプラスとなっており、求職者数も増えていると話していました。
一方で、中小企業の倒産や失業が増えたという形跡は見当たらないとも述べていましたので、大幅な最低賃金引き上げは、全く問題ないと証明されたのではないでしょうか。
こうした例を踏まえて、企業の支払い能力ありきでなく、人間らしく生活できる生計費をつくるための審議を期待しています」(同前)

「人口減少止まらず、子どもを県外に送り出す親も」

この日の会見には各地方の労働組合関係者らが出席。現在最低賃金がもっとも低い秋田県からは、秋田県労連の越後屋健一顧問が参加した。
「現在、秋田県内ではどんどん若者が離れており、人口減少が止まらない状況です。最低賃金だけが問題ではないと思いますが、非常に大きな要素になっていることは間違いありません。
こうした状況ですから、子どもに対して『県外に行け』と送り出す親も少なくありませんし、奨学金返済のため地元を離れる人も多いようです」
また、介護福祉士として18年勤めている女性は、仕事に大きなやりがいを感じつつも、「賃金があまりにも低すぎる。見合う評価と賃金を与えてほしい」と切実な声で訴えた。

「手取りは月20万円に満たず、現場では将来への不安や副業の必要性を訴える声が多くあります。離職を考えるスタッフも少なくありません。
ですが、少子高齢化が進む中、介護職の不足が見込まれています。若い世代にこの仕事の価値を知ってもらい、介護職を選んでもらうためにも、政府には賃金の大幅引き上げなど抜本的な処遇改善を求めたいです」(介護福祉士の女性)


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