「義務教育は、これを無償とする」
日本国憲法にはこう記されているが、実際、ひとりの子どもを公立小中学校に9年間通わせた際の保護者負担は数十万円に上る。
「隠れ教育費」とも呼ばれる、この“見えない支出”について、保護者が声をあげれば「子どもにかかるお金は親が払うのが当然」という言葉が飛んでくる。たとえ生活が苦しかったとしても、払わないような人がいれば批判を浴びることになるだろう。
しかし、「隠れ教育費」を支払うことは、本当に誰もが納得している事象なのか――。
この連載では、本来無償であるはずの義務教育において、実質的に保護者が負担している支出の実態に迫る。第1回では、具体的に保護者が何を“買わされている”のかを見ていく。(全5回)
※この記事は栁澤靖明氏・福嶋尚子氏による書籍『隠れ教育費 公立小中学校でかかるお金を徹底検証』(太郎次郎社エディタス)より一部抜粋・構成。
入学前からとぎれなく続く〈モノ〉の購入
小学校入学前の事前説明会、いわゆる新入生保護者説明会から費用負担は始まる。算数セット・クーピー15色・クレパス16色・道具箱・工作板・粘土・はさみ・下敷き――以上、新入学児童学用品セット6000円也。
さらに、通学帽や上ばき、体育館シューズ、体操着の上下は指定品を入学までに各自購入すること、説明会の会場で購入する場合はセット価格7000円也。
このように指定品や推奨品などが販売される。ほかの業者で購入してもよいのだが、その時間と負担を考えて、多くの保護者はその場で購入する。
また、鉛筆は無地で、消しゴムは香りがついていない白、ペンケースは箱型で無地。こちらも入学までに各自用意しておくことなどとされ、準備する学用品は多い。
中学校でも、制服に通学カバン、ジャージ、体操着、シューズ……と、額にしたら5万円は超える。
入学して授業が始まると、各教科のテストやドリル、あさがおセットなどの補助教材の購入をうながされ、小学校で年間1万円程度、中学校では倍以上の額にふくれ上がる。さらには、鍵盤ハーモニカや絵の具セット(小学校)、アルトリコーダーやポスターカラー(中学校)などなど。
夏になれば水泳があり、学校指定の水着や帽子と合わせてラッシュガードや腰に巻くタオルも販売される。すべてそろえれば、1か月ちょっとの水泳指導に5000円以上だ。また、中学校の体育では「武道」がある。冬季に柔道や剣道の授業をおこなうことが多いが、柔道着などを保護者負担で購入している場合、柔道着に3500円、竹刀に2000円くらいはかかる。
各学期が終わると通知表が配付されるが、最近では専用ソフトで成績を管理し、プリントアウトする方式が主流となり、コピー用紙1枚を渡すだけでは味気ないので専用ファイルに入れることが多い。その費用も保護者負担100円也。
ここまでは、学校で必要な〈モノ〉に関する費用例だが、学校の〈コト〉に関する費用も徴収される。
学校行事などの〈コト〉費用もつぎつぎに
*学校給食・PTA・生徒会給食には年間5万円程度の食材料費がかかり、保護者からは毎月約4、5000円が集金される。
*運動会・文化祭・音楽会
「運動会費用」という項目はないが、小学校では表現運動(ダンスのようなもの)で使う衣装などの費用を数百円程度、請求されることもある。また、秋ごろにおこなわれる音楽会で貸しホールを使用する場合、子どもが少ない学校ではひとり1000円以上の「会場費」が集金されることもある。
*校外学習・遠足
その多くが数千円の保護者負担を前提として計画される。小学校では低学年で遠足、高学年で社会科見学を実施。中学校でも遠足的な行事をおこなうこともある。林間学校(臨海・海浜学校)といった宿泊行事では、さらにこの負担は増す。
*修学旅行
小中学校ともに、修学旅行というイベントにはかなりのお金をかける。たとえば、関東圏内から日光へ行くと2万5000円程度、京都なら6万円程度の費用がかかる。東北から東京近郊への修学旅行では、地理条件によって10万円を超えるという話も聞く。
*部活動(おもに中学)
とくに費用がかからない部もある一方で、吹奏楽部で何十万円もの楽器を個人購入するケースがあったり、運動部の強豪校ではたび重なる遠征により、かなりの負担があったりする。遠方で開催される全国大会への出場に、ひとり8万円程度の交通費・宿泊費がかかった事例もある。
*卒業準備
小中学校共通にあることだが、「卒業準備金」「卒業対策費」といわれるものが、(学校からではなく)卒業準備委員会や卒業対策委員会という保護者の組織によって集金される。だいたい1000~5000円くらいだが、1万円近く集金していることもあると聞く(当然、修学旅行代・卒業アルバム代を除く)。
このように、義務教育でありながら、小学校入学から中学校卒業までには、さまざま費用負担が保護者には課せられるのである。
すなわち、「保護者には子どもに普通教育を受けさせる義務がある、そのため費用負担もその義務の範疇であろう」という考えがその背景にあるのかもしれない。――しかし、本当にそうだろうか。
(#2に続く)