「売春は合法化すべき」歌舞伎町弁護士の“真意”とは? 夜のトラブル対応3000件以上…あえて“暗黙のグレーゾーン”に切り込むワケ
‟歌舞伎町弁護士”と呼ばれる弁護士が新宿にいる。グラディアトル法律事務所の代表弁護士・若林翔氏だ。

「日本一の歓楽街」を中心に弁護活動を行うことからいつの間にかそう呼ばれる。
6月には同氏初の著書となる、その名も『歌舞伎町弁護士』(小学館新書)が発刊された。
これまでに3000件以上の風俗関連の相談を受けてきた若林弁護士に、ナイトビジネスの実像や、売春合法化を主張する真意などを聞いた。

著書には生々しい事件やトラブルを掲載

風俗店での客と風俗嬢のプレイ中のトラブル、詐欺的な損害賠償請求による財産のむしりとり、風俗スカウト業務の実情…本書で取り上げられる事件やトラブルはいずれも臨場感にあふれ、生々しい。
プライバシーに配慮してフィクションも混ぜ込まれているものの、基本は事実をベースにしているからだろう。一度読み始めると、気が付けばのめり込むような読みごたえがある。
‟歌舞伎町弁護士”として、ナイトビジネスに関連する法律に精通する若林弁護士。初の著書には、その異名にふさわしいトピックが詰め込まれている。

いかにして歌舞伎町弁護士は生まれたのか

そもそも若林弁護士はなぜ、歌舞伎町を中心に活動するようになったのか。
「歌舞伎町との接点は人との縁でいつの間にかという感じです。次第にナイトビジネス関連の案件も持ち込まれるようになりました。昼間の事件や刑事事件などにももちろん対応していますが、『歌舞伎町の弁護士』と呼ばれることもありますね。この街が好きだし、悪くはないと思っています」
日本一の歓楽街といわれる街を拠点とするからなのか、若林弁護士の前には話しにくい‟壁”は存在しない。弁護士のお堅いイメージとは対極といえるソフトなルックスも手伝い、むしろ親しみやすさを醸し出している。

歌舞伎町という街が弁護士のイメージを変えたのか、生来のキャラクターが街にフィットしていたのか…。

日本一の歓楽街を拠点にする弁護士の目に映る景色

若林弁護士は‟歌舞伎町弁護士”のやりがいについて、こう話す。
「やっぱり人が面白いことが大きいですね。同じ種類の事案だとしても、そこはこの街特有じゃないでしょうか。トラブルや事件の発生頻度は高いですが、それよりもここにいる人たちから学ぶことも多いですし」
ある意味で歌舞伎町の‟住人”ともいえる若林弁護士の目には、社会からの見方とは違う街の実像もみえている。
「無防備だと確かに危ない側面はあります。でも誰もが法令に違反する行為をしているわけではもちろんなく、まじめにやっている人もたくさんいるんです。
ところが、メディアに報じられるときには、一部の悪行が取り上げられ、誤解を生むような報じ方をされることもある。そうしたことで街のイメージが悪化し、ルールが厳しくなっている現実はどうかなぁと思うところもあります」
たとえば昨今、問題となり、規制が厳しくなった風俗のスカウト。一般的なイメージでは、ごく普通の女性を言葉巧みにだまし、風俗の世界へ引き込むと思われがちだ。
実際には、風俗のスカウトはすでに風俗で働いている女性を対象に、別の店舗などへの転職をするための橋渡し役を担っていることの方が多い。
「風俗で働いている子たちにとって、スカウトは転職サポートであり、必要な存在なのです。もちろん、悪質なスカウトもいますが、それでもかなり誤解されている側面はあると思います。
昼間の転職サービスや人材派遣と基本は同じですよ」

歌舞伎町弁護士の‟課外活動”

ナイトビジネスに精通する若林弁護士が「歌舞伎町の弁護士」と呼ばれるのは、街に根付いた活動に積極的に取り組んでいることも大きいといえるかもしれない。
6月某日、歌舞伎町のイベントスペースで人前に立った若林弁護士。舞台は日本最大級の風俗イベント「フーフェス」だ。街の経営者らが立ち上げ、この回で19回目を数える、風俗関係者が多数関わる、歌舞伎町ではすっかり定番のイベントだ。
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フーフェスのセッションでも聴衆を盛り上げた若林弁護士(右)

その運営にも関わり、イベントの常連でもある若林弁護士は、幹事役を務めることもある。この日は、著書のサイン会をこなし、来場者と談笑しながら書籍にペンを走らせた。
トークショーでは聴衆に出版の裏話などを披露するなど、会場を盛り上げ、サラリと役割を全うした。
こうした活動以外にも、顧問を務める風俗店の依頼を受け、ホストや風俗業従事者などへ向けて風営法の勉強会を開催するなど、単に弁護士として案件をこなすだけでなく、街の健全化につながる活動にも力を入れている。
「ナイトビジネスを取り巻く法律はどんどん厳しくなっています。そうした潮流に正面からあらがう気はないですが、立ち向かう術は提供し続けたいと思っています。勉強会を開催すると、参加者は本当に熱心に聞いてくれますよ」

売春合法化を主張する真意

法律家として思うところもある。風俗業の扱いについてだ。
「弁護士にとって、依頼者の味方をするための唯一の武器は『法律』です。ところが、性風俗産業は法から見捨てられている領域になってきてしまっています。
ソープランドでの本番行為など、周知の事実にもかかわらず、摘発が恣意(しい)的に行われる。
だからこそ私は、売春は合法化すべきと考えています。実現は難しい側面も大きいでしょうが、あいまいなままであることによる不自由さの方が問題です。
売春が頻発している現状を認め、そのうえで従事者の安全、透明性の高い経営、客の安心の向上などのために売春を合法化。警察の管理監督下で許可制として運用する。それが合理的ではないでしょうか」
外側から歌舞伎町を傍観しているだけはみえない実像を知るからこその見解だろう。

弁護士として目指す将来像

最後に、いち弁護士として思い描く将来像について聞いた。
「ナイトビジネスについてはかなり専門性がついたと思っています。もちろんまだ不足していることもありますが、この領域では誰にも負けないくらい、突き抜けたいですね。
そうなることで、どんなに厳しい状況でも法令を順守し、たくましく知恵を絞って困難を乗り越えようと頑張っているナイトビジネスの経営者をサポートしたい。
そして、この業界の発展と健全化に少しでも貢献できる弁護士であり続けたいですね」
‟歌舞伎町”から頼りにされ、信頼される弁護士――。単にエリア内で数多くの案件を受けるだけでは得られないからこそ、‟歌舞伎町弁護士”という異名には重みがある。



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