法律事務所や会計事務所などで働く事務員たちの労働組合からなる全国法律関連労働組合協議会(全法労協)が23日午後、都内で会見した。
法律事務所で働く、労働者の実態調査の結果を発表し、日本弁護士連合会(日弁連)に対し賃金や労働条件、職場でのハラスメント防止など処遇改善を求めた要請書を提出。

この日会見に出席した浅野洋輔事務局長は、法律事務所の“実態”について次のように述べた。
「本来であれば人権を守るべき法律事務所で、現在ハラスメントが横行しています。
さらに、弁護士は一般的には、社会的地位が高いと思われていますが、事務員の場合には、他の一般の職業と比べても、かなり低い水準の労働条件で働いていると、ぜひ多くの人に知っていただきたいです」

「手取り14万円では生活が厳しい」

全法労協では、過去40年近く、事務員を対象にしたアンケート調査を実施。日弁連に対して毎年事務員の労働環境改善・向上を訴えてきたという。
今年の調査では、まず賃金について「年収が減少または変わらない」と回答した事務員が43.1%に上り、生活実感では「非常に苦しい、苦しい」が49.2%(昨年48.0%)となっている。
また、家計収支に関する質問でも「赤字・時々赤字・ギリギリの生活」が77.4%(昨年74.0%)と、前年より悪化。
物価高騰が続く中、「手取り14万円では生活が厳しい」「賃金も上がらず仕事量だけが増えている」という意見が寄せられていた。
こうした厳しい収入事情に加え、「昼休みが取れない」「有休が取れない」といった声もあり、全法労協は「事務員が安心して働き続けられる職場」へと環境を変え、労働者の雇用不安・生活不安をなくすよう訴えた。

ハラスメント急増「自分は大丈夫と思っているのが不思議」

加えて、近年はハラスメントの被害を受けたという回答が急増しているといい、「セクシュアルハラスメントがある」との回答が7.0%(昨年4.5%)、「パワーハラスメントがある」は23.1%(昨年17.2%)と、いずれも前年より増加している。
今年3月25日、横浜地裁は、法律事務所で働いていた元事務員の女性が男性弁護士からハラスメントの被害に遭ったとして損害賠償などを求めた訴訟で、約960万円の支払いを命じる判決を出した。
本件では、女性は弁護士から「機嫌が良いときにはセクハラ、機嫌が悪いときにはパワハラ」を受けていたといい、労災を申請した段階で、労基署がパワハラを認定。判決ではセクハラの事実についても明確に認定されていた。
事務員女性をげんこつで殴る、「好きで仕方がないんだ」と告げる…弁護士によるパワハラ・セクハラ認定 約960万円の支払い命令
この事件について、全法労協は「氷山の一角にすぎない」と指摘。今回のアンケート調査でも以下のような回答が寄せられた。

「ハラスメントの事件を受任していながらも、自分は大丈夫と思っているのが不思議でならない」
「指示する際、体をくっつけてくる。手をさわられる」
また、回答者の8割以上は女性で、マタニティハラスメント被害の訴えや、生理休暇取得が困難であるといった意見も集まったという。

「ハラスメントがエスカレートしやすい場合も」

ではなぜ、低賃金やハラスメントなど、処遇や職場環境の問題が法律事務所で発生するのか。全法労協の山谷和大(やまたに・かずひろ)議長は次のように分析する。
「法律事務所の内部では有資格者でかつ、経営者でもある弁護士と、資格のない事務員との間で、序列や力関係が存在している場合があります。
特に、小規模零細の事務所では、弁護士1名、事務員1名という職場も多く、このような環境では第三者の目が届かないこともあり、ハラスメントがエスカレートしやすいのではないでしょうか」

課題解決に向け「何かしら方策はあるはず」

アンケートに寄せられた回答には、処遇やハラスメント防止、社会保険の適用などを求める声のほかに、弁護士に対して、社会人としてのマナー・スキル向上を求める意見もあった。
全法労協の要請書を受け取った日弁連側は「検討する」「今後議論していきたい」との回答を示したが、浅野事務局長によると、「毎年要請書を提出しているが、例年と同様だ」と述べる。
日弁連の姿勢に対し、山谷議長は「たしかに、弁護士自治の原則がある以上、日弁連が直接個々の事務所に介入するのは難しいとは思う」としつつ、「第三者機関のような手段を用いるなど、何かしら方策はあるはずだ」と課題解決を強く訴えた。


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