「キャプ翼」ゆかりの地に「FCバルセロナ」傘下組織を誘致
葛飾区は人気サッカー漫画『キャプテン翼』作者の高橋陽一さんが生まれ育った街であり、区は『キャプテン翼』のキャラクターをまちおこし事業やイベントなどで積極的に活用してきた。2011年、区民有志が「スペインのサッカークラブ『FCバルセロナ』のオフィシャルスクールを『キャプテン翼』ゆかりの地である葛飾区に誘致したい」と計画。
2015年、有志の1人が代表理事となり、運営団体として一般財団法人「キッズチャレンジ未来」(以下「キッズチャレンジ」)を立ち上げる。
2015年1月、キッズチャレンジと葛飾区は、区営東金町運動場のグラウンドを優先利用できる協定を区と締結。区は約4億6000万円でグラウンドに夜間照明や人工芝を整備した。
また、葛飾区はキッズチャレンジの要望を受け、区内にある都立水元公園にトレーラーハウスを設置。事務管理棟やシャワールームとして利用するため、同トレーラーハウスをキッズチャレンジに賃貸することになった。その賃料は1か月当たり2500円。
2015年4月、「バルサアカデミー葛飾校」が開校する。
2024年に「運営不正」疑惑が浮上
2024年9月、キッズチャレンジが葛飾区に報告することなく、営利企業である「株式会社アメージングスポーツラボジャパン」に2023年3月の時点で事業を譲渡していたことが判明した。これをきっかけに「キッズチャレンジの運営にも問題があったのではないか」との疑惑が生じる。区議会で追及され、赤字経営であったにも関わらず接待交際費が1000万円を超える年があったことも明らかになった。
区議会の批判を受け、区は今年3月にキッズチャレンジとの協定を終了。これに伴い、トレーラーハウスの賃貸借契約も終了した。
この措置については正当化する根拠がなく、区議員からも「なぜ今すぐ優先利用をやめさせないのか」などの声が上がっているという。
そして、トレーラーハウスの賃料が適正であるかも問題になった。
区はトレーラーハウスを「建築物ではなく備品」と主張
提訴後に会見を開いた、原告代理人の船尾遼弁護士は「そもそも、都立公園に新たに建築物を設置することはできない」と、違法性を指摘する。葛飾区の側は「トレーラーハウスは移動可能であるから『建築物』ではなく『備品』である」と主張している。
また、東京都から問われた際には、区は「トレーラーハウスのインフラが簡易に着脱可能な使用であれば建築物には当たらない」と回答し、設置の許可を得たという。
しかし、実際にはインフラは容易に取り外すことができず、都の許可自体が無効になる可能性があると船尾弁護士は指摘。
また、トレーラーハウスが行政財産であるとすれば、地方自治法上、本来は占有契約(使用許可)を締結すべきであり、賃貸借契約を締結することはできない。
「そもそも、賃貸借契約は無効となるはず。また、仮に賃貸できる『普通財産』であるとしても、賃料2500円は廉価すぎる」(船尾弁護士)
区側は、シャワールームは全区民が利用できるなどと主張してきたが、実際にはバルサアカデミーがトレーラーハウスを独占使用してきたという。
原告側は、都営住宅の家賃などに照らし合わせつつ、適切な賃料は1か月当たり約8万円と主張している。
また、船尾弁護士は「余談ではあるが…」としながら、バルサアカデミーの月謝が一般的なサッカークラブよりも高額であり、葛飾区内の家庭にとっては加入が難しいことを指摘。地元のサッカークラブに加入している子どもたちがトレーラーハウスを利用できない問題に触れた。
区長は第三者委員会の設置を表明
住民訴訟を提起した梅田信利氏は、2021年まで葛飾区議会議員を務め、区長選にも立候補した経歴を持つ。同氏は、区役所の庁舎の移転・建て替えをめぐって問題が起こっていることに触れつつ、「いまの葛飾区政は本当に混乱していると思います」と口にする。
バルサアカデミー葛飾校をめぐっては、2015年の開校当時に担当課長を務めており、キッズチャレンジの設立にも関係していた小林宣貴(のぶたか)・前副区長が、今年5月末に辞任している。
梅田氏は「『サッカー振興』という美名のもと、区に大きな損害が与えられた」と言いつつ、バルサアカデミーは横浜や福岡など全国に数校あることに触れて、「バルサアカデミーそのものが悪いわけではない」と、問題はキッズチャレンジの方にあると指摘。
6月23日には、青木克徳・現区長が本件に関する第三者調査委員会を設置することを表明。梅田氏も「住民訴訟や第三者委員会の調査を通じて、本件の真相が解明されることを望む」と語った。