
今回は、ナイトビジネスの法律に詳しいグラディアトル法律事務所の若林翔弁護士の解説と、現役ホストの声から業界の行く末を展望する。
改正の背景は?
ホスト業界の営業スタイルに多大な影響が不可避の法改正を目前に控えた6月下旬、都内で開催された勉強会には業界関係者らが100人以上集まり、講師の声に熱心に耳を傾けた。そもそもなぜ、今回の法改正が行われることになったのか。若林弁護士は背景を次のように説明する。
「基本的には悪質なホストクラブ問題が発端です。
大久保公園の立ちんぼ、“頂き女子りりちゃん”の詐欺事件、海外の出稼ぎ…。そういったいろいろな社会問題があり、それらが世間をにぎわせている中で、その背景には全部ホストクラブがあり、ホストがいると、ホストが諸悪の根源のようにみられました。
ホストに貢ぐためにこういう事件が起きている。ホストを規制しなければ、というところで改正の話が出てきました」
そのうえで、「今回の改正風営法には5つの主要なポイントがあります」(同前、以下同)とし、以下のように解説した。
(1)接待飲食店営業における遵守事項の追加
「キャバクラやホストクラブなど、風俗営業に該当する店舗が対象。ガールズバーなど、届け出を出しているものの実態が接待を伴う営業も含まれます」主な遵守事項は次の3点。
- 料金の虚偽説明の禁止
- 色恋営業の禁止
- 注文しないドリンクなどの提供禁止
色恋営業が全てNGとなる訳ではないです。
キャストだけでなく、ヘルプの子が同様の行為を行うことも含まれるので、十分な注意が必要です。これらの遵守事項に違反した場合、罰則はありませんが、業務停止命令などの行政処分の対象となります」
恋愛感情を“悪用”し、売上を迫るのはNG(Ushico / PIXTA)
(2)禁止行為の追加
「接待飲食店営業(キャバクラ、ホストクラブ)が対象です。風俗店は対象外。以下の行為が新たに禁止され、罰則が追加されました」- 料金の回収目的での威迫・困惑させる行為
- 性風俗勤務やAV出演などの要求
(3)スカウトバックの支払い禁止
「対象は性風俗営業(ソープランド、箱ヘル、デリヘルなど)の経営者です。キャバクラやホストクラブは対象外です。AVについても対象外とされています。風俗店のキャストの紹介に対して、紹介者(スカウトなど)や第三者に対して金銭その他の財産上の利益を提供することが禁止されます。
広告費名目での迂回(うかい)払いなども含め、実質的に紹介の対価とみなされるものは全て禁止対象となります。給与の一部として上乗せするなどの場合も、実質的に紹介料と判断されれば違法となります」
罰則:6か月以下の懲役または100万円以下の罰金(併科もありうる)
(4)無許可営業・名義貸し、禁止区域営業などに関する罰則の強化
「キャバクラ、ホストクラブ、ガールズバー、メンズエステなどが対象。無許可営業は実態として許可名義と経営者が異なる場合(名義を貸している人が名義貸し、実際の経営者が無許可営業)やガールズバー、コンカフェなど、届出制のバーとして営業しながら、実態として接待を伴う風俗営業を行っている場合。メンズエステなど、風俗営業が禁止されている区域で営業している場合の罰則も強化されます。罰則が大幅に強化され、法人の場合は3億円以下の罰金、個人の場合は5年以下の懲役または1000万円以下の罰金となります。これは、売上の大きいホストクラブなどを厳しく規制することを目的としています」
(5)欠格事由の拡大(11月28日~)
「キャバクラやホストクラブなど、許可制の営業が対象。風俗営業の許可取り消しについて、その範囲が拡大されます。特に重要となるのが、『親会社等が許可を取り消された法人』です。
オーナーが複数の店舗を経営している場合、そのうちの1店舗が許可取り消しになると、他の関連店舗も同様に取り消されるリスクがあります。
この欠格事由の拡大に関する規定は、2025年11月28日から施行されます」
「ナンバーワン〇〇」などはNGとなる広告表現
若林弁護士は改正風営法の施行に先立ち、警察庁から通達が出されたホストクラブの広告規制についても補足した。「ナンバーワン、何億円プレイヤーなどのあおり文句の看板が禁止されます。これは、過度な競争をあおり、顧客が多額の金銭を消費する原因となる表現を規制するものです」
これらからわかるように、今回の法改正および通達は、多方面にかなり踏み込んだ内容。摘発後は税務署の調査が入り、怪しい収入・資産等が没収されるリスクが高まるともいい、違法な経営がそのまま死活問題にもなりかねず、取り締まる側の本気度が伝わる。
現役人気ホストは業界の今後をどうみる?
税理士でもあり、2024年11月にホストデビューを果たした夜野仁氏はこの日、講師と現役ホストの2つの顔で勉強会に参加。終了後に直撃すると、今後のホスト業界についてクールに口を開いた。「どの業界にも言えることですが、ルールの変わり目にはいち早くアップデートすることが必要です。これまでのようなホストのやり方が法律で規制されるなら、そのルールの中でいかに結果を出すか。しっかりと情報収集し、そこに目を向けて知恵を絞るだけです。
逆にいえば、これからはそこに対応できないホストとできるホストに二極化していくのではないでしょうか。お客様の中には昔ながらのスタイルを望む方もいらっしゃいますが、それに流されるのはただの甘えだと思います。
色恋がなくても、お客様に喜ばれ、しっかりと売り上げを立てられるホストとして、業界の健全化に貢献したいですね」
早くから法改正を意識しているホストには、SNSを駆使しながら客をファン化し、“合法的”に売り上げを伸ばしている先駆者もいるという。
夜野氏自身も、所属ホストグループでいきなりトップデビューを果たし、現在もその水準をキープしている業界注目のホストとして君臨している。
ルール大改革で過渡期にあるホスト業界。ナイトビジネスとして健全化できるかは、法律による規制はもちろんだが、ホスト個人の意識にも大きく委ねられているといえそうだ。
なお、今回の勉強会は性の娯楽やサービス産業に関わる仕事を選んだ人たちが、職業差別による心理的な負担や生きづらさなどを解消し、偏見のない社会をつくるための一助を担いたいと活動する「siente」が主催。同団体は風俗関係者らを対象に、関連の各種勉強会などを定期的に開催している。