母子世帯家庭などから届いた“悲鳴”
「ひと月に一度もごはん(おコメ)を食べていない」――。「キッズドア」ではコロナ禍の2020年、困窮する子育て家庭への緊急支援として、物資や就労等の支援を行う「ファミリーサポート」事業を開始。同事業に登録する全国の困窮子育て家庭を対象にオンラインでアンケート調査を実施した。5月23日から6月2日までの11日間の調査で、2033件の回答が寄せられた(回答率63%)。
回答者はほぼ女性(97%)で、年齢は40代が半数を占め(54%)、以下30代(24%)、50代(20%)と続いた。設問によってはそれぞれの家庭で子どもも回答している。東京都を含む南関東(37%)を中心に近畿(17%)や九州・沖縄(11%)など全国から回答が集まった。
世帯構成では、母子家庭(離婚調停中、別居などを含む)が圧倒的に多かった(90%)。また、扶養している子どもの人数は「1人」が44%、「2人」が35%、「3人以上」が20%だった。世帯所得は100万~200万円未満(37%)がもっとも多く、300万円未満がおよそ8割を占めた。
同アンケートは2022年から毎年夏に行い、今年で4回目となる。今回のアンケートからは、物価高騰による家計、特に食費への影響の深刻さが明らかになった。
自分の食事を犠牲にして子どもたちへ
会見に臨んだ「キッズドア」の渡辺由美子理事長、田中博子調査室長は結果の概要を説明。昨年調査時と比べ、大多数の家庭が食費を「本当は増やしたいが、これ以上増やせなかった」(82%)と抑えていた。
食事の量については、昨年同時期と比べて「減った」と回答した保護者が81%に上った。一方、同質問は子どもにも回答を求めたが、「減った」と回答した子どもは27%にとどまった。
保護者と比べて「減った」と回答した子どもの割合が小さいことから、田中調査室長は「(親が)自身の食事を犠牲にして子どもに食べさせているようだ」と分析した。
また、食品の種類や栄養バランス等を含む食事の質についても、保護者の84%、子どもの57%が「悪くなった」と回答。
世の中では、コメが店頭から消え、高騰し、備蓄米の出荷が進んでいるが、コメついて「とても不足している」(64%)、「やや不足している」(29%)と9割を超す困窮家庭でも不足の危機に直面していることが分かった。
食べているコメの量についても、過半数以上の世帯が「家族の健康な生活に必要な量より少ない」(72%)と答えた。
1か月に食べるコメの量について、「0kg」の回答もわずか(1%)だがあったとして、渡辺理事長は「ひと月に一度もごはん(コメ)を食べていない可能性がある」と懸念を示した。
自由記述の回答欄にも、コメ不足と価格高騰への“悲鳴”が寄せられた。
「高くて、一年間、米を買ってないです」
「お米が高くて買えなくて、子どものお弁当用のご飯がなくて作れない時がある。支給品でいただいた5kgのお米1袋を少しずつ炊いて子どものお弁当用にしている」
「子どもに、お米をおなかいっぱい食べてもらえるようになりたいです。低身長なのも、栄養不足かなと思ってしまっています」
成長に合わせた衣服や靴が買えない
食費以外に出費を抑えている品目として「衣服や靴の費用」(89%)がもっとも多く、物価高騰によって、本来喜ぶべき子どもたちの“成長”が親の負担になってしまう現状も見えた。自由回答では「成長期で靴や服がすぐにサイズアウトしてしまいますが、(新しいものを)購入することが中々できないことがあり困っています」「体操服や制服が今年サイズアウトして今すぐは買えないのが本当に本当に悩みで、悪いなといつも思います」など、親として葛藤する声が寄せられた。
子どもの成長に伴うお小遣いについての調査も行われた。お小遣いをあげている家庭の割合(「毎月」と「ときどき」の合計)は、対象の子ども別に小学生が33%、中学生が47%、高校生が49%。
お小遣いをあげていない家庭にその理由を聞いたところ、小・中・高生のいずれも「お小遣いをあげたいが、家計に余裕がない」が70%以上を占めた。
自由回答では、子どもがお小遣いを持っていないことで、「友人とコンビニに行っても高いので何も買わないで見ているだけです」「ファストフード等に寄っても水しか飲まない」という、親としてのいたたまれない心情もつづられていた。
また、「友達と付き合わない生活になった。不登校になりました」「同級生から『貧乏』と言われており、友達のお母さんから一緒に遊ばないようにと言われていると聞いたと子どもから言われた」という回答もあり、子どもの不登校や仲間外れ、いじめにもつながっている実態が明らかになった。
「子どもたちの命と健康が損なわれる」
アンケートでは、国の公的支援における所得制限に関する質問も実施された。「就労によって収入を増やしたいか」の質問には、ほぼ全世帯と言える9割が「とてもそう思う」(70%)、「まあそう思う」(24%)と答えた。
一方で、所得制限を理由に収入が増えないようおよそ半数(46%)が就労時間を短くしたり、高い賃金の仕事に就くことをやめたりする“勤労調整”を行っていることも明らかになった。
受給している公的支援は、児童扶養手当(全部支給)(38%)、同手当(一部支給)(17%)、生活保護(3%)など。
これらの支援には所得制限があり、一定の所得に達すると受給額が減額されたり、受給できなくなったりするしくみになっている。
かといって、所得を増やすため労働時間を増やすことは、子育て世帯にとっては著しく困難であり、やむを得ず“勤労調整”をしている実態も浮かび上がる。
渡辺理事長は「(生活困窮の子育て家庭は)非常に危機的な状況だ。自治体などで緊急に支援を行わないと子どもたちの命、健康が損なわれる」として国、行政の支援を強く求めている。
厳しい食料事情や働き控えにつながる所得限度基準などの改善・検討を求め、「キッズドア」では、①崩壊寸前の食料事情へ緊急の支援、②これ以上手取りを減らさない制度設計、③子どもに最低限のお小遣いを渡せる生活の実現――など6項目の緊急提言も行った。
米5kgを中心とした食料品等の配布支援も全国3000世帯に行う。資金を集めるため、クラウドファンディング(https://congrant.com/project/kidsdoor/17869)への協力も呼び掛けている。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。