この事件は今年5月上旬、山梨県甲府市内の大学生寮で起きた。クッキーは友人がインターネットで購入したとされ、男子大学生は摂取後、寮の2階の窓から飛び降りたという。
警察による薬物検査では、違法な薬物成分は検出されなかったが、読売新聞オンラインは県警幹部の話として、状況からクッキーと飛び降り行動に因果関係があると推察していると報じている。
問題のクッキーは、インターネットの販売サイトで「大麻草の成分が含まれている」「深く沈むような体感」などと宣伝されていたようだが、同時に「違法性がない」ことも強調されていた。クッキーを購入した友人は、SNSで著名人が宣伝していたのを見て興味を持ったと話しているという。
因果関係の断定には慎重であるべき
この事件を受け、SNSでは「これが合法で売られてるのが怖い」「ネットで簡単に手に入る食品にこんなリスクがあるなんて怖すぎ」「合法って書いてあっても、体に何が起こるかわかんないから本当に怖い」といった声が多数上がっており、製造元や販売元の責任を問う声も見られる。しかし、刑事事件に詳しい杉山大介弁護士は、製造元や販売元に対し、現段階で行政処分や損害賠償といった法的責任を問うには時期尚早であるとの見方を示す。
「まず、学生が飛び降りた原因が『高揚する成分』入りクッキーの影響であると断定することには慎重な姿勢であるべきです。報道によれば、違法薬物は検出されていないため、少なくとも人体に強い影響を与える違法薬物が含まれていた可能性は低いと考えられます。
もし『違法ではないが、精神作用を変化させ、飛び降りるほどの強力な物質』が含まれていたというのであれば、具体的にどのような成分であったのかを特定する必要があります。捜査関係者が『因果関係があると思う』と述べているだけでは、情報を十分に検証しているとは言えません」(同前)
アルコールやカフェインも「高揚する成分」
そして杉山弁護士は、「高揚する成分」という表現が非常に広範な意味を持つことにも言及する。「まるで怪しげな成分が入っているかのような印象を受けてしまいますが、たとえばアルコールやカフェインも、広義には『高揚する成分』に該当します。
もし具体的な成分を伏せているのが、その成分が社会に周知されて利用者が増えるのを防ぐための配慮であれば、その意図は理解できますが、その成分が特定の危険をはらんでいるのかどうかは、情報として添えられるべきではないでしょうか」(同前)
実際にネット上では、今回の事件を受け、法規制をすり抜けた何らかの成分がクッキーに含まれていたのでは、という指摘が目立つ。
その背景には、近年、日本でもCBD(カンナビジオール)関連製品が「リラックス効果」や「ストレス緩和」といった文脈で注目を集めていることがあるだろう。
2024年12月には改正大麻取締法の一部が施行され、大麻の「使用罪」が新設される一方で、精神作用を持つTHC(テトラヒドロカンナビノール)の含有量に着目した「成分規制」へと移行した。これにより、THCがごく微量であれば、大麻草由来であっても麻薬規制の対象外となることが明確化された。
しかし法改正後も、新たに合法となった製品の安全性や適切な使用方法については、依然として社会的な議論が続いている。加えて、法の抜け穴を悪用し、安全性が未確認の「グレーな成分」を含む製品が流通している現状もあり、その適切な取り締まりも課題となっている。
「合法だと言われていた」は通用しない
杉山弁護士は刑事事件に多く触れている感覚として、「わざわざ『合法』とうたうものは、違法な薬物成分が入っていることがままある」とし、そうした商品で、特に販売元もはっきりしないようなものには「警戒感を持った方が良い」と話す。その上で、今回の事件では前提として違法薬物が検出されておらず、含まれていた成分自体が問題のあるものであったかどうかも今のところ不明なことから、「現状では行政処分や損害賠償といった法的責任を論じる段階にはない」と強調した。
最後に、杉山弁護士は刑事事件の実務経験から、たとえ「合法だと言われていた」「違法なものだとは思っていなかった」と弁解しても、薬物検査で陽性となればその主張は退けられることがほとんどだと補足する。
「こうした主張は、ことごとく“粉砕”されます。今回のケースでは違法薬物が検出されなかったことは幸運であり、通常であれば犯罪者となってしまうケースも少なくないため、安易な気持ちで、ネットで販売される商品に手を出すことには注意が必要です」(同前)