多摩モノレール延伸でも“鉄道”空白地帯からの卒業にはならない? 「軌道法」と「鉄道事業法」の違いとは
多摩都市モノレール株式会社(以下、多摩モノレール)が延伸について、国土交通大臣に申請中だった軌道法に基づく特許を5月上旬に受けた。今後、東京都と連携し、2030年代半ばの開業を目指し、工事着手に向けた手続きを進めるという。

線路の起点は東京都東大和市上北台1丁目5番2、終点は東京都西多摩郡瑞穂町大字箱根ケ崎字狭山253番3。延長は約7.0km。建設費は総額約1290億円。
今回の延伸で、東京・武蔵村山市は5駅の整備が計画される。同市はこれまで、東京都の島しょ部を除く地域では、鉄道の駅がない唯一の自治体だったので、大きな恩恵を受けることになる。
同市では「市が大きく発展する絶好の機会」として、多摩モノレール延伸を見据え、計画的なまちづくりを進めるべく盛り上がりをみせている。

軌道法と鉄道事業法の違い

モノレールには軌道法が適用されることが多い。鉄道に適用される鉄道事業法とは何が違うのか。鉄道関係の法律に詳しい金井勝俊弁護士が解説する。
「原則として鉄道事業法は、専用の路線を敷設する鉄道事業者を対象とし、軌道法は道路に敷設される軌道を対象とします。
また、敷設場所については、鉄道事業法は『鉄道線路は、道路法による道路に敷設してはならない。』(鉄道事業法61条1項)とされているのに対し、軌道法は、『軌道は特別の事由ある場合を除く外これを道路に敷設すべし』(軌道法2条)とされており、道路に軌道を作ることとされております。
ざっくりと説明すれば、鉄道事業法は、線路を敷設し走行している鉄道、軌道法は路面電車に適用されるということになります。

ただし、あくまでも『ざっくりと説明すれば』の話であり、軌道と鉄道の区別は難しいのが現状です」
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鉄道事業の種別(内閣府HPより)

線路か道路か。そこが区別の分岐点といえそうだが、それだけでは収まりきらないところに難しさがある。

2つの法律が混在する路線も

たとえば、大阪メトロの多くの区間が軌道法に準拠していたり、東京モノレールが鉄道事業法準拠であったり、一般ユーザーが表面上だけでどちらかを判断をすることは極めて困難なのが実情だ。
法律面の違いでいえば、東京湾岸エリアを走る新交通システムのゆりかもめは、走行区間によって鉄道事業法と軌道法の適用が異なる。
具体的には「新橋ー日の出」間は軌道法、「日の出ーお台場海浜公園」間は鉄道事業法、「お台場海浜公園ーテレコムセンター」間は軌道法といった具合だ。
こうした事例からも、2つの法律の区別の難しさがわかるだろう。
なお、手続き上、鉄道の場合は国土交通大臣の「許可」(鉄道事業法3条)、軌道事業を経営しようとする者は国土交通大臣の「特許」が必要(軌道法3条)とされるが、実質的な差はないと考えられている。

軌道法のルーツ

では、そもそも各法律のルーツはどうなっているのか。金井弁護士が次のように説明する。
「『鉄道事業法』は、鉄道事業を営む者に関する基本的な事項について定めた法律です。国鉄の分割・民営化のとき、民営鉄道を規律する『地方鉄道法』と、旧国鉄の運営について定めた『日本国有鉄道法』を一本化したもので、1986年に制定されました。現在では、すべての鉄道事業者に適用される基本法としての役割を担っているとされています。
『軌道法』は、軌道が道路に敷設され、道路交通を補完するものとしての機能を持つことから、鉄道とは別個の法体系により規律することとしています」
そうしたなかで、「都市モノレールの整備の促進に関する法律」(1972年11月施行)は、その名からも分かるように、モノレール整備を対象とすることを明確にし、わかりやすい立て付けとなっている。
同法では都市モノレールを「主として道路法に規定する道路に架設される一本の軌道桁に跨座(こざ)し、又は懸垂して走行する車両によつて人又は貨物を運送する施設で、一般交通の用に供するもの」と定義。

そのうえで「その支柱が道路面を占めていることにかんがみ、軌道法の解釈上、軌道法を適用するものとする」としている。同法が施行されてからは、ほぼすべての都市モノレールの整備において軌道法が適用されている。

交通インフラの地域活性の可能性

交通インフラの整備には、地域の可能性を一変させる力がある。
武蔵村山市は、延伸後の沿線の将来像を「武蔵村山らしさを守り、育てるとともに人を呼び込み、人でにぎわう楽しいまち」と描き、人口の流入も見込んでいる。
多摩モノレール延伸でも“鉄道”空白地帯からの卒業にはならない? 「軌道法」と「鉄道事業法」の違いとは

モノレール沿線はどう活性化されるのか(武蔵村山市HPより)

延伸完了まで約10年。同市内には7キロの区間に5つの駅が設置されることから、開通後、同モノレールは市民の生活の足として重宝されそうだ。
‟鉄道過疎地帯”を卒業し、同市が「絶好の機会」をどのように活かし、まちの活性化を実現するのか、成り行きが注目される。


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