「ジブリ風」イラストがSNSに氾濫、「ONE PIECE風」ゲームまで登場…それでも「画風」は独占させるべきでないワケ

ここ最近、生成AIなどのデジタルツールを用いた制作物が、先行作品の画風に類似するというトピックが頻発している。
これらをきっかけに「画風の保護強化」の是非が取り沙汰されるようになってきたが…。(友利昴)

「ジブリ風」「ONE PIECE風」は許されるのか?

今年3月、ChatGPTが画像生成機能を無料版に搭載し、スタジオジブリ風の画像を手軽に生成できることが広まると、「ジブリファイ」と呼ばれて世界的なブームとなった。
5月には、これは生成AIを関与させたものとは明言されていないが、「Nintendo Store」で配信予定だった「パイレーツアニメクエスト」なるゲームが、アニメ『ONE PIECE』風だったことから物議を醸し、配信開始前に取り下げられるという出来事があった。

6月には、米国でディズニーらが画像生成AIのMidjourneyに対して著作権侵害を理由に提訴している。
既存作品に「画風が似ている」という問題自体は古くからあり、AI時代に始まった話ではない。すでに多くの専門家が述べているように、抽象的に「画風」といったときに、それらが著作権で保護されないことは法的には常識といえる。

画風の保護強化は必要か?

一方、生成AIによる「○○風イラスト」が増えて注目を集めたことにより、「画風の類似は本当に許されるべきことなのか」「法が追いついていないと評価すべきではないか」といった声が上がりはじめている。
果たしてこのムードを受けて画風の保護を強化すべきだろうか。
現状をふまえても、法律やアートの専門家で、「作風や画風を著作権の保護対象とすべき」と考える者は少数だろう。クリエイターにおいても、自分の画風の保護のことで頭がいっぱいになっているときは別として、冷静になれば、普通は保護強化には賛成しないはずだ。
作風や画風を特定の権利者に独占させることは弊害が大きく、自由な創作にとっても、表現の多様性を守るうえでも、妨げになるためである。
ただし、「画風」という言葉の定義の曖昧さゆえ、「画風は保護されるべき」と考える者の想定する「画風」が、実際には、当然に保護に値する創作的表現を指している場合も多い。これについては後述する。

画風が著作権で保護されると、あの作品も著作権侵害に!?

画風や作風という言葉は法律上定義されていないが、一般的には、具体的表現に至っていない抽象的なアイデアや雰囲気、表現のための技法・手法それ自体などを指す。
なぜ、これらを特定の権利者に独占させるべきではないのか。それは、「共通する雰囲気や表現技法」から多様な表現が生まれることを、人類は経験則上、熟知しているからだ。
もし抽象的な「スタジオジブリ風」がスタジオジブリの著作権の範囲に入るなら、映画『メアリと魔女の花』はジブリの著作権を侵害することになりかねない。
抽象的な「ONE PIECE風」が尾田栄一郎の著作権の範囲に入るなら、『FAIRY TALE』は尾田の著作権を侵害することになるかもしれない。
実際には、両作ともジブリや尾田作品とはまったく異なる魅力を持つ作品である。これらが著作権を理由に日の目を見なくなってしまうとしたら、作り手にとっても、ユーザーにとっても損失だ。
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『メアリと魔女の花』(ブルーレイ)スタジオジブリから独立したプロデューサー・監督による作品


「ジブリ風」イラストがSNSに氾濫、「ONE PIECE風」ゲームまで登場…それでも「画風」は独占させるべきでないワケ

真島ヒロ『FAIRYTALE』(講談社)第1話扉絵


こうした例が示すように、雇用・師弟関係や憧れ、目標意識などがあれば、対象の画風に一定の影響を受けながら、別の作品が生まれていくのは必然ともいえる。
また、最初は個人の作風・画風だったものが、同時代の作家に影響を与えることで、やがてその時代を象徴する作風・画風に転化し、流行となり、関連産業や文化を豊かにすることも歴史が証明している。
作風・画風はむしろ特定の権利者に独占させず「共有財産」とすることが、文化の振興という観点からは望ましいのだ。

画風の類似と言い張っても、著作権侵害になることがある!?

ただし、例えば他人の写真などを無断転載して「合法な“引用”だ」と言い張っていても、客観的に引用の要件を満たしておらず著作権侵害となる例があるように、「○○風」と言っていても、客観的には「表現の類似」に踏み込んでいることも少なくない。
このような場合には著作権侵害の問題となる。
では、「画風の類似」と「表現の類似」の境界線はどこにあるか。
イラストに関していえば、まず、比較対象の表現物から、作画手法(点描、エアブラシのみで描く、蛍光色で描くなど)、モチーフ(プードル、少年海賊など)やアイデア(プードルが木登りをしている。少年海賊の腕が伸びている)などにおける共通部分を排す。
次に、そうした手法やモチーフなどを採用すれば当然に共通するありふれた表現(点描で描けば絵が点で構成される、プードルの絵なら現実のプードルの特徴が表れる)も排す。そのうえで、残る「具体的な創作的表現」部分同士を比較し、そこが類似しているかどうかが境界線だ。

特に注意したいのは、人間や動物、その擬人化キャラクターのイラストである。誰が描いても「人間」「動物」の特徴が表れるため、これらの部分は「創作的表現」とはなりにくい。シンプルな作画であればあるほど、創作的表現は、パーツの配置バランスや、陰影のつけ方など、細部にしか残らないのだ。
このようなイラストにおいて、作画手法やモチーフが共通していれば、パッと見の印象は当然に似るものだが、その印象で断罪することには抑制的でなければならない。
なお、既存のキャラクターイラストを、例えば3D化、二等身化、あるいはディズニーキャラクターをジブリ風で描く、といった場合、通常、創作的表現を維持したままで画風を変えるというアプローチが採られるだろう。その場合は著作権侵害となる。
つまり、ディズニーキャラクターをジブリ風にした場合、ジブリの著作権は侵害しないとしても、ディズニーの著作権を侵害する可能性は高いということだ。
一方、既存キャラクターの創作的表現の再現を避け、画風や雰囲気のみを生かして別の作品が創作されることもある(パロディのうち上手なものはこのように作られるし、あるいは小さな子どもによる模写などは、技術上の制約によって雰囲気しか再現できないことが多いだろう)。この場合は、著作権侵害にならない。

生成AIの「○○風」にリスクはあるか?

では、プロンプトにおいて既存のキャラクターを示唆することでAIが生成するイラストは、画風の類似にとどまるのか、それとも表現の類似に踏み込んでいるのか。
個別に評価していくしかないが、たとえ「○○風」という指示でも、元ネタの創作的表現と類似する生成物が出力されることはある。
ディズニーらが訴訟で取り上げたMidjourneyの生成物を見ると、ディズニーキャラクターの創作的表現を、ほとんど単純コピーのレベルで再現しているものから、画風や雰囲気のみの共通性にとどまるものまでが混在しているように思える(【画像】参照)。
なお、これらを指して、ディズニーらは「原告の著作物の侵害物が数限りなく含まれているようだ」と主張しており、「侵害物がかなり多いが、すべてではない」と認識しているようにも読める。

「ジブリ風」イラストがSNSに氾濫、「ONE PIECE風」ゲームまで登場…それでも「画風」は独占させるべきでないワケ

【画像】Midjourneyの生成物例を示すウェブページ。PrincessElsa(『アナと雪の女王』のエルサ)の検索例(DISNEYENTERPRISES,INC.v.MIDJOURNEY,INC.,UnitedStatesDistrictCourt,C.D.California.No.25-5275)

ChatGPTが生成する「ジブリ風」は、鳴り物入りで実装されただけに、管見の限りでは、創作的表現を避け、画風のみを再現しているものが多いように思われる。
それゆえにというべきか、ジブリ風と言われればそう思えるが、藤子・F・不二雄風と言われればそのようにも見え、漠然とした「日本のファミリーアニメ風」にとどまる生成物も少なくない。
一方、その他の「○○風」のなかには、類似性が創作的表現に食い込んでいるのではと思われるものもある。

安全に画像生成AIを使いこなすために必要なのは…

クリーンなAI活用のためには、AIが、学習対象の著作物の創作的表現を、生成物において再現しない(真に作風・画風の再現にとどめる)ことが必要である。これは法整備よりも、むしろ技術的解決策によって実現が望まれるところではないだろうか。
なおこの点に関し、ディズニーらは、Midjourneyとの訴訟において、「Midjourneyはユーザーが送信するプロンプトを制御し、特定のコンテンツの生成を明示的にブロックする権利と能力を有しており、また競合会社はそのような著作権保護措置を講じているにもかかわらず、同社はその措置を講じていない」と主張している。
この主張が正しければ、創作的表現の非再現措置は、すでに技術的には可能なのかもしれない。
そうだとしたら、画風の類似について、生成AIに固有の問題は、やがて収束していくのではないだろうか。
残る問題は、手描き時代から続く「画風の類似にすぎないか?それとも創作的表現の類似か?」という評価の難しさであり、これについては、創作ツールが今後どう移り変わろうとも決してなくならない、永遠の課題といえるだろう。
■友利昴
作家。企業で知財実務に携わる傍ら、著述・講演活動を行う。
ソニーグループ、メルカリなどの多くの企業・業界団体等において知財人材の取材や講演・講師を手掛けており、企業の知財活動に詳しい。『江戸・明治のロゴ図鑑』『企業と商標のウマい付き合い方談義』『エセ著作権事件簿』の他、多くの著書がある。1級知的財産管理技能士。


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