その翌日には、同じくフジテレビの山本賢太アナウンサーも、640万円をオンラインカジノに賭けていたとして、賭博の疑いで書類送検された。
オンラインカジノをめぐる逮捕・送検はこれに限らず、人気男性グループ「JO1」のメンバー鶴房汐恩さんや複数のスポーツ選手、お笑い芸人など、各界の有名人の利用が次々と発覚している。
一方で、報道などを受けて、SNSでは「賭けていた額が大きい人や、有名人を集中的に取り締まる“見せしめ”ではないか」などとの声も上がっている。
見せしめ的な取り締まり「あると思う」弁護士指摘
警察庁が行った実態調査(2025年1月公表)によれば、国内でオンラインカジノを利用した経験がある人は336万人に上った。一般の利用者も多数いるにもかかわらず、報道で大きく取り上げられるのは有名人の利用ばかりだ。これに対し、元大阪府警の行政職員で、刑事事件に詳しい堀田和希弁護士は「捜査機関が見せしめ的に取り締まっている可能性はあると思います」と話す。
その上で、見せしめ的な取り締まりの背景には、今年3月に改定された「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」があると指摘する。
「この計画をもとに警察庁は、オンラインカジノなど、オンライン上で行われる賭博・違法ギャンブル等の取り締まりの徹底を全国の警察に指示しました。
また計画には、オンラインカジノの違法性等について広報啓発・教育を推進することも盛り込まれています。有名人や、賭けた額が大きい人を逮捕・送検することでその効果を狙っている可能性もあるのではないでしょうか」(堀田弁護士)
見せしめ的取り締まりの“問題”
一方で、堀田弁護士は見せしめ的な取り締まりには問題もあると警鐘を鳴らす。「見せしめ的に取り締まられてしまった方については、報道等でやり玉に挙げられることで必要以上の社会的制裁を受ける可能性があります。
確かに賭博罪は違法行為ですが、他の犯罪行為と違って実質的な被害があるわけでもないことから、刑事罰を科す目的は『本人の更正を促すこと』にあります。
しかし、必要以上の社会的制裁は本人の社会復帰を困難にさせ、かえって更正の機会を失うことにつながりかねません」(同上)
「逮捕・送検された人」=前科者?
そもそも、SNS上などでは「逮捕・送検された人=犯罪者」と捉えている投稿も散見される。たとえば、「JO1」の鶴房さんが書類送検された際には、「推しグループが前科ありグループになっちゃった」などと嘆くファンも見受けられた。
しかし、この表記は少なくとも今の時点では正確ではない。前科とは、過去に懲役・禁錮・拘禁・罰金などの有罪の確定判決(執行猶予も含む)を受けたことがある経歴のことだからだ。
堀田弁護士も「逮捕・送検とは、警察や検察などの捜査機関が犯罪事実の有無等を確認する作業に過ぎず、この時点では刑罰を受けたことにはなりませんので『前科』とは言えません」と強調する。
前歴は“重要な秘密”
一方で、捜査機関によって犯罪の容疑をかけられ、捜査の対象となった経歴のことは「前歴」と呼ばれる。本来この前歴は「前科と異なり、捜査機関が厳重に管理している重要な秘密で、一般に公開されることはありません」と堀田弁護士は話す。
しかし、有名人などに対する“見せしめ的”な取り締まりではこの「前歴」が明らかになることで、当人たちが必要以上の社会的な制裁を受けてしまうという。
「芸能人の方については、仮に刑罰を受けることがなくとも、書類送検されたことを報道された時点で、SNS等を通じて『犯罪者』というレッテルを貼られて情報が拡散されてしまいます。
コンプライアンスが重視される昨今の情勢では、前歴の発覚が芸能生活にマイナスに作用することは避けられないかと思います」(堀田弁護士)
堀田弁護士の指摘の通り、夕刊娯楽紙である「東スポ」は、山本賢太アナウンサーについて、フジテレビ局内関係者の話として「この先、アナとして復帰するのは難しい」という発言を取り上げている。JO1の所属事務所「LAPONEエンタテインメント」も、鶴房さんが当面の間活動休止すると発表した。
逮捕・送検された人たちは今後どうなる?
オンラインカジノの利用で送検された人たちは、今後どうなるのか。すでに送検されている山本アナウンサーや鶴房さんについて、堀田弁護士は「担当検事が警察から送致された記録を確認し、追加の捜査等を行った上で起訴または不起訴処分の判断をすることになる」と説明する。
「起訴される場合は罰金(略式命令)となるかと思います。しかし、賭博の回数が数えられる程度で、かつ1回当たりの賭け金が少額であれば、初犯の場合は本人の反省が認められれば不起訴処分となる可能性も十分にあります。
しかし、賭け金が高いと頻繁に賭博を行っていた可能性が高く、その場合は常習賭博の疑いで捜査が行われる可能性があります。その結果、犯行態様(賭博の種類、実施の頻度、賭け金の額など)によって常習性が認められてしまうと初犯でも執行猶予がつかずに実刑(3年以下の拘禁刑)となるおそれがあります」(同上)
これまでには、お笑いコンビ「ダイタク」の吉本大さん、「ダンビラムーチョ」の大原優一さんら吉本興業所属のお笑い芸人6人が5月22日に略式起訴されている。
一方で書類送検されていたプロ野球・読売ジャイアンツのオコエ瑠偉選手と増田大輝選手、オリックスの山岡泰輔選手らは不起訴処分となっている。オコエ選手は約700万円、増田選手は約300万円、山岡選手は2万7000円を賭けていた。