
最低賃金を全国一律制にし、時給1500円に引き上げるよう訴えた。
最賃全国平均1500円へ、石破政権「たゆまぬ努力継続」
最低賃金制度は、労働条件の改善や生活の安定を図ることを目的としたもの(最低賃金法1条)。最低賃金は、地域別に「労働者の生計費」「類似の労働者の賃金」「通常の事業の賃金支払能力」の3つの要素(「法定3要素」とよばれる)を総合的に勘案して定められなければならないとされている(最低賃金法93条2項)。
厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会では毎年6~7月ごろに、最低賃金の引き上げ額の目安を議論。中央最低賃金審議会が提示する目安を受けて、各都道府県の地方最低賃金審議会(地賃)が、地域の実情等を踏まえ、最低賃金を決定している。
昨年発足した石破政権は、最低賃金を「2030年代半ばまでに全国加重平均で1500円に引き上げる」という従来の政府目標の達成時期を「2020年代」へと前倒しするとしてきた。
実際、今年6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太方針)2025」では以下のように記載されている。
「最低賃金については、適切な価格転嫁と生産性向上支援により、影響を受ける中小企業・小規模事業者の賃上げを後押しし、2020年代に全国平均1500円という高い目標の達成に向け、たゆまぬ努力を継続する」
中小企業からは負担の声
ただ、2020年代中の目標達成には今年度から毎年平均7.3%の引き上げが必要であり、日本商工会議所は3月5日「2025年度より7.3%引き上げとなれば、地方・小規模企業の2割が『休廃業を検討』」「地方・小規模企業の4社に1社が新たな政府目標(2020年代に全国加重平均1500円)に『対応不可能』」との調査結果を発表。4月17日に発表した「最低賃金に関する要望」でも、次のように中小企業の負担の声を述べている。
「例年、地域別最低賃金は、各都道府県の地賃での改定決定後、ほとんどの都道府県で10月1日前後に発効するプロセスとなっている。最低賃金引き上げの影響を受ける労働者が増える中、各企業は2か月程度で対応せざるを得ず、多くの中小企業から負担の声が聞かれている。
また、年度途中での賃上げに伴う価格転嫁も容易ではなく、原資の確保に向けても各企業の十分な準備期間を確保することが必要である。こうした状況を踏まえ、改定後の最低賃金については、指定日発効等により全国的に年初めまたは年度初めの発効とすべきである」
「生計費主導の審議」求める声
この日会見に参加した出席者ら
全労連の黒澤幸一事務局長は、法定3要素の中でも「生計費」主導の審議をするときが来ているとして以下のように述べた。
「これまでは、企業の支払能力ありきで『いくらなら上げられるのか』『物価が前年よりいくら上がったのか』といった審議が中心でした。
しかし、それでは引き上げ額は低水準になってしまいます。生活に最低限必要な生計費、これを賄える最低賃金を実現するために、必要な対策をとる必要があるのではないでしょうか。
それからもう一つは、地域別の賃金を辞め、全国一律制にする法改正を実現する必要があると思います。同じ仕事なのに、働く地域で大きな賃金差が生まれる。この賃金格差が人口の偏在を産んでいると私たちは考えています。
これをしっかり是正させていくためには、ベースである最低賃金を全国一律にしなければなりません。そのためには法改正が必要ですので、こうした審議・答申を中央最低賃金審議会にはお願いしたいです」
また、この日会見に出席した全労連の秋山正臣議長は「政府が最低賃金の引き上げに向けた姿勢を明らかにしたというのは歓迎したいと思う」としつつ、次のように訴えた。
「低賃金と物価高騰で生活に困窮する労働者の実態と、私たちの要求からすれば、この政府方針は不十分と言わざるを得ません。
その上で、中央最低賃金審議会に対し、3点要望します。
1点目は、法定3要素に固執するということは、政府目標の達成はおろか、最低賃金の大幅引き上げを困難にしますので、3要素にこだわらない、大胆な決断を求めたいです。
2点目は、全国一律制度の実現です。地域間格差を解消するため、道筋を示すよう求めます。
最後に、すべての審議を公開するよう求めます。知る権利の観点からも、審議の全面的公開を行うべきです」
「参院選での公約・争点化を」
また、この日集まった出席者からは以下のような意見も上がった。「物価が上がり続けているが、現在の低い最低賃金のせいで、育ち盛りの子どもにごはんのおかわりを我慢させなければならない家もでてきている。このような事態は異常ではないか」
「賃上げが中小企業にとって負担になることは間違いない。社会保険料の軽減など、中小企業支援策も併せて要請していきたい」
「審議会の一部は“密室”での協議となっており、情報公開がされていない。これでは行政の事後的な検証ができない」
こうした意見を踏まえ、黒澤事務局長は「最低賃金の全国一律化と1500円以上への引き上げを参院選での公約に掲げ、争点にしてほしい」と述べた。
なお、全労連の調査によると、6月30日時点で発表されている、各党の最低賃金に関する公約は以下の通りだという。
- 自由民主党:2020年代中に1500円達成を目指す(企業支援策付き)
- 立憲民主党:全国で早期に1500円以上(中小企業支援前提)
- 日本共産党:すみやかに1500円、最終的に1700円目標(全国一律制)
- 社会民主党:全国一律1500円の早期実現
- れいわ新選組:全国一律1500円導入(補助金・社会保険料減免で補填)
- 公明党:5年以内に全国加重平均1500円
- 国民民主党:全国どこでも時給1150円以上を早期実現
- NHK党:最低賃金引き上げなど労働市場への過度な介入に反対
- 日本維新の会:最低賃金に関する記述なし
- 日本保守党:最低賃金に関する記述なし
- 参政党:最低賃金に関する記述なし