今年7月5日に日本で大災害が起こるという“うわさ”がインターネットを介して世界的に広まっている。
この“うわさ”のきっかけは、たつき諒氏による漫画『私が見た未来 完全版』(2021年/飛鳥新社)とされている。

もともとは1999年に出版された漫画で、表紙に「大災害は2011年3月」と書かれていた。これが「東日本大震災の発生を予言していた」と話題になり、その後2021年に完全版として再度出版に至った。
完全版には、今年7月に日本で大災害が発生するという新たな“予言”が盛り込まれた。漫画の内容はたつき氏が見た夢をもとに描かれているといい、本書の中にも「2025年7月に壊滅的な津波が日本を襲う夢を見た」「夢を見た日が実現化するならば、次にくる大災難の日は『2025年7月5日』」と記されている。
なお7月5日はたつき氏がこの夢を見た日付で、後に出版された自著の中では「過去の例から『こうではないか?』と話したことが反映されたようで、私も言った覚えはありますが、急ピッチでの作業で慌てて書かれたようです」「夢を見た日=何かが起きる日というわけではない」と釈明している。

観光業界に打撃…個人への影響も?

当初はあくまで“オカルト的”に楽しまれていたうわさ話だったが、インターネットを通じて世界的に影響をもたらし始めた。
特に、風水等を重んじる傾向が強いという香港では、有名な風水師による「今年の夏に日本で大地震、大津波が起こる」という発言も加わり、現地のテレビ番組などの大手メディアでもこのうわさ・予言が取り沙汰され広まったようだ。
新聞各社の報道等によれば、香港と日本を結ぶ航空機の減便、運休なども出ているという。また、6月24日に行われた大阪観光局の記者会見で同局の理事長は、風評被害にまでは至っていないとしつつも、「7月分の旅行予約について一部キャンセルが出ている」と述べている。
個人レベルでも、たとえば不安のあまり旅行の予定をキャンセルしたり、逆に日本を離れる旅行を計画したり、精神的に不安を感じたりしている人もいるかもしれない。
各方面に影響をもたらしている予言だが、Xデーとされる7月5日や7月中に何も起こらなければ…。たとえば、うわさによって精神的な不安や経済的な出費(旅行など)などの実害を被った人たちは、予言者や発信者、拡散者に対して慰謝料や損害賠償請求を検討するのは現実的なのだろうか。

予言や占い、当たらなければ損害賠償請求可能?

民事事件に多く対応する三木悠希裕弁護士は、「うわさや予言が当たらなかったことを理由として、予言した人や、うわさの発信者・拡散者が損害賠償責任を負うことは考えにくい」として、次のように説明する。
「予言や占いなどは、一般的には、個人の思想や表現として尊重されるものですし、『当たるも八卦(はっけ)、当たらぬも八卦(はっけ)』というように、当たらない可能性があることは一般常識として広く知られています。

そのため、たとえ当たらなかったとしても、通常は、違法性がなく、また損害との間に相当因果関係が認められないため、損害賠償請求も認められないということになるでしょう」

ただし「勧誘行為」は不法行為となる場合も?

一方で、この騒動に乗じる形での勧誘行為等は、場合によっては不法行為となる可能性があるという。
「霊感等による予言として、命や健康、財産に損害が生じるというような不安をあおったり、相手がそのような不安を抱いていることを利用して、勧誘をしたり寄付や契約を求めたりする行為は、2023年6月1日に施行された、いわゆる『不当寄付勧誘防止法』に抵触する場合があります。
万が一、このような勧誘などに遭い、金銭を要求され支払ってしまったという人がいれば、同法や消費者契約法に基づき意思表示を取り消し、返還を請求できる可能性があります。消費生活センターや弁護士に相談いただいた方が良いでしょう」

程よく「『外れて良かったね』と言えるくらい」に

その上で三木弁護士は、うわさはあくまでオカルト的な娯楽の一つとして楽しむ程度にすべきとくぎを刺す。
「あまりのめり込みすぎず、外れても『外れて良かったね』と言えるくらいが、こうした『うわさ』との程よい距離感だと思います。あるいは、災害等への備えをするきっかけとするのも良いと思います」
気象庁の野村竜一長官は6月13日の定例会見で「現在の科学的知見では、日時と場所、大きさを特定して地震を予知することは不可能。根拠のない情報で振り回されている方々がいるということ自体、残念に思う」と述べた。
必要以上の心配は無用とはいえ、災害はいつどこで起きるかわからない。だからこそ、ことさらに不安を感じずに済むよう日頃からの防災対策への心がけは必要かもしれない。


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