「住んでいる市で2万2500円違う」生活困窮家庭の就学援助“入学準備金”に地域格差…隠れ教育費の“重荷”課題
「義務教育は、これを無償とする」
日本国憲法にはこう記されているが、実際、ひとりの子どもを公立小中学校に9年間通わせた際の保護者負担は数十万円に上る。
「隠れ教育費」とも呼ばれる、この“見えない支出”について、保護者が声をあげれば「子どもにかかるお金は親が払うのが当然」という言葉が飛んでくる。
たとえ生活が苦しかったとしても、払わないような人がいれば批判を浴びることになるだろう。
しかし、「隠れ教育費」を支払うことは、本当に誰もが納得している事象なのか――。
この連載では、本来無償であるはずの義務教育において、実質的に保護者が負担している支出の実態に迫る。第3回では、各自治体が整備する「就学援助制度」が十分に機能していない問題を取り上げる(連載第1回はこちら/全5回)
※この記事は栁澤靖明氏・福嶋尚子氏による書籍『隠れ教育費 公立小中学校でかかるお金を徹底検証』(太郎次郎社エディタス)より一部抜粋・構成。

就学援助制度だけでは就学を保障できない

憲法や法律に示された考え方にのっとれば、学校運営費は基本的に「公費」で負担されなくてはならないのは明らかだ。しかし実際には、「私費」負担されている学校運営費は多く、家庭の経済状態によってはそれを負担できない、ということもある。そんな家庭のために、法律にもとづいて各自治体において就学援助制度というものが整えられている。
就学援助制度の建前は、「学校で勉強するために必要な費用を援助する制度」である。学校教育法第19条に定められ、市町村が運用している。
援助対象は「経済的理由によつて、就学困難と認められる」子どもを養っている家庭とされているが、多くの自治体では客観的な判断基準として「保護者の所得」を採用している。
所得が一定水準に満たない場合は、学校給食費や学用品費、修学旅行費、入学準備費用などを自治体が援助してくれるのだ。魅力的で理にかなっている制度に思えるかもしれない。
しかし、自治体によって援助項目や費用が異なる。
次の表では、埼玉県川口市と神奈川県横浜市を比較している。
「住んでいる市で2万2500円違う」生活困窮家庭の就学援助“...の画像はこちら >>
この制度の課題として、制度じたいの周知が徹底されていないこと、自治体によって運用の差が大きいことなどがある。加えて、援助費用も自治体によっては十分とはいえない。
公立の小学校・中学校で、保護者が一年間に負担する学校費用の金額と、この就学援助費を年額(いずれも平均)で比べてみたのが下の表だ。
「住んでいる市で2万2500円違う」生活困窮家庭の就学援助“入学準備金”に地域格差…隠れ教育費の“重荷”課題
就学援助はあくまでも「援助」であり、すべての費用が「無償」となる必要はないという反論があるかもしれない。しかし、比較した部分はあくまでも「目に見えやすい私費」である。
裏を返せば、学校が集金している金額、指定している物品購入だけでも、就学援助費だけでは足りない。このほかに文房具などの買い替えや持参品といった、学校からは「見えにくい私費負担」も存在している。
また、ここにあげた年平均負担額8万4700円~14万900円は、所得にかかわらず一律に徴収されたり、購入すべきとされるものの費用(いわゆる応益負担)であり、家庭の経済能力によって、家計に占める割合は当然違ってくる。
保護者の「普通教育を受けさせる義務」とセットで語られる「無償性」は、いわば周回遅れで並走している状態だ。応能負担の一助を担うはずの就学援助制度も十分とはいえない。

このような状況を考慮しながら、学校の〈モノ〉と〈コト〉にかかる費用を客観的にとらえ、その問題性について理解を深めてほしい。そして、子どもたちの教育を受ける権利を保障するため、費用負担のあるべき論に思いをめぐらせてほしい。
※2025年現在、川口市の就学援助制度による入学準備費は小学校54,060円、中学校63,000円に引き上げられています。横浜市の入学準備費も2%ほど上がっていますが、両市の差は減っています。
(#4に続く)


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