
報道によれば、容疑者は学校の様子を知らせる「学校だより」の制作担当で、「学校のデジタルカメラで撮影した」と供述しているという。つまり、立場を悪用し、業務のふりをして平然と性的画像を撮影していたことになる。
教員の盗撮は「氷山の一角」
「今回、教員がグループで盗撮画像を共有していたことなどから衝撃をもって伝えられていますが、私にすれば、これが実態です。残念ながら氷山の一角といわざるを得ません。私は学校関係者から防止の対策について相談も受けますが、現状では『対策はありません』と答えるしかないんです」こう驚きの実情を明かすのは、一般社団法人全国盗撮犯罪防止ネットワーク代表理事の平松直哉氏だ。同氏は2000年から盗撮犯罪の実態調査をスタートし、盗撮犯罪と向き合ってきた。
直近で報じられた教員による盗撮、わいせつ事案
2005年には自民党の世耕弘成議員が議員立法で国会提案した「性的盗撮防止法案」において、盗撮防止につながる意見や提言を、経験をもとに議員に直接行うなどしたが、結局、法案が日の目を見ることはなかった。それだけに平松氏は2023年7月施行の「性的姿態撮影等処罰法」(撮影罪)についても失望感をあらわにする。
「私にすれば、性的盗撮防止法案のこともあり、撮影罪の内容についてはがっかりしています。一番の問題は、現場を知る者の声がほとんど反映されていないことです。
性的盗撮防止法案のときは当時の担当議員に、医師や教師、警察等、業務上の立場を利用した盗撮等性犯罪の厳罰化や、撮影現場を管理する者に対する責任の明確化なども提言しました。
被害者目線も不可欠です。
あの時、私どもの意見が法律に取り入れられていれば、ここまでの盗撮被害が拡大するのは防げたと思っています…」
防止策はあるのか
教員や保育など子どもに接する仕事に就く人については、その性犯罪歴の有無を確認する「日本版DBS」が2026年12月に運用スタートの予定で、年内にもガイドラインがまとめられる方針が明らかになっている。この日本版DBSについても平松氏は「そもそも、『子どもに接する仕事に就く」と限定する必要はないでしょう。個人情報保護や人権に配慮してか、現状では抜け穴がだらけといえます。たとえば氏名については、氏と姓を段階的に変えることも可能です。そうやってすり抜けてしまう人物を特定するには、最終的には衛星利用測位システム(GPS)しかないと思います」と指摘する。
教員については「教員職員等による児童生徒性暴力等に関する法律」が2022年3月から施行されている。これについても、平松氏は「公立校であれば教育委員会もあり、ある程度の機能も期待できますが、私学ではほぼ隠ぺいされてしまいます。そもそも教員を目指す一定数に性的嗜好が動機の人間もいますから、学校で性犯罪を防ぐのは極めて困難といえます」と実情を明かす。
盗撮犯の心理とは
盗撮犯と接触したこともあるという平松氏はさらに、盗撮加害者の信じられない心理を次のように明かす。「彼らは、『自分は絶対にバレない』と不敵なまでに自信に満ちあふれています。今回のような事件が明るみなると、『バカだな、もっとうまくやらないと』と軽蔑するんです。こうした心理を理解していないと、いくら法律をつくって、罪を重くしてもほとんど効果は期待できないでしょう」
盗撮撲滅に半生を捧げる平松氏のような動きがなかなか広がらない実情もある。現状では、平松氏の団体のほか、2団体しか存在しないという。
「支援する企業や民間の寄付などが少ない一方で、調査には少なくない費用がかかります。運営していくための最低限の利益が得られないとなれば、やむなく撤退していきます。信念、情熱、そして執念がないと続けていけないんです」
一方で、昨今は盗撮をする側にとっては、これまでよりやりやすい環境がそろっている。
たとえば、スマホの浸透、カメラの小型化といった技術面の進化。ネット上での売買環境の確立。被害者の声のあげづらさ、シグナルなどの悪用による証拠隠滅のしやすさ、立証の難しさなど、加害者にとって有利な状況になりやすい犯罪特性も撲滅をほど遠くする要因だ。
法律一元化が必要な理由
絶望的な状況といえるが、平松氏が現状で必要な手だてとして声を大にするのが、法律の一元化だ。「撮影罪はじめ、盗撮関連の法律はいくつかありますが、全てをまとめて一元化しなければ意味がありません。なぜなら、盗撮行為を単に罰するだけでは、また加害者は同じ犯罪を繰り返すからです。
たとえば盗撮に使用するカメラの販売規制に始まり、証拠となる盗撮画像の追跡が可能になる体制の構築、盗撮犯のトレースの徹底など、盗撮が実際に起こっている背景にまで踏み込んで、まさに根絶やしにするくらいの姿勢で対処しないと、撲滅はほど遠いでしょう。
その実現のためには、警察はもちろん、法学者、心理学者、デジタル解析の専門家、現場を知る者、被害者など多様な声を取り入れ、現状の穴を埋めつつ包括する必要があります。
関連する条例もなくし、盗撮等に関しては穴のない法律で一本化する。