半導体大手「ルネサスエレクトロニクス」(本社・東京都江東区)が進める「指名解雇」計画と2025年春の定期昇給見送りに対し、電機・情報ユニオンが2日、都内で記者会見を開き撤回を訴えた。
同社は2023年度には1兆4694億1500万円、2024年度には1兆3484億円7900万円の売上高を上げており、営業利益率でも2023年度は26.6%、2024年度では16.5%と好業績が続いている。

同ユニオンの森英一書記長は、多くの電機大手企業が黒字となっていることを踏まえ、次のように警鐘を鳴らした。
「ルネサスによる『指名解雇』が実現すれば、すでに一部で広まりつつある『黒字であってもリストラをしていいんだ』という空気が、より一層業界内に広まり、電機産業全体の雇用を脅かすことになります」

「海外半導体企業との厳しい競争に勝つため」と説明

ルネサスの柴田英利社長兼CEOは2024年11月18日、全社員向けのメッセージで、5%未満程度(約1000人)の人員削減と2025年4月からの定期昇給見送りを通知。
この施策が社外に公表されることはなく、社員に対しても「情報を漏えいすることは、会社規則に抵触する」と“かん口令”が敷かれていたことから、ユニオン側は「暗闇リストラ」だと主張している。
ルネサス側は電機・情報ユニオンとの団体交渉の際、この人員削減と定期昇給見送りの理由について、「海外半導体企業との厳しい競争に勝つためには、人員削減と定期昇給見送りは必要」と説明。
同様の説明は先述した、全社員向けメッセージにも記載されていたが、ユニオン側は「具体的、定量的な説明が行われておらず、説明責任をはたしていない」と反論している。

「会社が期待していない人」と「コミュニケーション」実施

また、電機・情報ユニオンによると、この人員削減は対象者を指名し、被指名者との「コミュニケーション」と称した面談を通じて行われているという。
さらに、ユニオンが、被指名者の選定理由・条件について説明を求めたところ「会社が期待していない人」との回答があったといい、森氏は「この『指名解雇』リストラでは被指名者の人権を侵害する違法な退職強要面談が頻発している」と訴えた。
実際、ユニオンには「10回の『コミュニケーション』を受けて退職を選択した」「部門廃部の説明後、配置転換希望を拒否され継続面談を強要された」「上司からの話に嫌気が差し、退職する」といった声が寄せられているという。
「電機産業では、2011年からの14年間で、90万人を超える労働者が職場を追われています。
ですが、その際には早期退職募集あるいは希望退職募集の仕組みが採られてきました。
これらの場合は、大枠として、一定年齢以上の、あるいは○○部門の労働者を対象にする、と会社側が設定しますが、最終的には労働者が退職するかどうかを選択できる形になっていました。
一方、ルネサスが進めているのは、極めて高い業績をあげながら、整理解雇4要件(※)を無視するようなリストラです。
労働者の雇用を守るためにも、整理解雇4要件に準ずる規制や、『3回以上の個別面談は退職強要面談に該当する』などの法規制が必要なのではないでしょうか」(森氏)
※ 企業が経営不振や事業縮小などの理由で従業員を人員削減目的で解雇(リストラ)する際に、「解雇の有効性」を判断するための基準のこと。(1)人員削減の必要性(2)解雇回避の努力(3)人選の合理性(4)解雇手続きの妥当性の4点を満たさなければならない。

「なんとか社会・世論に訴え、リストラを食い止めていきたい」

冒頭で述べた通り、ルネサスの業績は好調であり、ユニオンによると2024年度には1兆円以上の内部留保があるという。
「昨年から今年にかけて、政界、財界、労働界はそろって、『物価上昇を上回る賃上げ』の実現を訴えています。
ルネサスが抱える内部留保の、ほんのわずかでも切り崩せば、定期昇給分をねん出することは優に可能だったはずです。
労働者の人権を守るためにも、電機産業で働く、すべての労働者の雇用を守るためにも、なんとか社会・世論に訴え、ルネサスのリストラを食い止めていきたいです」(森氏)
なお、弁護士JPニュース編集部ではルネサスエレクトロニクス社にもコメントを求めたところ、同社の広報担当者が応じ、以下のようにコメントした。
「変化の激しい事業環境に対応するため、ルネサスは常日頃から組織構造や人員構成について検討・見直しを行なっています。
今回実施の施策は、ルネサスの成長戦略の実現に向け、継続する市況の軟化を踏まえ、より一層焦点を絞り、長期的に発展するための体制強化を目的としたものです。
施策の実施にあたっては、対象となる従業員の尊厳を最大限尊重しています」
わが国の労働法制の下では、整理解雇でさえ上述の4要件が要求されている。ましてや業績が好調な下で、「成長戦略」などを理由にリストラ、定期昇級見送りが容易に認められることは、労働者の地位を著しく不安定にし、わが国の労働法制ないしは企業内部の就業規則等の客観的ルールをないがしろにするのみならず、労働者の勤労意欲を削ぐ結果になることは明らかである。
電機・情報ユニオンでは今年の2月12日以降、これまでに4回の団体交渉を重ねてきたが、7月22日にも第5回の団体交渉を予定しているという。
ルネサス社には、今後、上記コメントにある「長期的に発展するための体制強化」「従業員の尊厳を最大限尊重」という言葉がどのようなものか、といった点について、明確かつ具体的で説得力ある説明が求められるといえよう。


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