その岩見沢市にある消防事務組合の職員ら24人が、「特殊勤務手当などが未払いだ」として、組合側に3300万1000円の損害賠償を求めて提訴した。
手当は条例で規定
本件の「事務組合」とは、2以上の市町村が消防事務を共同して処理する、いわゆる広域の消防体制の中で、事務業務を行う組織をいう。ホームページによると、事務組合は1972年に設立。当初は岩見沢市と近隣する月形町、旧栗沢町、旧北村の1市2町1村で構成されていた。2006年3月に旧栗沢町と旧北村が岩見沢市と合併したことから、現在は岩見沢市と月形町で組織している。
岩見沢消防署によると、この事務組合では約150名の消防員が配置されているという。
では、なぜ裁判になるほどのことが起きてしまったのだろうか。
消防事務組合には、働く職員の給与について定めた「岩見沢地区消防事務組合一般職員の給与に関する条例」というものがある。
条例には扶養手当や通勤手当など、職員に支給される手当について細かく規定されており、本件で問題となった「特殊勤務手当」は以下の通り定められている。
「著しく危険、不快、不健康または困難な勤務その他著しく特殊な勤務で、特に考慮を必要とし、かつ、その特殊性を給料で考慮することが適当でないと認められる業務に従事する職員には、その勤務の特殊性に応じて管理者が規則で定めるところにより特殊勤務手当を支給する」(同条例第13条)
「特殊勤務手当」の具体例
消防職員は、火災や災害時に消火活動や救助活動を行うだけでなく、救急車に乗って救急隊員として活動することもある。その消防職員の「特殊勤務手当」は、例えば火災などで出勤した場合、1回につき350円、救急出動の場合は1回250円、高所作業が必要な業務の場合は1回300円が支給される。
「特殊勤務手当に関する規則」に規定がある手当の詳細は、下記の通り。
- 火災等災害出動手当=火勢鎮圧以前の火災状態にあって、その構築物の中に進入し消火活動を行った職員や、危険物貯蔵施設の火災現場で爆発のおそれがある消火、救助活動を行った職員ら(1回につき350円)
- 救急出動手当=重症以上の傷病者に対して蘇生措置を行った職員や、第1類~第5類の感染症と診断された救急患者を搬送した職員ら(1回につき250円)
- 高所作業手当=3階以上ではしごを使用し活動した職員(1回につき300円)
- 夜間特殊業務手当=交代制勤務が主な職員で、夜10時から午前5時までに災害対応のため4時間以上勤務した場合。消火、救助活動や通信勤務に従事、救急現場活動を行った職員(日額400円)
原告「未払手当を支払って」、組合側は反論「基準に達していない」
上述したようにさまざまな特殊勤務手当が規定されているが、原告側24人は「一部の手当が未払いになっている」と主張し、3300万円の損害賠償を求めて、2024年5月13日に訴訟を提起。同年9月上旬、札幌地方裁判所で、初めての期日が設けられた。
原告のひとりは意見陳述のなかで、「(支払われていない)手当は(本来なら)保障されるべき。このままだと消防職員の士気低下にも関係してくる。それは住民にも関わってくる話だ。(消防という)人命にかかわる活動をするうえで、精神的な負担は通常の給与の範囲を超えている」などと述べている。
また、原告側は、休日勤務手当も未支給になっていると主張。
原告側の主張に対し、組合側は休日勤務手当が未支給であることは認めつつ、「その他の手当は基準を参照してしっかりと支払っている。(特殊勤務手当については)そもそも支給基準に達していない」などと反論し、原告側に請求の棄却を求めた。
原告側の代理人弁護士によると、今年6月下旬に行われた非公開協議により、次回期日は7月28日に決定。
また、筆者の取材に「引き続き、夜間勤務に対しての特殊手当や休日勤務手当に関する主張を行う予定だ」と回答した。
一方、筆者は被告(組合)側の代理人弁護士にも問い合わせたが、「対応できない」と回答を断られている。
■小林英介
1996年北海道滝川市生まれ、札幌市在住。